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幼馴染が近すぎて無理です‼️ (元傭兵のスピンオフです)  作者: くいたん


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第10話 壊さずに解く


深層領域は、静かだった。


あまりにも静かで。


逆に不気味だった。


青白い術式光だけが、床から壁へ、壁から天井へとゆっくり流れている。


まるで巨大な生き物の体内みたいだった。


空気は冷たい。


なのに。


遺構そのものは、どこか微かに脈打っている。


「…………」


エルマは無意識に眼鏡へ触れた。


頭の奥が熱い。


ずっと情報が流れ込んでくる。


構造。


循環。


接続。


封鎖。


理解できてしまう。


嫌になるくらいに。


その隣。


カイルが周囲を警戒しながら歩いていた。


剣へ手を添えたまま。


自然に。


当然みたいに。


エルマの半歩前へ立っている。


近い。


背中が近い。


肩幅が近い。


守られてる感が無理。


心臓がうるさい。


「……大丈夫か?」


低い声。


近い。


「だ、大丈夫です……」


「全然そう見えねぇけど」


見ないでください。


そんな真っ直ぐ。


好きが悪化するので。


その時だった。


 


ゴゥン――――……


 


深層領域全体が低く震えた。


青白い術式光が、一斉に明滅する。


空気が変わる。


その瞬間。


誰もいなかったはずの空間へ。


ふわり、と。


青白い輪郭が浮かび上がった。


長い髪のように揺れる光。


感情のない瞳。


半透明の古代衣装。


管理精霊だった。


 


――第一試験を開始します。


 


「始まった……」


エルマの声が引き攣る。


次の瞬間。


 


バチィッ!!


 


前方の空間が歪んだ。


床へ展開されていた術式円が、一斉に浮かび上がる。


複雑な多重魔法陣。


そこから、青白い光の塊が次々と出現した。


「っ!?」


騎士型だった。


だが違う。


鎧ではない。


術式そのものが、人型を取っている。


青白い残光を纏った、半透明の古代守護機構。


「敵か!?」


カイルが即座に前へ出る。


剣を抜く。


だが。



――警告。


――試験対象術式への破壊行為を禁止します。


 


「は?」


カイルが眉を寄せる。


管理精霊の声は淡々としていた。


 


――第一試験。


――候補個体による深層術式制御能力を確認します。


――術式暴走の停止を要求。


 


その瞬間。


守護機構達の瞳が、一斉に赤く染まった。


挿絵(By みてみん)



ギィン――――!!


 


空間が軋む。


床の術式が暴走する。


青白い光が壁を走り、周囲の結界構造が不安定に揺れ始めた。


「まずい……!」


エルマの顔色が変わる。


わかる。


この術式。


今、崩壊しかけている。


しかも。


下手に壊せば連鎖する。


「カイル様!」


「おう!」


「破壊しないでください!!」


「いや襲って来てんだけど!?」


「でも壊したらたぶん全部崩れます!!」


「最悪じゃねぇか!!」


その間にも。


守護機構が高速で踏み込んできた。


速い。


青白い刃が振り下ろされる。


 


ガギィン!!


 


カイルが剣で受け流す。


重い。


だが。


完全に斬り払わない。


流している。


逸らしている。


「っ……!」


エルマが息を呑む。


上手い。


ただ強いだけじゃない。


壊さないように制御してる。


「エルマ!!」


「っ、はい!」


「どうすりゃ止まる!?」


「術式核です!!」


エルマが床を見る。


見える。


青白い流れ。


循環構造。


暴走箇所。


中心。


全部。


「右側第二術式柱の下!」


「了解!」


カイルが即座に動く。


速い。


守護機構の攻撃を避けながら、一気に距離を詰める。


その間にも。


エルマの頭へ情報が流れ込む。


 


――制御権限不足。


――同期率上昇を推奨。


 


やめて。


嫌な予感しかしない。


 


――護衛補助個体との接触同期を推奨。


 


「推奨しないでくださいぃぃぃ!!」


「何!?」


カイルが振り返る。


近い。


駄目。


今振り返らないで。


顔がいい。


しかも戦闘中で格好いい。


無理。


 


――感情波形急上昇。


――同期率上昇。


 


ゴゥン!!


 


「また反応した!?」


クラリスが静かに手帳へ書き込む。


「極めて順調ですね」


「どこがですかぁ!!」


「術式制御精度が向上しております」


「代わりに私の精神が死にます!!」


守護機構が再び迫る。


カイルが舌打ちした。


「エルマ!」


「は、はい!」


「今ので合ってんだな!?」


「た、多分……!」


「多分かよ!?」


その瞬間。


守護機構が同時に飛び込んできた。


左右から。


速い。


普通なら避けきれない。


だが。


カイルは迷わなかった。


一歩踏み込む。


エルマを庇う位置へ。


近い。


背中近い。


無理。


心臓壊れる。


 


――護衛補助個体接近。


――同期率急上昇。


 


やめてぇぇぇぇ!!


 


ゴゥン!!


 


深層領域全体が発光した。


そして。


エルマの視界の奥で。


青白い術式構造が、一気に“見えた”。


「……っ!」


わかる。


今なら。


止められる。


エルマは反射的に前へ出た。


眼鏡の奥。


灰青色の瞳が、青白い術式光を映す。


「右へ三歩!」


「おう!」


カイルが即座に動く。


「そのまま左の柱を叩いてください!」


「これか!?」


 


ドォン!!


 


柱へ衝撃が入る。


破壊ではない。


暴走した術式循環へ、強制的にズレを発生させる。


その瞬間。


暴走していた術式光が、一気に流れを変えた。


「っ……!」


エルマが息を呑む。


繋がった。


循環が。


崩壊しかけていた術式が、再構成されていく。


青白い光が、血管みたいに深層領域全体へ広がった。


そして。


守護機構達の動きが、ぴたりと止まる。


静寂。


青白い光だけが、静かに脈打っていた。


管理精霊が、ゆっくりエルマを見る。


 


――第一試験終了。


――深層術式制御能力を確認。


――候補個体適性値、上昇。


 


「……ぅ」


エルマの膝が崩れそうになる。


限界だった。


情報量。


精神負荷。


そして何より。


カイルが近い。


ずっと近い。


「おっと」


倒れかけた瞬間。


また支えられた。


近い。


熱い。


無理。


「だから近いですってぇ……」


「いや倒れそうだっただろ」


「そうですけどぉ……」


カイルが少しだけ笑う。


「でも今の、すげぇな」


「……ぇ」


「お前、全部見えてたんだろ?」


真正面からそう言われて。


エルマの呼吸が止まりそうになる。


そんな真っ直ぐな顔で褒めないでほしい。


本当に。


これ以上優しくされると、たぶん駄目だった。


クラリスが静かに手帳を閉じた。


「本日三十四回目です」


「だから数えないでくださいぃぃぃ!!」


その叫びが、静かな深層領域へ虚しく響いた。

お読みいただきありがとうございます♪

☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂くと、モチベーションが爆上がりします。

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