表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染が近すぎて無理です‼️ (元傭兵のスピンオフです)  作者: くいたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/16

第15話 戻れない日常


王立騎士学院・中央図書棟。


午後の柔らかな光が、高い窓から静かに差し込んでいた。


長い回廊。


石造りの壁。


積み上げられた古い蔵書。


紙とインクの匂いだけが漂うその空間は、相変わらず学院の中でも別世界みたいに静かだった。


本来なら、エルマにとって一番落ち着ける場所のはずだった。


だが。


「…………」


今日は、全く落ち着かなかった。


表面上は、いつも通り無表情で本を開いている。


姿勢も完璧。


視線も自然。


傍から見れば、静かに読書をしている令嬢そのものだった。


……内面は違う。


全然違う。


(無理)


(無理無理無理無理)


(なんでいるんですか)


(なんでそんな自然に隣へ座ってるんですか)


(距離ーーーーーー!!)


今日は向かい側ではなかった。


隣だった。


終わった。


完全に。


カイルは何でもない顔で、借りてきた資料をめくっている。


騎士団遠征記録。


北方防衛線地図。


旧時代の戦術資料。


真面目に読んでいるだけなのだろう。


だが。


近い。


肩幅が近い。


ページをめくる音が近い。


呼吸まで聞こえそうな距離だった。


しかも今日は、クラリスがいない。


逃げ場がない。


誰も空気を割らない。


静かすぎる。


その沈黙だけで、エルマの心臓は限界だった。


「……エルマ」


「ひゃい!?」


声が裏返った。


終わった。


カイルが少しだけ眉を寄せる。


「……お前さ」


「は、はい」


「最近ずっとそんな感じだな」


あなたのせいなんですが。


とは、当然言えない。


絶対に言えない。


「だ、大丈夫です……」


「その“大丈夫”便利だな」


「っ……」


カイルが小さく笑う。


その笑い方が駄目だった。


最近、少しだけ優しい。


いや、前から優しかった。


でも今は違う。


どこか、ちゃんとこちらを見ている。


前みたいな完全無自覚じゃない。


それが一番危険だった。


「……今日は逃げねぇんだな」


「っ……」


息が止まりそうになる。


やめてほしい。


静かな図書棟で。


そんな低い声で。


そんな近距離で。


「に、逃げてません……」


「いや、逃げてただろ」


「逃げてません……」


反射だった。


カイルは困ったみたいに息を吐く。


それから、本を閉じた。


ぱたん、と静かな音が響く。


その音だけで、エルマの肩が小さく跳ねた。


「お前、俺が近づくとすぐ固まるし」


「ぅ……」


「顔赤くなるし」


「〜〜〜〜〜っ」


「視線逸らすし」


「…………」


全部見られている。


終わった。


人生が。


エルマは俯いたまま、本を抱え込むように握りしめた。


すると。


カイルが少しだけ声を落とす。


「……でも」


「っ……」


「嫌われてるわけじゃねぇんだよな」


その瞬間。


エルマの思考が止まった。


無理。


直球。


最近ちょっと直球が増えている。


本当にやめてほしい。


心臓が保たない。


「…………嫌い、では……ないです」


やっと絞り出した声は、自分でも驚くほど小さかった。


だが。


静かな図書棟では、それでも十分届いてしまう。


カイルが黙る。


その沈黙だけで、また心臓が暴れ始めた。


やめて。


黙らないで。


意識してしまう。


隣にいる。


近い。


体温が近い。


呼吸が近い。


全部近い。


「…………」


ふと。


カイルの視線が、エルマの横顔へ向く。


銀縁眼鏡。


淡い魔導刻印。


昔からずっと掛けているそれ。


「……なあ」


「は、はい」


「なんでそんな眼鏡外さねぇの?」


止まった。


空気が。


エルマの指先が、小さく震える。


「…………ぇ」


まさか、そこを聞かれるとは思わなかった。


カイルは、何気ない調子だった。


ただ疑問に思ったから聞いただけ。


そんな声音。


でも。


視線だけは、真っ直ぐだった。


「いや、昔からずっと掛けてるだろ」


「…………」


「そんな大事なもんなのか?」


エルマは答えられなかった。


喉が動かない。


代わりに、指先だけがそっと眼鏡へ触れる。


落ち着くから。


隠れられるから。


見られなくて済むから。


昔。


まだ小さかった頃。


眼鏡を外した時。


「変な目」


そう言われた。


怖い、と。


睨まれてるみたい、と。


ただ、それだけだった。


でも。


エルマには刺さりすぎた。


だから隠した。


ずっと。


「…………変、だからです」


ようやく出た声は、小さかった。


カイルが眉を寄せる。


「何が」


「目……」


俯いたまま、エルマは続ける。


「昔、変だって言われて……」


「…………」


「怖いって」


静かな空気が流れる。


遠くで、誰かがページをめくる音だけが聞こえた。


エルマは、誤魔化すように笑おうとした。


失敗した。


「だから、眼鏡掛けてると……落ち着くんです」


見られなくて済むから。


そう続けようとして。


そこで止まった。


カイルが、じっとこちらを見ていたから。


「…………」


真っ直ぐだった。


昔からずっと。


この人は、こういう目をする。


そして。


カイルは、ごく自然に言った。


「……俺、そっちの方が好きだけど」


挿絵(By みてみん)


「――――――」


思考が止まる。


呼吸も止まる。


「ぇ……」


「眼鏡ない方」


さらっと言う。


なんでもないことみたいに。


でも。


エルマにとっては、全然なんでもよくなかった。


「目、綺麗だし」


「っ!!!!」


終わった。


完全に。


エルマの顔が一気に赤くなる。


耳まで真っ赤だった。


無理。


無理無理無理。


今のは本当に無理。


「な、ななな……っ」


言葉にならない。


カイルは少し首を傾げる。


「……何でそんな反応なんだよ」


あなたのせいなんですが!?


その時だった。


「失礼します」


静かな声。


「ぎゃああああっ!!」


エルマが飛び上がった。


入口。


そこには書類束を抱えたクラリスが立っていた。


いつもの無表情。


怖い。


「ヴァレリア様から資料回収を頼まれておりまして」


「い、いつからいたんですか……!?」


「“目、綺麗だし”の辺りからでしょうか」


「最悪だぁぁぁぁぁ!!」


カイルが思わず吹き出す。


「ははっ!」


やめて。


笑わないで。


好きが悪化する。


クラリスは静かに頷いた。


「本日、非常に良好な進展を確認しました」


「記録しないでくださいぃぃぃ!!」


図書棟へ、エルマの悲鳴が虚しく響き渡った。

お読みいただきありがとうございます♪

☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂くと、モチベーションが爆上がりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ