9.ドラゴン
……光が消えた。
気づけば、足元はゴツゴツした岩。
周りも、見渡す限り岩場。
さっきまでのダンジョンとは、明らかに違う。
「……どこだ、ここ」
全員、状況が飲み込めていない。
そのとき。
グォオオオオオオオオオオッ!!!
背後から咆哮が聞こえた。
空気が震える。
鼓膜が痛い。
反射で振り返る。
……おい。
……嘘だろ。
そこには、ドラゴンがいた。
全身を赤い鱗が覆っている。
背中には巨大な翼。
目は鋭く、こっちを見ている。
ただ立っているだけなのに、物凄い威圧感がある。
……マジかよ。
ゴーレムとかキメラとか、比べ物にならない。
格が違う。
体が、一瞬動かなかった。
くっ……動け。
俺は無理やり意識を引き戻した。
すぐに魔力を流し、闇を集める。
そして、ドラゴンの目元に、暗闇を叩き込んだ。
こうすることで、視界を奪う。
「……!」
ドラゴンが一瞬、ひるむが……。
すぐに頭を振った。
「まだ音と匂いで周りが分かってる!」
ん?
ルーク、詳しいな。
そういえばアイツ、ドラゴンマニアだったんだっけ。
……なるほど。
要するに、まだ危険ってことだ。
ドラゴンがこちらを向いた。
まずいな。
正面からやり合って勝てる相手じゃない。
いくら俺が"最強の暗殺者"だとしても、限界がある。
ドラゴンと真っ向勝負なんてできない。
だが、真っ向勝負じゃないなら……。
「ネロ先生!」
この状況では、この人が頼りだ。
「動きを止められますか!?」
「可能だが……」
ネロ先生がこちらを見る。
その視線は少し厳しい。
「時間がいる」
「じゃあ、俺が引きつけます」
「……」
一瞬の沈黙。
「リゲル、それは……」
エレノアが言いかけるが……。
「大丈夫です」
言い切る。
「やります」
ネロ先生は、ほんのわずかに迷った。
……が。
「……分かった」
短くうなずいた。
そして。
「これを持っていくといい」
懐から鈴を取り出した。
「これでヤツの気をひけ」
なるほど。
鈴の音でドラゴンをひきつけるのか。
チリン。
軽く振った。
ドラゴンの頭が動く。
音に反応した。
よし。
「こっちだ、化け物」
俺は走り出した。
次の瞬間。
ドンッ!!
巨大な爪が振り下ろされ、地面が砕けた。
ギリギリでしゃがんで回避。
風圧で体が揺れる。
そのまま横へ転がる。
今度は、尻尾。
ブルンッ!!
太く長い尻尾が、横薙ぎに振るわれた。
ジャンプ。
だが、少しかすった。
着地後、すぐに走る。
次の瞬間、ドラゴンが口を開いた。
これは……炎がくるぞ。
影に手をかざし、"影遁"を発動する。
俺は影に沈み込んだ。
ゴォォォォォォ!
一拍おいて、ドラゴンの口から炎が放たれた。
炎が通り過ぎる。
熱がすぐ上をかすめた。
……危ねえ。
影から飛び出し、また鈴を鳴らす。
チリン。
ドラゴンが追ってくる。
いいぞ。
もっと来い。
だが、俺は忘れていた。
ここは岩場。
足場が悪い。
前は崖。
横は岩壁。
逃げ場がない。
……詰んだか?
いや。
まだだ。
「……黒影」
魔力を集中。
「影獣」
影が形を変え、二体の鳥になる。
これ、使いこなせるようになったんだ。
腕を伸ばし、掴まれる。
そのまま、上へ持ち上げられる。
飛んだ。
「……っ!」
腕に激痛が走る。
引きちぎれそうだ。
……くそ、きつい。
でも。
今はこれしかない。
ドラゴンの爪が空を切る。
ギリギリ回避。
数秒。
それだけで十分。
着地し、すぐに走る。
息が荒い。
体も痛い。
でも止まれない。
後ろから圧。
ドラゴンが迫る。
「もう少し……!」
ネロ先生の声。
そのとき、体が光に包まれた。
体が軽くなる。
視界がクリアになった。
ありがとう。エレノア。
よし。
まだいける。
鈴を鳴らす。
走る。
避ける。
潜る。
何度も。
何度も。
……そして。
「今だ!」
ネロ先生の声。
振り返ると、闇が広がっていた。
エレノアとネロ先生。
二人の魔力。
「影縫」
影が伸び、ドラゴンの体に絡みついた。
ドラゴンが暴れる。
だが、完全には動けない。
「離れろ!」
アルフォンスの声。
全員が距離を取る。
俺もその場を離れる。
息が荒い。
そして、ドラゴンの動きが止まった。
「……なんとか、なったな」
ルークが言う。
誰も近づかない。
あれはまだ危険だ。
「ここから離脱する」
ネロ先生が言った。
「これ以上は危険すぎる」
全員、うなずく。
ネロ先生が魔法陣を展開する。
転移魔法。
「全員、入れ」
俺たちはその中に入った。
光が広がる。
……次に目を開けたとき。
俺たちは、見慣れた場所に戻っていた。




