5.リゲルの家
その後の授業も終わり、ようやく帰りの時間になった。
……一応、ちゃんと受けようとはしたぞ?
エレノアにああ言われたしな。
でもな。
いきなり全部真面目にやるのは無理だ。
まあ、少しずつでいいだろ。
しばらくして、俺は家に帰った。
扉を開ける。
中に入ると。
「ああ、帰ったか」
親父がいた。
親父は俺と同じく黒髪黒目のイケメンだ。
……なんだが、ちょび髭がちょっとダサい。
本当に、なぜそんな感じにしたのか、理解に苦しむ。
そして親父の顔には、うっすらと傷が残っている。
これは、前に俺が椅子を叩きつけた時のやつだ。
……いい気味だぜ。
俺が学園に行く羽目になったのは、元はと言えば、親父のせいだからな。
「学園はどうだ」
「まあ普通」
親父が何か言ってきたので、適当に答えておく。
親父はふーん、と興味なさそうにうなずいた。
それ以上は特に何も言ってこない。
俺としても、そっちの方が楽なんで助かる。
さて、家での俺は基本的に、一人で自分の部屋にいる。
そこで、暗殺者としての訓練みたいなのをしている。
暗殺者として大事なのは、とにかく相手に気づかれないことだ。
他にも大事なことはあるが、これが一番重要だ。
俺は闇魔法が得意だから、こういうのは特にやりやすい。
影に紛れて移動したり。
暗闇に潜んだり。
それだけじゃない。
闇魔法を使えば、影を固めて刃を作ることもできる。
……まあ実際は、毒を塗った短剣を使うことが多いけどな。
確実だし。
それと、ちょっとした精神干渉もできる。
相手の注意をそらしたり、動きを鈍らせたり。
そんな感じだ。
これが、俺が"歴代でも屈指の逸材"と言われている理由だ。
すごいだろ?
で。
今、俺は新しいことを試している。
机の方に手を向け、魔力を流す。
すると影が実体化され、黒い塊になるので、
「影獣」
と唱える。
しばらくすると、影がゆらりと動き、形を変えた。
やがて、それは動物の形になる。
これだ。
影を実体化して、動物みたいに動かす。
いわば使い魔みたいなものだ。
この動物とは視界を共有できる。
だから、彼らを偵察に使うことで、遠くの様子も分かる。
使いこなせれば、かなり便利だ。
……ただし。
難しい。
すごく難しい。
ミミズとかナメクジみたいな、単純な構造のやつなら楽だ。
だが、複雑になるほど、一気に難易度が上がる。
今、俺が練習してるのは鳥。
鳥は空を飛べるからな。
偵察に使いやすい。
羽。
胴体。
頭。
……よし。
それっぽくはなった。
だが。
「……まだか」
少し動かすと、形が崩れる。
安定しない。
やっぱり難しいな。
もう一度やり直そうとしたとき、外から声がした。
部屋を出て確認してみると。
「あ、リゲル。もう帰っているのか」
いた。
俺の親愛なる兄貴。レイヴン・ノワールだ。
親父からちょび髭をとって、眼鏡をつけたような見た目をしている。
いかにも"インテリ"という感じだが、実際に頭はいい。
俺と違って、真面目で優秀だ。
そのかわり、剣術とか体術はヘタクソだけどな。
そんな、俺と真反対の兄だが、兄弟仲は結構いい。
よく、貴族社会の話とかをしてくれる。
それに、よく二人で親父の悪口を言い合ったりしている。
が、今日は何か面倒なことがあったらしいな。
なんでも、とある貴族にあらぬ疑いをかけられたらしい。
結局その疑いは晴れたが、最近よくこういうことがおきているようだ。
誰も彼も、疑心暗鬼だという。
……。
こういうのを聞いていると、やっぱり俺は、長男じゃなくて良かったと思う。
本当、あんな面倒なこと、やってられるか。
貴族同士の駆け引きとか疑い合いとか。
考えただけで面倒だ。
俺は気楽にやる方が性に合ってる。
「……お前はいいな」
兄貴がぽつりと言った。
そうだろう?
最近、学園に通うようになって前ほど自由には出来なくなったが、それでも兄貴よりはマシだ。
本当、兄貴がいてくれて良かったよ。
俺がこうして気楽でいられるのも兄のおかげだからな。
また愚痴ぐらい聞いてやるよ。




