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25.夜の事件




 次の日も、監視は継続した。




 昨日はやられた。


 完全に、読み負けた。




 だから今日は、こっちもやり方を変える。




 影の虫だけに頼るのはやめよう。


 今回は、自分も動く。




 授業中から、すでに配置は済ませていた。


 影の虫をネロ先生の近くに潜ませる。




 そして俺自身も、できるだけ自然な形でその近くにいる。


 距離を取りすぎず、近すぎず。




 視線は向けすぎない。


 壁や柱、他の生徒の動きも利用して、存在を紛れ込ませる。




「……これなら」


 仮に虫が撃ち落とされても、すぐに次を出せる。


 そして、今度は“目”もある。




 二重の監視だ。


 昨日と同じにはいかない。




 授業が終わった。




 だが、ネロ先生はすぐには帰らなかった。


 昨日と同じく、学園に残る。




「……やっぱりな」


 俺も予定通り、図書館へ向かった。




 適当に本を開き、勉強しているふりをする。


 視線は文字を追いながら、意識は完全に別のところにあった。




 ……ネロ先生。




 影の虫を通して、位置を把握し続ける。




 時間が過ぎていった。


 日が落ち、窓の外が暗くなる。




 それでも……。




「……今日は来ないか?」


 虫が撃ち落とされる気配はない。




 昨日のような“気づかれた感覚”もない。


 静かすぎる。


 だが、その静けさが逆に不気味だった。




 そして、夜もかなり更けた頃。




「……動いた」


 ネロ先生が、急に立ち上がった。


 それまでの作業を中断し、まっすぐ歩き出す。




 その進行方向は……。




「……どこだ?」


 図書館の本で学園の地図を見つけた。


 その内容と照らし合わせると。




 向かっている先は……。




 学園の結界管理装置。




 全ての結界を制御する中枢。


 武闘会のときに闘技場を覆っていた結界も、その一部だ。




「……なんで、あそこに?」


 教師が立ち入ること自体は、不自然ではない。




 だが、この時間に、単独で、急に向かう理由は?




 胸の奥に、嫌な予感が広がる。


 ネロ先生が、その管理装置のある区画へと入っていった。




 影の虫も、それに続こうとした……その瞬間。




「……っ!?」


 視界が、遮断された。




 唐突に。


 まるで、壁にぶつかったかのように。




「……これは」


 虫の感覚が、消えたわけじゃない。




 だが、先が見えない。


 何かに阻まれている。




「撃ち落とされた……わけじゃないな」


 昨日の感覚とは違う。




 あれは、何か破壊された感じだった。


 だがこれは……。




「……遮断?」




 結界。


 あるいは、それに類するもの。


 外部からの侵入や観測を防ぐ何か。




 そう考えるのが自然だ。


 となると、あそこを覗くには……。




 そのとき……。




 ドンッ!!




「ッ!?」




 大きな衝撃音が、夜の静寂を切り裂いた。


 音の方向は、明らかに……。




「管理装置……!?」


 心臓が一気に跳ねる。




 何かが起きた。


 確実に。




「……罠か?」


 一瞬、迷った。




 俺を誘い込むためのものである可能性は……。




 だが。


「いや……」




 この時間でも、まだ学園内には人がいる。


 教師や、一部の生徒。


 そんな中で、大きな音を出してまで仕掛けるか?


 リスクが高すぎる。




 ……判断は一瞬だった。




 俺は立ち上がり、音のした方向へと走る。


 管理装置の区画へ。




 扉の前に立つ。




 ……妙だ。


「……暗いな」




 本来なら、最低限の灯りはあるはずだ。


 だが、中はほとんど光がない。




 俺は慎重に扉を押し開けた。




 ……静寂。


 そして、薄暗い空間。




 目を凝らすと、内部の様子が少しずつ見えてくる。




「……これは」


 床には、何かがぶつかったような跡。


 壁にも、焦げたような痕がある。




 何かが争ったような跡だ。


 ついさっきまで、ここで何かが起きていた。




「……誰だ?」


 警戒しながら、一歩踏み出す。




 そのとき。




 視界の端に、“影”が映った。


 床に、誰かが倒れている。




「……!」


 反射的に駆け寄った。




 物音に反応したのか、それはモゾモゾと動き……。




「……ううっ」


 うめき声をあげた。




 この声は……。




「……ネロ先生!?」


 思わず声が漏れた。




 倒れていたのは……。


 間違いなく、ネロ先生だった。




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