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二十五 狩りの始まり

 復讐は蜜の味だと言うが、実行を正当化するためだけの詭弁のような気がしていた。

 男の持つ武器は、ヘッケラーアンドコッホ社製のM320によく似ているが、アサトライフルに装着使用するのではなく、単独使用するしかないほど銃身が長いものだ。


「レスリーサル弾専用武器だとしても、勝手に作って所持するのは駄目でしょう。」


 飽きれた口調で独り言を言ってはみたが、男は自分がその武器を手にしてかなり気分が高揚している事を否定できないでいた。

 現代の武器らしくプラスチックを多用した軽い銃身は太くて中途半端に長く、逆に持ち手は短いが、それが男の手にぴったりと嵌り、バットストックが彼の肩を軽く威圧している感触は程よい緊張感を彼に与えている。


「この年で戦争ごっこに心惹かれるなんてね。」


 鼻で自分を笑った彼は、口元をきゅっと固くすると、完全に銃を構え、リーフサイトではなく増設した赤外線スコープを覗いた。

 彼が狙撃する予定地は、彼が身を隠した地点から五十メートルもない。

 弾丸が大きすぎて飛距離が出ないこともあるが、近ければ近いほど弾丸は威力を増す。

 人を殺さない目的で作られた弾だとしても、威力を最大にして狙い所を間違えなければ、人を殺すことも、死ぬほどの苦しみと痛みに貶めることが可能なのである。


「さぁ、来た。かわいこちゃんが。」


 スコープの中では、美しい彼は蛍光色に輝いていた。

 青あざどころか表情も赤外線というもので隠されたオレンジ色に近い人間型のマークでしかなく、しかも、動きがひょこひょこと形容したくなるバランスの悪さでもある。

 まるで歩き始めた赤ん坊のようだと自分が考えたことに気づいた狙撃者は、彼への気持ちを一層に強め、一層にスコープの画像に目を凝らした。


 目を凝らさなくとも彼には周囲の風景は完全に把握している。


 彼自身を起点にすると二時方向の四十五メートル先に狙撃地点があり、三時方向に標的となっている少年が出てきた二階建ての居酒屋がある。

 あの店を会場にしたのは燃えやすい木造づくりであることと、密接して建っている低層の建造物の周りが入り組んだ小路ばかりという、店の周囲が消防車や救急車、もっと言えば警察車両などが入り込みにくいだろうことが簡単に想像できる地区にあることだ。


「素晴らしい。」


 彼は罠を仕掛けた自分を声を出してまで自画自賛している自分に驚きながら、どうしてここまで自分が高揚しているのかと訝しんでもいた。


「僕はナイフを振るう方が好きだと思っていたのだけどねぇ。」


 もちろん、彼はまだ生きている人間に刃物を突き立てたことは無い。

 彼は敵の衣服か薄い皮膚一枚を切り裂いて来ただけである。

 ナイフの煌きはそれだけで人に恐怖を与え、切り裂かれた皮膚から赤い血が迸っただけで大の男が戦意を失うのだ。


「やれやれ、僕は自分で思っていたよりもやんちゃだったのかな。サプライズパーティの幹事を奪われたって泣き出した玄人君を、可哀想と思うよりも可愛いと思ってしまったろくでなしだからね。仕方が無いか。」


 オレンジ色の標的がようやく狙撃地に辿り着いたが、彼の後ろにもう一つのオレンジ色の人型が生まれていた。

 男はようやくだと口角を上げた。


「キツネ狩りは狐を囲んでから撃ち殺すものなんだよ。」

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