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23.不審な動き




 自由時間が始まってしばらくした頃。




 ユリアが少し一礼した。


「少し席を外します」

「ん?ああ、わかりました」


 簡潔なやりとりの後、ユリアは人の波の中へと消えていった。




 おそらく、トイレか何かだろう。




 ……さて。


 せっかくだし、少し歩き回るか。


 相変わらず、大広間は煌びやかだ。


 光に満ちた空間の中で、色とりどりのドレスが揺れ、談笑の声が重なり合う。




 ふと視線を向けると……。


「……あっちは問題なさそうだな」




 エレノアが王子と談笑しているのが見えた。


 優雅に微笑みながら言葉を交わす二人は、やはり絵になる。




 そして、その少し離れた位置に。


 壁際に控えるように立つフィオナの姿があった。




 周囲に目を配りながら、常に二人の様子を視界に入れている。




 しっかりしているな。


 あれなら、あの場は任せても問題ないだろう。


 俺は少し楽をしても良さそうだな。




 ふと、喉の渇きを感じる。


 そういえば、さっきから何も飲んでいなかったな。




 飲食スペースの方に行ってみよう。


 テーブルには、様々な飲み物が並べられている。




 その光景を眺めながら近づこうとした……そのとき。




「……ん?」


 なんだあれは……。




 テーブルの前には、ネロ先生が立っている。


 舞踏会だというのに、相変わらずのフード付きのマント姿。




 ……いや、それは別にいいんだ。


 問題は……。




「何やってんだ……?」


 ネロ先生は、テーブルの前でしきりに手を動かしている。




 俺は咄嗟に、近くの柱の陰へと身を隠した。


 様子を窺ってみる。




 ネロ先生は、周囲を一度だけ軽く見渡すと……。


 懐に手を入れ、何かを取り出した。




 それが何かは、ここからでははっきり見えない。


 だが……。




「……今、触れたよな?」


 ネロ先生の手が、テーブルの上のグラスに触れたように見えた。




 ほんの一瞬。


 だが確かに、不自然な動きだった。




 そして、そのまま何事もなかったかのように背を向け、去っていく。




「……」


 しばらく動かず、様子を見てみる。


 周囲に異変はない。




 他の誰も、その行動に気づいた様子はなかった。


 俺はゆっくりと、テーブルへと近づいた。




 並べられたグラスの中には赤い液体が揺れている。


「……葡萄酒か」




 俺の好物だ。


 何気なく、一番手前のグラスに手を伸ばす。




 そのとき……。


「……いや、待て」




 頭の中で、さっきの光景が再生される。


 懐から何かを取り出し、グラスに触れた。




 ……まさか。




「……毒か?」




 もし、あのときネロ先生が何かを混入していたとしたら。


 このグラスは、危険なものに変わっている可能性がある。




「……」


 手に取ったグラスは、見た目は何も変わらない。




 だが、それが逆に不気味だった。


「……俺がこれ好きなの、知ってたのか?」




 一瞬、そんな疑問が浮かぶ。




 いや。


 情報を集めること自体は、そう難しいことじゃない。


 どこかで話した内容を覚えていたのかもしれないし、調べた可能性もある。




 問題はそこじゃない。


「……やっぱり、あの人か」




 これまでの疑念。


 そして今の行動。




 一気に線が繋がる。




 ……ネロ先生が、何かか。


 そう考えるのが、最も自然だった。




「……なら」


 このまま放置するわけにはいかない。


 もし毒入りなら、誰かが口にする可能性がある。




 俺はそのグラスを持ち上げ、会場の外へと向かった。


 廊下に出て、周囲に誰もいないことを確認する。


 そして、近くの窓から中身を外へと捨てた。




「……これで、とりあえずは大丈夫か」




 念のため、影から小さな虫を生成する。


 それをネロ先生の方へと向かわせた。




 監視は継続だ。


 抜かりはない。




 再び大広間へと戻ると。




「おかえりなさい」


 ユリアが、そこにいた。




「ああ、ちょっと飲み物取りに行ってまして」


 適当にそう答える。




 ユリアはちょっと探るような視線を向けたが。


「そうですか」


 特に追及することもなく、軽く頷いた。




 ……助かった。


 変に深掘りされると面倒だったが、ユリアはそういうタイプじゃない。




 その後の舞踏会は、特に何事もなく進んだ。


 音楽が流れ、人々が踊り、笑い合う。


 平和そのものだ。




 だが……。




 俺の中では、もう結論は出ていた。


 あの瞬間を、確かに見た。




 不自然な動き。


 そして、あの行為。




「……やっぱり、ネロ先生か」




 確証とまではいかない。


 だが、限りなく黒に近い。




 ……犯人は、ネロ先生の可能性が高い。




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