10.帰還
気づけば、俺たちはダンジョンの入り口前に立っていた。
数十分前に見たのと同じ景色だ。
……助かった。
正直、かなりギリギリだった。
「全員無事か」
ネロ先生が確認する。
みんな、なんとか立っている。
ケガは多少あるが、これといって深刻なものはない。
「これより報告に行く」
短くそう言う。
ネロ先生について、俺たちは移動した。
向かったのは、学園長室。
中に入ると、学園長と、何人かの教師がいた。
学園長は、あの白髪でヒゲが長い老人だ。
「どうしたのだ?まだ戻る時間では……」
「大変です」
怪訝な顔をした学園長の質問をさえぎり、ネロ先生が話し始めた。
ダンジョンの進行。
ゴーレム撃破後の転移。
そして、ドラゴンの出現。
俺たち生徒は、その話に頷きつつ、時々内容を補足したりした。
学園長の顔が徐々に険しくなっていく。
元々シワだらけの顔に、さらにシワができるのが見えた。
他の先生方も、驚いたような顔をしている。
途中で、息を呑む声も聞こえた。
「……ありえん」
話が終わってしばらくした後、学園長が短く言った。
「ダンジョンには、転移の罠はある」
「だが……転移先にドラゴンなど、設定されていない」
そりゃあな。
生徒向けのダンジョンにドラゴンなんか置くわけがない。
もしそんな学校があったら、俺なら退学するね。
だが、これでわかったことがある。
今回のことは、学校側としても想定外だったということだ。
「すぐに確認する」
学園長が立ち上がる。
「全生徒を呼び戻せ」
その後の動きは早かった。
本来、ダンジョン実習は数日かけて行う予定だったらしい。
だが、こんなことが起こった後だ。
当然ながら、即中止。
中に入っていた生徒は、全員呼び戻された。
そして、その日のうちに帰宅。
彼らは、突然のことに面食らった様子だった。
学園全体が、妙な空気に包まれていた。
そして帰宅中。
さて、今回のことについて、色々気になることがある。
……ちょっと調べてみるか。
「黒影……影獣」
闇魔法で、影を実体化する。
今回は、小さい方がいいな。
実体化した影を、虫のような形にする。
そして、その虫を学園の方に飛ばした。
"影獣"で作った動物は、視覚や聴覚が俺とリンクしている。
これで盗聴……じゃなくて偵察をしよう。
さて、学園では、先生たちが一つの部屋に集まっていた。
その部屋に虫を忍び込ませる。
どうやら、中で会議が行われるようだ。
「これは偶然ではない」
教師の一人が言う。
「誰かが仕組んだ可能性が高い」
だろうな。
俺もそう思う。
「狙いは……」
「王子殿下、あるいはエレノア様」
その言葉で、空気がさらに重くなる。
王族と、公爵家。
この国のトップクラスだ。
「王の政敵……」
「あるいは、敵国の工作員か」
物騒だな、おい。
「いずれにせよ、極めて重大な問題だ」
学園長が言う。
「この件は、関係者以外には秘匿する」
「内部で、直ちに調査を開始する」
決まりだな。
話はそれで終わった。
……ふう。
今回の件は、暗殺未遂。
しかもターゲットは、王子か、エレノア。
あるいはその両方。
……なるほどな。
「……仕事だな」
エレノアは、俺の護衛対象だ。
そのエレノアが、今回殺されかけた。
護衛として、それは見逃せない。
先生たちも調べるだろうが、それとは別に、俺も動く。
このことは、親父やリディアさんに報告した方がいいだろう。
それに、俺のほうでも情報を集める。
……それにしても。
こんなことになるとは思わなかったな……。
何が"楽な仕事"だよ!?
めっちゃ大変じゃねえか!!
まあ、そんなことを言っても仕方ないか……。
今できることをやるしかない。
「黒影」
手をかざし、魔力を込める。
「影獣」
影を実体化し、形を作る。
あっという間に、影の鳥が現れた。
これを、犯人と関係がある所に飛ばそう。
まずは、あの転移先の岩場。
犯人が関わっているなら、何か残っている可能性がある。
「行ってこい」
鳥が羽ばたく。
そして、空へと飛んでいった。
……さて。
情報収集といこうか。




