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31.夜の戦闘




 ゆっくりと振り返る。


 そこに立っていたのは、やはりユリアだった。




 だが……。




 知っている彼女とは、まるで別人だった。




 いつもかけていた眼鏡は外されている。


 露わになった瞳は、冷たく、鋭く、獲物を射抜く刃のように光っていた。


 口元には、薄く、しかし明確な笑み。




 理知的でおとなしい“優等生”の面影は、そこにはない。




 ただ、明確な敵が、そこにいた。




「……ユリアか?」




 改めて問いかける。


 確認するまでもない。




 だが、それでも言葉にする。


 ユリアは、わずかに顎を引いた。




「……そうだ」




 短く。


 そして、冷たい声だった。




 普段の丁寧な口調は影も形もない。無駄を削ぎ落とした、硬質な響き。


 それだけで、もう十分だった。




「……今までのことは、全部お前か」




 視線を外さずに問う。


 ユリアは、あっさりと頷いた。




「……そうだ」




 躊躇いも、言い訳もない。


 ただの事実として、肯定する。




 あまりにも潔い。




「目的は?」




 問いを重ねる。


 一瞬の沈黙。




 だが、返ってきたのは予想通りの言葉だった。




「……死にゆく者が、知る必要はない」




 冷淡。


 それ以上でもそれ以下でもない。


 完全に、切り捨てている。




「……そうか」




 肩の力を抜く。


 会話は終わりだ。




 次の瞬間、ユリアが動いた。




 鞘から抜かれる剣。


 迷いのない踏み込み。


 一直線に、首を狙う斬撃だ。




 だが、俺もただ斬られるようなことはしない。


 即座に剣を抜き、受け止めた。




 金属がぶつかる音が、夜の静寂に響く。




 重い。


 細い腕からは想像できないほどの圧力。




 力をいなし、後方へ跳ぶ。




 ユリアは間髪入れずに追撃してきた。


 間合いを詰め、連続で斬り込んでくる。




 速い。


 無駄がない。




 やっぱりな。


 武闘会の時と同じだ。


 動きの癖も一致している。




 間違いない。




 あの時の相手は、こいつだ。


 剣を交えながら、頭の中で情報を整理する。




 俺がユリアを疑った理由について。




 それは、舞踏会でのことを思い出したからだ。




 あの時、ユリアは途中で姿を消していた。




 その後すぐに、ネロ先生の不審な行動を見たせいで、そっちに意識が向いた。


 だが冷静に考えれば、あの時点で、おかしかった。




 さらに。


 ダンジョン、武闘会、舞踏会、文化祭。




 大きな事件が起きた場面。


 王子も、エレノアも、フィオナも、ルークも、必ずどこかにはいた。




 ……だが。




 ユリアだけ、全部の場面でいない。


 不自然なほどに。




 そして決定打となったのは、あの伝言だ。




 あの、ネロ先生からの伝言。


 あれのせいで、俺が管理装置に行く羽目になった。


 そして、濡れ衣を着せられることになったのだが……。




 あれを運んできたのは、ユリアだ。


 偶然とは思えない。




 そもそも、よく考えれば、これはおかしい。


 ネロ先生が、生徒にそんな重要な伝言を託すか?




 答えは、否だ。




 医務室にはいつも必ず、関係者の大人がいたはずだ。


 それに、他の先生を呼ぶこともできた。




 つまり……。




 あれは、俺を誘導するための罠だ。




 管理装置へ向かわせるための。


 そして、濡れ衣を着せるための。




 ……なるほどな。


 俺はそれにまんまとハマった。




 そして、今ユリアと戦っているわけだ。




 目の前のユリアは、ただ無言で刃を振るう。


 その瞳には、感情はほとんどない。




 あるのは、殺意だけか。




 今夜で終わらせる。


 そんな強い意志が、はっきりと見える。




 ならば、こっちも同じだ。




 俺は剣を握り直した。




 風が吹く。


 ここは屋根の上。




 逃げ場はない。


 だが、それでいい。




 来いよ。







 今夜で、終わらせてやる。




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