28.魔法演出ショー
文化祭当日。
学園は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
色とりどりの装飾。
行き交う人々の笑い声。
露店から漂う甘い匂い。
普段は厳格なこの場所も、今日ばかりは別世界のようだ。
だが、その中心にあるのはやはり、闘技場。
観客席にはすでに多くの人が詰めかけ、ざわめきは絶えない。
貴族や外部の客も多く、視線の一つ一つが重く感じられる。
その中央。闘技場は、淡い光の膜に覆われていた。
結界だ。
これは、魔法演出ショーの安全を確保するためのものだ。
どれだけ派手な魔法を使おうと、観客には被害が及ばない。
「……いよいよか」
小さく呟きながら、舞台袖から闘技場を見つめる。
すでにショーは始まっていた。
火が空中で花のように弾ける。
水が変幻自在な流れを創り出す。
風で空中浮遊をする。
土が、重厚感のある動きをする。
計算され尽くした演技。
まさに“見せる魔法”だ。
観客席からは歓声が上がる。
……これはすごいな。
素直にそう思う。
だが同時に、別のことも考える。
……そろそろだな。
今までの流れを考えれば、何も起きない方が不自然だ。
ダンジョン実習。
武闘会。
そして舞踏会。
大きなイベントのたびに、奴らは動いてきた。
なら、今日も……。
「次、闇魔法の演者。準備を」
呼び出された。
いかん、ここは切り替えよう。
「……了解」
やがて合図が来たので、闘技場へと足を踏み入れる。
視線が集まるのを感じた。
無数の目が、こちらを見つめている。
だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
注目されるのにも、慣れてきたな。
……さて。
俺のショーの始まりだ。
足元の影が、静かに広がる。
「……黒影」
影が立つ。
球体となり、ふわりと宙に浮かぶ。
一つ、二つ、三つ……。
やがてそれらは鳥の形へと変わり、俺の周りを旋回し始める。
観客席から、どよめきが起こった。
影の鳥が舞う。
光を吸い込むような黒が、空間に軌跡を描く。
そして……
ここで俺が姿を消す。
「……っ!?」
ざわめきが一気に広がった。
次の瞬間……。
俺は観客席とは反対側の影から現れる。
再び鳥たちが舞い、影が弾けた。
さっきよりも大きな歓声があがる。
よしよし。
いい反応だ。
その後も、いくつかの演出を繋げていく。
影の刃を花のように散らし、影の獣が地面を駆ける。
派手さでは他の属性に劣ると思っていたが……。
やりよう次第で、十分に“魅せられる”。
やがて、俺の演技は無事に終わった。
続いて、光魔法。
エレノアが舞台に現れた。
そして、光魔法を使った演出を始める。
よし。
ここまで順調だな。
俺の出番は、これで終わりではない。
他の演者との共演もある。
そろそろ準備しないとな……。
そう思った時だった。
ピシ、と。
何かが軋むような音がした。
……?
なんとも言えない違和感を感じた。
次の瞬間。
結界が、大きく揺らめいた。
「――っ!?」
光の膜が歪み、波打つ。
明らかに異常だ。
観客席から悲鳴が上がる。
「全員、演技中止! 速やかに退避しろ!」
教師の怒号が響く。
空気が一変した。
先ほどまでの華やかさは消え、緊張と混乱が場を支配する。
やっぱり来たか。
あの後、教師たちが原因を調べた。
そしてその結果……。
「……管理装置に、闇魔法の影が干渉している」
闇魔法?
闇魔法といえば……。
思い浮かぶのは、ただ一人。
ネロ先生だ。
しかし妙だな。
あの人は今、医務室で寝ているはず。
どうやって結界に干渉したんだ?
「ネロはまだ動けなさそうか?」
誰かがこう言うのが聞こえた。
ん?
先生達が、なんでここでネロ先生の名を?
その疑問は、次の言葉で消えた。
「まいったな……ネロじゃなかったら、誰が対応するんだ?」
なるほど。
闇魔法が使える人は、そう多くはない。
こういう闇魔法関連のことは、普通はネロ先生が対応するのか。
だが、今回の犯人はネロ先生だ。
あの人に対応させるわけにはいかない。
幸い、あの人は今、入院中だが。
とにかく、誰がこの異常に対応すればいいんだ……?
その時だった。
「……先生方!」
声が響く。
振り向くと、そこにはユリアがいた。
少し息を切らしながらも、まっすぐ前を見ている。
「ネロ先生からの伝言です」
場の空気が変わった。
「本当か?」
「どうすればいいと言っていた?」
一拍おいて、ユリアは答えた。
「今回の件、リゲルに任せるべきだと」
……なっ!?
……俺に!?
ユリアは続ける。
「リゲルさん。あなたなら対処できるとおっしゃっていました」
……ネロが、そう言ったのか。
……何が目的だ?
俺が考え込んでいるうちに……。
教師たちも顔を見合わせ、やがて一人が口を開いた。
「……頼めるか」
まあ……。
ここは引き受けるしかないか。
「はい」
ネロが、一体何を仕掛けてくる気なのか。
それはわからない。
だが、関係ない。
いずれにしろ、俺のやることは同じだ。
今度こそ、逃がさない。




