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幼馴染が近すぎて無理です‼️ (元傭兵のスピンオフです)  作者: くいたん


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第11話 「やめてくださいぃぃぃ!!」


深層領域は、静かだった。


青白い光だけが、巨大な空間を淡く照らしている。


床へ刻まれた多重術式。


天井まで伸びる古代文字列。


中央には、“第一管理塔”の紋章。


その前で。


エルマは、死んだ目をしていた。


「…………」


嫌な予感しかしない。


管理精霊は、そんな彼女を無機質な瞳で見下ろしている。


 


――第二試験を開始します。


 


「嫌です」


即答だった。


 


――候補個体の精神深度を測定。


――認識核への接続を開始します。


 


「待ってください」


エルマが反射的に一歩下がる。


露骨に顔色が悪かった。


「それ、絶対ろくでもないやつですよね……?」


 


「なんだよその試験」


カイルが眉を寄せる。


 


――候補個体精神構造の解析を開始。


 


「聞いてください」


エルマの声が一段階切実になる。


「古代精神接続系術式って、だいたい碌なことにならないんです……!」


 


――感情定着率の高い記憶領域を抽出。


 


「やめてくださいぃぃぃ!!」


エルマの悲鳴が深層領域へ響き渡った。


クラリスは既に手帳を開いていた。


怖い。


 


――候補個体精神構造を確認。


――安定形成要因を解析します。


 


「安定してません!!」


 


――解析開始。


 


青白い光が、ゆっくりエルマを包み込む。


空気が変わる。


遺構全体が低く唸り始めた。


ゴゥン……


床の術式光が広がる。


その瞬間だった。


景色が、変わった。


 


「……え」


 


深層領域が消える。


代わりに現れたのは――


王立騎士学院・図書棟。


午後の柔らかな光。


静かな閲覧席。


紙とインクの匂い。


そして。


窓際で本を読む、少し幼いエルマ。


「ぎゃあああああああ!!」


エルマが崩れ落ちた。


「待って待って待って!!」


「何だこれ」


カイルが周囲を見回す。


管理精霊が淡々と告げる。


 


――高感情定着記憶を再構築。


――認識核深度を測定中。


 


「つまり?」


 


――候補個体の精神形成へ強く影響した記憶群です。


 


静寂。


そして。


カイルが、ゆっくりエルマを見る。


「……俺絡みしかなくね?」


「やめてくださいぃぃぃ!!」


エルマは床へ突っ伏した。


死にたい。


今すぐ。


 


幻影の中。


昔のエルマは、本を開いたまま、ちらちら外を見ている。


視線の先。


訓練場。


木剣を振る赤髪の少年。


若い頃のカイルだった。


「……うわ」


カイルが固まる。


「これ俺か」


「見ないでください……」


「いや無理だろ」


無理だった。


しかも最悪なことに。


幻影エルマ。


めちゃくちゃ見ている。


本を読むふりをしながら。


完全に見ている。


挿絵(By みてみん)


ページが全然進んでいない。


「うわめっちゃ見てる」


「やめてくださいぃぃぃ!!」


エルマが転がった。


クラリスの羽根ペンが走る。


さらさらさらさら。


「十三歳時点で既に重症ですね」


「分析しないでください!!」


 


その時。


幻影のクラリスが現れる。


昔と変わらない完璧な無表情。


紅茶片手。


そして静かに言った。


『三ページ前から進んでおりません』


「やめてぇぇぇぇ!!」


『視線追尾頻度が異常です』


「いやぁぁぁぁぁ!!」


『カイル様ですね』


「死ぬぅぅぅぅぅ!!」


カイルが吹き出した。


「ははっ!」


「笑わないでください!!」


「いやだってお前……」


カイルが腹を押さえる。


「昔からそんなだったのかよ」


「違います!!」


「どこがだよ!」


完全に証拠映像だった。


逃げ場がない。


 


――対象への感情定着率、高。


――長期継続を確認。


 


「やめてください!!」


 


――精神形成へ重大影響を確認。


 


「やめろぉぉぉぉ!!」


エルマは本気で泣きそうだった。


だが遺構は止まらない。


次の瞬間。


景色がまた切り替わる。


 


夜会。


柱の影。


眼鏡。


無表情。


でも内心だけが大暴走している、最近のエルマ。


「うわぁぁぁぁ!!」


しかも。


内心まで音声付きだった。


『近い近い近い近い!!』


『なんでそんな自然に距離詰めるんですか!?』


『夫婦ですか!?』


『違うけどお似合いなんですよぉ!!』


「止めてぇぇぇぇぇぇ!!」


エルマが床を転げ回る。


カイルが完全に腹を抱えていた。


「お前こんなこと思ってたの!?」


「見ないでくださいぃぃぃ!!」


「無理だろこれ!!」


クラリスだけは冷静だった。


「極めて順調な精神開示ですね」


「順調じゃありません!!」


 


その時。


幻影の中で。


カイルがエルマを抱き止める場面が再現される。


眼鏡が落ちる。


赤い耳。


近い距離。


 


『無理ーーーーーーーー!!!』


 


深層領域へ、エルマの絶叫が木霊した。


「お前ほんと限界だったんだな……」


「今も限界ですぅぅぅ!!」


カイルは笑いながらも、少しだけ困った顔になる。


でも。


その視線は。


幻影のエルマから離れなかった。


昔からずっと。


本を読むふりをして、自分を見ていた少女。


逃げていたのに。


ずっと好きだったらしい少女。


そして。


今も。


顔を真っ赤にして転がっている。


「…………」


胸の奥が、妙に熱かった。


その時。


管理精霊が静かに告げる。


 


――認識しました。


――候補個体精神核、極めて単純。


 


「言い方ぁ!!」


 


――精神安定要因。


――“カイル・フォン・ベルンハルト”。


 


静寂。


エルマは完全に停止した。


「………………」


終わった。


人生が。


本当に。


完全に。


終わった。


その横で。


カイルだけが、少し赤くなっていた。

お読みいただきありがとうございます♪

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