最終話 たぶん、これからも
★たくさんの人にお読み頂き感謝です♪
告白シーンをアニメ化してみたのでよかったら見てね(≧∇≦)キュンキュンするよ。
https://www.instagram.com/reel/DZe9IXDpjRV/?igsh=djFvbWV1eHY0d250
「…………」
無理。
エルマは静かに本を開いたまま、心の中で崩れ落ちていた。
午後の図書棟。
いつもの閲覧席。
そして隣には――カイルがいる。
近い。
近い近い近い近い。
無理無理無理無理無理。
ページが一行も頭へ入ってこない。
その隣で。
カイルは、そんなエルマを横目で見ながら、小さく笑った。
最近ようやくわかってきた。
エルマは、本当にわかりやすい。
自分が近づくと赤くなるし。
目が合うと固まるし。
逃げようとして、でも逃げきれない。
しかも最近は。
ちゃんと隣にいる。
それが、妙に嬉しかった。
遺構へ行く前なら、きっとこうはならなかった。
エルマはすぐ距離を取って。
視線を逸らして。
図書棟の奥へ逃げ込んでいたはずだ。
でも今は違う。
真っ赤になりながら。
限界になりながら。
それでも隣にいる。
その事実が、胸の奥をじんわり熱くする。
「……エルマ」
「ひゃい!?」
また声が裏返った。
カイルが吹き出す。
「ははっ」
「わ、笑わないでくださいぃ……」
「悪ぃ。でも」
少しだけ目を細める。
「その反応、俺ちょっと好きなんだよな」
「――――――」
思考停止。
エルマの脳が真っ白になる。
無理。
無理無理無理無理。
今の破壊力は本当に無理。
「な、なんでそんなこと急に言うんですかぁ……!!」
「いや、最近ずっと思ってた」
カイルは普通に言う。
普通に言うな。
そんな爆弾を。
「お前、普段はちゃんとしてんのに、俺いるとすぐ限界になるだろ」
「〜〜〜〜〜っ!!」
「それ見ると、なんか構いたくなる」
やめて。
本当にやめて。
好きが悪化する。
エルマは本を抱え込むみたいに胸へ押しつけた。
耳まで真っ赤だった。
すると。
カイルがふと、エルマの横顔を見る。
銀縁眼鏡。
淡い魔導刻印。
昔からずっと掛けているそれ。
「……でもさ」
「っ……はい」
「眼鏡掛けてても掛けてなくても、お前ってすぐわかるよな」
エルマが止まる。
「…………ぇ」
カイルは少し考えるみたいに言葉を探した。
「雰囲気、かな」
「雰囲気……?」
「本読んでる時とか」
「黙ってる時とか」
「あと、俺見て固まってる時」
「やめてくださいぃぃぃ!!」
カイルが笑う。
楽しそうだった。
本当に。
「昔から、“ああエルマだな”ってすぐわかった」
その言葉に。
エルマの胸が、小さく熱くなる。
隠れていたつもりだった。
眼鏡を掛けて。
本へ隠れて。
好きだってバレないように。
ずっと。
でも。
カイルは、ちゃんと見ていた。
昔から。
ずっと。
「……お前さ」
カイルが静かに言う。
「俺のこと見てる時、昔から全然変わんねぇよな」
「っ!!!!」
無理。
また直球。
最近本当に容赦がない。
「み、見てません……!!」
「いや見てるって」
「見てません!!」
「遺構が全部暴露してただろ」
「思い出させないでくださいぃぃぃ!!」
エルマは机へ突っ伏した。
死にたい。
十三歳時点の視線追尾記録を本人へ公開された傷はまだ深い。
カイルがまた吹き出す。
「ははっ」
その笑い声を聞きながら。
エルマはふと気づく。
昔なら。
こんなふうに笑われたら、逃げていた。
恥ずかしくて。
好きがバレるのが怖くて。
でも今は。
逃げていない。
隣にいる。
それが不思議だった。
そして。
少しだけ嬉しかった。
「…………」
カイルも、そんなエルマを見ながら思う。
多分。
自分はもうかなり前から、こいつを特別扱いしていた。
図書棟で見つけると話しかけたくなって。
逃げられると追いかけたくなって。
赤くなると嬉しくなって。
限界になってるのを見ると、放っておけなくなる。
そして今。
隣にいるだけで、妙に落ち着く。
「……エルマ」
低い声。
近い。
「っ……はい」
「俺、お前が隣いるの、好きなんだと思う」
「――――――」
再び思考停止。
エルマの呼吸が止まりかける。
「ぇ……」
カイルは少しだけ照れたみたいに笑った。
「遺構行く前から、多分そうだった」
頭を掻く。
珍しく、少しだけ言葉を探していた。
「お前いると落ち着くし」
「ぅ……」
「逃げられると気になるし」
「っ……」
「最近は、ちゃんとこっち見てくれるし」
そこで少し笑う。
優しい笑い方だった。
「だから、もう離したくねぇなって思ってる」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
エルマの顔が限界まで赤くなる。
無理。
無理無理無理無理。
今のは駄目。
心臓が保たない。
「……エルマ?」
「…………」
エルマは、震える指で眼鏡へ触れた。
昔からずっと掛けていた。
隠れるための眼鏡。
見られないための眼鏡。
自分を守るための眼鏡。
ゆっくり外す。
銀縁が、かすかに午後の光を反射した。
現れた灰青色の瞳を見て、カイルが少しだけ目を見開く。
やっぱり綺麗だ、と。
驚くくらい自然に思った。
エルマは真っ赤なまま、小さく俯く。
「……もう」
声が震える。
「もう、カイルだけ見えてれば……いいので……」
「っ」
静かな図書棟で。
カイルの呼吸が、一瞬止まる。
その顔を見た瞬間。
エルマは完全に限界だった。
言ってしまった。
言ってしまったぁぁぁぁ!!
近い近い近い近い!!
無理無理無理無理無理!!
すると次の瞬間。
ふわり、と。
頭へ何かが触れた。
「っ!?」
エルマが跳ねる。
振り向けば。
カイルの手が、そっと頭に乗っていた。
近い。
近い近い近い近い!!
無理無理無理無理無理!!
カイルは困ったみたいに笑う。
でも。
その目だけは、すごく優しかった。
「それ言われたら、もう絶対離せねぇだろ」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
エルマの顔が爆発する。
その時だった。
「失礼します」
静かな声。
「ぎゃあああああっ!!」
エルマが飛び上がった。
入口には、書類束を抱えたクラリスが立っている。
いつもの完璧な無表情。
怖い。
「本日も大変良好な進展を確認しました」
「い、いつからいたんですか!?」
「“カイルだけ見えてればいいので”辺りからでしょうか」
「最悪だぁぁぁぁぁ!!」
カイルが吹き出す。
「ははっ!」
やめて。
笑わないで。
好きが悪化する。
クラリスは静かに頷いた。
「なお、エルマ様の顔面温度は現在過去最高値を更新しております」
「測らないでくださいぃぃぃ!!」
図書棟へ悲鳴が響く。
午後の光が、静かな図書棟へ差し込んでいる。
近い。
近い近い近い近い。
無理無理無理無理無理。
なのに。
もう、逃げなかった。
その横で。
カイルは、少しだけ笑う。
――たぶん、これからも。
エルマの心の悲鳴は、毎日響き続けるのだろう。
そして自分は、きっとその全部を、隣で聞いている。
そんな未来も、悪くないと思いながら。
―おわりー
★お読みいただきありがとうございました★
これにて、エルマとカイルのスピンオフは完結となります。お楽しみ頂けましたでしょうか?
途中エルマの告白すっ飛ばして遺構がバラしてしまうとか、エルマがかわいそうすぎる……
とか思われますが、10年思い続けていたメンタルの強さで打ち勝った感じですね。
よろしければ★★★★★などつけて頂くと嬉しいです。
また、本編はまだ手直しが必要なところが有ると思うのでちょこちょこ直していくと思います。
本編の第二部は構想を練りつつ、また別のお話を描く予定がありますので、その間ブクマ等してお待ちいただければ幸いです。
★『境界に眠る光』もよろしくお願いします。感動の物語です。
こちらはルティを子育てしてるつもりで書いてました(笑)




