二十四 ホテル駐車場③
「養子?橋場家は成り代わりじゃなくて養子なのか?」
楊は警察の内緒を俺がどこで仕入れていたのか、あるいは俺が知っていて黙っていたのかという、推し量るような視線でしばし見つめてきた。
「いいから話せよ。」
「――。橋場祥子が死産して鬱になったからと、緑丘家の子供を養子にしたという記録があるんだ。本部はそれで、子供取り換え事件の発生で橋場家から放逐された恨みで実両親に復讐したのだろうという見解だね。状況証拠しかないから間違えていたら上の首が何人も飛ぶのにね、本部の見切り発車には驚きだよ。」
「橋場峰雄は本当にちゃんとした養子なのか。取り換えでは無くて。」
「うん。そう。事件後に橋場家から島田家へ養子に行って、成人した時点で島田とは養子解消して結婚している。縁組を解消したときにこのホテルを島田に買ってもらって、結婚後は妻と二人三脚で営業してきたんだそうだ。そんな糠床の奥さんと子供達までも行方不明。ちなみに、嫁姑戦争ならず、婿舅戦争、かね。実権は妻の父親の東史雄。昨年に元弁護士の父親が婿からオーナー職を奪って支配人に落としたってさ。」
「それは、それは。全てに復讐したくなるね。」
「でしょう。峰雄君は可哀想にね。橋場家ではちびに散々いびられて追い出され、追い出された先の島田家は、家風が自由奔放すぎて橋場家で感じた家族の団らんを味わうことが出来ない。それでもようやく見つけて作り上げた家庭は、愛する妻の父親に壊された。」
「ちょっと待て。クロの部分はどうした?」
「うん?さっき葉山からメールが届いてね。僕が峰雄を殺しちゃったと泣いているんだってさ。廃墟に呼び寄せて、廃墟の中に作った落とし穴に落としたそうだよ。」
「あぁ、孝継に聞いた。七歳の子が酷いことをするねって、実行犯は裕也か?」
「さぁ。そこは記憶喪失。ただね、年上の従兄達にはお願いしたって事は言っているそうだ。僕がお願いしたとおりに峰雄は穴に落とされて、でも、彼は本当に怖かったのか、橋場にはいられないって、島田のお爺ちゃん家の子供になりました。畜生って。」
「本当にそれはあいつが?」
「そこは葉山の注釈。ちびはね、今日稲垣親分に対面して、ようやく橋場のお爺ちゃんの言葉を理解したって言っていたそうじゃん。おかしな子だよね。血が一番大事と考えて違う血統の峰雄をいじめて追い出したのに、全く血族でない俺達の一番じゃないと嫌だと騒いで、それでようやく峰雄の悲しさを理解するってね。」
「理解していないだろ。あいつは今も昔も一番じゃなければ嫌、なんだよ。俺よりも図々しくて性格が悪いって言っているだろ。」
「ひでぇな。それで、お前は車を取りにきただけじゃないだろ?」
「あぁ、俺は知り合いの確認に来ただけだよ。俺が会った奴は支配人と自称していたが、哀れな峰雄でも、峰雄の舅でもなかったけどね。峰雄の行方不明はそいつに聞いた方が早いと思うよ。」
「いるのか。ここに。」
「あぁ、俺を狙うとここに来てみたんだがね。今のところ奴の顔と存在を知っているのは俺ぐらいだからな。」
「なんだ?それ。」
「いや。俺が法事の打ち合わせをした男はね、孝継が言うには島田家四男の保らしいんだが、クロはここにいるはずが無いって言うんだよ。自分は一度も会ったことが無いとも言っているからね。そこで俺は電話してみた。」
「誰に。」
「島田正太郎さん。」
「うそん。そんな殿上人みたいな人の直通の電話番号を知っていたの?」
「クロがね。あいつは親戚全部頭の中に記憶しているらしいね。大事な親族の情報を公にさらすなって躾けられているからって。でも、キャパがもう足りませんから、もう、新しいの覚えるのは無理ですって、馬鹿な奴。」
「まぁ、それはいいから、それで島田さんは何だって?」
「僕の息子の保君はダブリンでしょうって、馬鹿と同じセリフを返して来たよ。島田家は船しか移動手段が無いそうでね、三月のダブリンのパレードに出るには二月に日本にいるはず無いんだってさ。」
「なんだそれ。それじゃあ、会いに行きますか、保君風味の偽物の支配人さんに。」




