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Arts hunter   作者: kiruhi
少年編 ー水の街ヴァルー
33/118

第三十二話 【天使のアーツ】奥義

 俺が『水の街ヴァル』に来てから三ヶ月が過ぎた………

 ペリアは俺に、

『元の身体に戻りたいのでしたら、三ヶ月間絶対安静の身体を動かす事を禁じます』

 と何度も何度も、念を押していた。


 パラケラルララレ学校で、六年間ギレット爺さんの元で鍛え上げられた俺のたくましい身体は、栄養失調と度重なる肉体の酷使により、見る者無惨な身体つきへと変わり果てていた。

 ぎゅっと力任せに握られるものなら、ポキッと簡単に折れてしまいそうなぐらいに痩せ細り、骨と皮だけのガリガリの状態になってしまったのである。


 その事を俺は、ロールライトでマーシャルの治療を受けた時から実は知ってはいた。

 知ってはいたが、今までは考えないようしていた。

 というよりこの現実を俺は、受け入れたくなかった……


 だが、今はペリアに動かず絶対安静と言われるようになってから、嫌でも現実を見せつけられてしまう。

 そして、その度に深いため息をついてしまう……

「はぁ………」

 食事を運んで来たルドベキアは、深いため息をついている俺の姿を見ながら、苦笑いしながら話しかけて来たのである。

「なんだ?深いため息をなんかついて?」

「あっルドベキアさん……

 いや……頑張って鍛えた俺の身体は、元に戻るのかな?と思いまして………」

「あぁ、その事か……

 まぁ、いつも通り今日もペリアが来るだろう……

 その時にでも聞いて見たらいい……」

「はい………」


 ペリアは毎日診療所の診察終了後に、ルドベキアのアジトに来て俺に【天使のアーツ】を発動してくれる。

 そのおかげで徐々にだが、力は前よりも込められるようになって来ているのが実感出来てきた。

 しかし、ペリア曰く俺があのままロールライトに居て、マーシャルに【月光のアーツ】を発動してもらっていたとしたら、もうとっくのとうに俺の身体は治っている。

 そして、こんなにも長引いているのは無理をしてまで『水の街ヴァル』に来てしまったからと、ペリアは皮肉を込めて言うのである。




「おい、ルーク……お待ちかねのペリアが来たぞ………」

「なっ何よ……」

 ペリアは少し照れ臭そうに俺の側へと歩み寄り、いつも通り【天使のアーツ】を発動してくれる。

 ほわわわわん……

 と暖かい光に包まれながら俺は、ペリアに話し掛けてみた。

「あの……ペリアさん………」

 ギロリとペリアに睨まれてしまった。


 睨まれながらも、ペリアが言っていた事を思い出す。


 “あっアーツの発動中はかなりの集中力を必要とするから、話しかけないで下さい”


 と言われていたんだった…

 ペコリとペリアに頭を下げ、【天使のアーツ】が発動を停止するのを、黙って待つ事にした。

 しかし、いつもなら三十分ぐらいで終わっていたはずなのだが、今日は一時間もかかってしまった……

 一時間後、【天使のアーツ】は暖かい光が消えると共にゆっくりと発動を停止し、俺は再びペリアに睨まれてしまうのであった。

「ふぅ……今日は思っていたより時間がかかってしまいましたわ……

 ルーク坊や、私は言った筈ですよね……?

 発動中は、話しかけるなと……」

「はい、言いました、ごめんなさい………」

「まぁ済んだ事ですし、いいですわ。

 今度から気をつけて下さいね……」」



「さて、今日は今後の事をお話ししたいと思いますわ………」

「………はい」

「よくこの半年間、私の言いつけを守っていました。

 炎症していた筋肉、そして断裂していた筋肉もほぼ元に戻り回復をしました。

 しかし、まだ万全ではありません……

 その理由はわかりますわよね?」

「はい……今の俺の身体は、殺気を纏った一撃を喰らえば即死するぐらい貧弱な状態だと言うのは、見ているだけでわかります」

「そうですわね……攻撃力を持たない私でも今の貴方を片手で殺せるでしょうね……

 ですが、元の身体に回復する方法はあります」

「!!」

「でも、今はその時ではありません。

 その時が来るまで、貴方は自分自身の力で筋力を元に戻して行って下さい」

「………と言う事は………」

「少しずつですが、トレーニングしてもいいわよ………」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 思わず大きくガッツポーズをとってしまう。


 あまりにも嬉しくその場ではしゃぎ出す俺の耳には、その後のペリアの言葉は既に耳には届いていなかったのである。

「はぁ、ルドベキア……一応オーバーワークにならないようにだけ気をつけてあげて……

 一気にやり過ぎると、ポキンと折れちゃうから………」

「わかった………」



 次の日から俺は、早速基礎訓練を開始した。

 まずは腕立て伏せに、腹筋、背筋、更にスクワット取り敢えず各百回ずつやる事に決め、早速腕立て伏せ開始してみた。

 しかし、五十回ぐらいやった頃だろうか……

 急に頭がクラクラしてきたのである。

「あれ……なっ……なんで………?」

 そのまま床にうつ伏せのまま崩れ落ち、ルドベキアがやれやれと言いながらやってきて俺の布団の中へと運ぶのであった。

 そして、ルドベキアは俺を見下ろし深いため息をつきながら眺めていた。

「はぁぁぁぁぁぁ………お前……バカだろ……?」

「えっ!?」

 いきなりルドベキアは俺を馬鹿呼ばわりして来たのだ。

「はぁ、ペリアのお許しが出た途端オーバーワークって、どう考えてもバカだろ……」

「……………………」

 確かにその通りだから、なにも言い返せなかった……

「今日はもう、動くな……

 俺がペリアに怒られるんだ!ちょっとは考えろよな………」

「はい……ごめんなさい………」


 “ふむ……オーバーワークか……

 ギレット先生はそんな事、教えてはくれなかった……

 うん、俺には加減がわからない………”



 次の日、ルドベキアは俺の前に現れ、

「さて、今日のトレーニングはなにをやるんだ?」

「うんと、取り敢えずですね……

 昨日はオーバーワークだと言って怒られてしまいましたので、回数を減らそうかと思います」

「ほぉほぉ、具体的には?」

「腕立て伏せに、腹筋、背筋、更にスクワット取り敢えず各百回を昨日は目標にしていたのですが、五十回ずつに減らすって事でどうでしょうか?」

 俺の回答に、怒りのオーラを抑え込むのを必死に堪えいるかのように、ルドベキアは黙ったまま【重力のアーツ】を発動しようとしていた。

「うわっうわっ!ごめんなさい三十回ずつ!!!」

 ギロリと睨んだまま、ルドベキアは答えてくれない……

「じゃ……じゃ……にっ二十回ずつ……?!」

「十回ずつだ……」

「えええええええっ!!!」

 ルドベキアは俺の髪と毛をくしゃくしゃと掴みながら、

「折角動けるようになったのに、いきなりのオーバーワークは意味がないぞ

 ペリアも少しずつと言っていただろ?」

「……はい、わかりました」


 というわけで、俺は腕立て伏せに、腹筋、背筋、更にスクワットを十回ずつ行う事にした。

 しかし、ルドベキアがみていない時はこっそりと回数を増やしながら基礎訓練を積んで行ったのである。

 三ヶ月はあっという間に経ち、気がつけば余裕で各百回ずつ出来るようになっていたのであった。

 流石にこれには、ルドベキアは呆れ果て何も言えなかった。

 しかしその効果は、身体にも現れ始めて来ているのだ。

 骨と皮だけのガリガリの状態だった俺の身体は、少しだけがっしりとした感じになってきた。

 だが、まだまだ元の身体に戻ったとは到底思えなかったのである。


 そんなある日、腕立て伏せをしながらふと思った事があった。

 ルドベキアは、時間がある時は俺の様子を見にきてくれている。


 “毎日毎日、飽きもせず良くやるわ………”


 とルドベキアは呆れ果てながら俺の姿を見ていた。


「あっ、ルドベキアさん」

「あぁん?なんだ?」

「今、思ったのですけど……

 俺が六年かけて築き上げた筋力って、そう簡単に取り戻せる物なのですか?」

「六年かけたんだ、普通に考えたらまた六年かかるんじゃないのか?」

「えぇぇぇぇ!?

 それは困ります!なんとかなりませんか!?」

「なんとかって……俺は専門外だし……ペリアに聞いたらいいんじゃないか………」

 はぁ〜と深いため息をついていると、ペリアはタイミングよく現れたのである。


「飽きれた…………

 三ヶ月ぶりに様子を見にきたら、腕立て伏せに、腹筋、背筋、更にスクワット百回ずつって……」

「あっペリアさん!?」

 ペリアは、ドア付近に立ち呆れ果てながら近寄ってきたのである。

「どうせ、ルドベキアも忠告も聞かないでやっていたんでしょうね…………」

「その通りだ!よくわかったな!」

 その言葉にペリアはルドベキアに指をさしながら怒ってきた。

「あのね、『よくわかったな!』ではないのよ!!

 私はルドベキアにオーバーワークにならないように止めて、と話ししていたはずよ!?

 なのになんで、腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワット百回ずつなんて馬鹿な事やっているのよ!!」

「そう怒るなよ……

 俺だって、止めていたんだぞ!

 だが俺が見ていない所で、好き勝手にやるんだ……それは止められないだろ!?

 それに……俺は忙しい中、時間を見つけてルークを見ていたんだ、仕方ないだろが!?」

「わかったわよ、ルドベキア……

 私も三ヶ月放置していたし悪かったわ………」

「おっおう……俺も怒鳴って悪かった………」


 ペリアは俺の近くまで歩いて来た。

 そして、俺を中心に周りをグルグルと回りながら、足元からジロジロと頭の上までじっくりと見て回り、それが終わると今度は俺を布団に寝かせ、ペリアは俺の筋肉を触り出してきたのである。


「ふむ……三ヶ月前の筋力より確かに逞しくなりましたわ……

 そろそろ頃合いかもね………」

「と言う事は!?」

「えぇ……以前話ししていたとおり今から、失ってしまった筋力を復活させます」

「おおおっ!!」

 そういうと、ペリアとルドベキアは準備をするといい、俺を布団に寝かせたまま出て行くのであった。


 暫くすると、ルドベキアはグツグツと煮えたぎったお湯が入った樽を五個程俺の近くに置き、

「ペリアからの伝言だ、『服を脱いでパンツ一枚になって仰向けになって待っていろ』だとさっ………」

「へっ?」

「心配するな、お前の背中は俺とペリア以外誰も見ないから」

「いやいや、そうじゃなくて………

 まさかそのものすごぉ〜く熱つそうな、お湯を俺にかけるつもりですか?」

「そうだが、嫌なら辞めてもいいぞ?

 その場合六年かけてまた一からやり直せ………」

「うぅ……」

 俺はルドベキアに言われるがまま服を脱ぎ、仰向けになってペリアが戻ってくるのを待った。

 そしてペリアは道具を持って、俺の目の前に現れたのである。

「では今から、ここにある煮えたぎったお湯をかけます」

「いやいや!!俺、火傷しちゃいますよ!!」

「大丈夫です、火傷はしません」


「このお湯は特殊で、お湯をかける事で貴方の不足している筋力がどこにあるのかが、ピンポイントでわかるお湯なのです」

「熱いお湯じゃないとダメなのですか?」

「ええっ身体を温めないと、わかりませんからね……」

 ペリアは俺の心の準備を待たずに、ルドベキアに無言で合図を送る。

 その合図を確認したルドベキアは、お湯の入った樽を俺めがけて勢いよく全てかけてきたのである。

「あちぃ!あちぃぃぃ!!」

 堪らず転がり回る。

「ルドベキア!!」

 ペリアの言葉にすかさずルドベキアは、俺を仰向けに向き直し【重力のアーツ】を発動し、俺を動かないように負荷をかけてくる。

「ちっちょ……!!」

 ルドベキアは、二個目のお湯をまた俺にかけてきた。

「あちぃぃぃぃぃぃ」

【重力のアーツ】のせいで動き回る事が出来ない俺は、その場でもがき苦しむ事しか出来なかった。

 ルドベキアはペリアの方を見る。

 しかしペリアは、俺の身体をジッと見つめたままなにも言っては来なかった。

 どうやら不足している筋力とやらがどこにあるのか、まだわからないらしい……

 容赦無くルドベキアは、三個目のお湯をかけてくる。

「ルドベキア、ストップ!!」

 ペリアはルドベキアに静止をかけ、すかさず持ってきた道具の中から一本の細い針を取り出し、俺の心臓付近に突き刺したのである。


「うわっうわっ!!!ちょ……ちょっと!!!」

 そんな慌てている俺の姿を見ながら、ルドベキアは耳元で囁き始めた。

「ペリアを信じろ……

 因みに、動くと失敗して廃人になるから動かない方がいいぞ」

「!!!!」

 そんな事を言われてしまうと、もう覚悟を決めるしかなかった。

 ペリアには、俺の身体がどのように見えているのかさっぱりわからなかったが、細い針を次々と至る所に刺していく。

「ふぅ……取り敢えずこんな所かしら………」

 一呼吸を置いたペリアは、俺の方を見ながら、

「ここから先は企業秘密で見せてあげる事が出来ないの……

 だから、暫く気絶していてね………」

 とペリアが言った瞬間、意識が朦朧としはじめ、

「大丈夫……成功させるから……」

 と言うペリアの言葉を聞きながら、無理矢理瞼を閉じらされてしまうのであった。


 そしてペリアはルドベキアの方を見ながら、

「ルドベキア、今から発動するのは貴方にも見せられない物なの……」

「!?」

「だから、貴方も眠って……」

 ペリアはそう言うと、ルドベキアはその場で座り込んでしまい、

「ぺッ……ペリア……お前………」

 次第にルドベキアの目の前は真っ黒になり、その場で意識が遠退いていくのであった。




 ルークとルドベキアを眠らせたペリアは、

「【天使のアーツ】発動……奥義フェアリーヒーリング」

 ペリアが唱えると無数の小さな天使達は、ルークの身体に突き刺されている針に止まり出す。

 小さな天使達は次第に針の周りをクルクルと周りながら、針と一緒にルークの身体の中に消え去るのであった。

 ペリアは小さな天使が消え去るのを確認し、今度はルークの身体をうつ伏せにして四個目の樽のお湯をルークにかけ始めた。

 ルークの身体は熱くなり、ピクンッピクンッと筋肉が動きだしていた。

 だが、それも納まるまで待ったペリアは、またルークの身体に針を突き刺し始め、先程と同じようにフェアリーヒーリングを唱えるのであった。

 仰向けにルークの身体を戻し、今度は先程と針を刺した場所全てに五芒星を作り出し、両手を添えながら、

「【天使のアーツ】発動………大天使の息吹」

 五芒星はペリアの声に反応し、設置されていた五芒星全てルークの身体の中へ吸い込まれるように消えていき、小さな天使と五芒星が重なり合う……


 本来ならこの後、光り輝きながらルークの筋力は修復を行い奥義は完了するはずなのだが、なぜか光り輝く事はなかった。


「なっなぜ………!?」

 よくよく見ると、一箇所だけ右肩部分にいる、小さな天使が五芒星を拒絶していたのだ。

 一箇所でも小さな天使が拒絶しているのであれば、すぐに対処をしなければ飛んでもない事になってしまう。

 次第にルークの筋力はピクピクと痙攣し始めたのである。


 ペリアはもう一度、奥義の一連の流れの再確認しはじめた。

「あれを、こーして……次に………」

 ブツブツとペリアは小さな天使が五芒星を拒絶した時の、対処方法を思い出したのであった。

「あっ!!!」

 ペリアはすかさず、拳に握りしめ右肩部分で拒絶している小さな天使がいる所を、思いっきり叩きつけ刺激を与えたのだった。

 すると、小さな天使はびっくりしペリアの方を見上げ、

「あなた………主人の命令を聞けないというのですか?」

 と問いただすと小さな天使は慌てて、ペリアにペコペコと頭を下げ五芒星を受け入れたのである。


 するとルークの身体は光り輝きだし、みるみるうちに筋力は修復されて行き、やせ細っていた身体は頑丈な身体つきに変化していく……

 即ち元の身体に戻る事が出来たのであった。

 光りが消えるのを確認したペリアは、深いため息と共にひと段落したのである。


 ペリアは、ルークの顔を見ながら奥義フェアリーヒーリングについて考えていた。


 “取り敢えず、なんとか成功したのは良かったですわ。

 ですが、小さな天使たちが今回の様に大量な場合、先程みたいに五芒星を受け入れない小さな天使が発生する場合もありますわね………

 今回は、たまたま五芒星を拒否している小さな天使がひとつだけで、尚且つすぐに見つけられたから良かった物の、もし見つける事が出来なかった場合……

 小さな天使は、小さな悪魔に変化しルーク坊やの五感全てを破壊していましたわね……”


「あっ……危なかったですわ………

 奥義フェアリーヒーリングは、今後の課題ですわね………」

 そう呟きながらペリアは、その場で座り込み休憩を取りながら、ルークとルドベキアが気がつくのを待つのであった。




 先に気がついたのは、ルドベキアだった。

 ルドベキアは、まだ意識が朦朧としている頭を横に降り、

「ううっ……気持ち悪りぃ………」

 と頭を抑えながら周りを見渡したのである。

 すぐ隣には、ルークがまだ眼を覚まさず寝ており、そして壁際には疲れ果てたペリアが座り込みながら惚けていたのであった。

 ルドベキアはよろけながらも立ち上がり、ペリアの近くへと歩み寄っていくのである。

「おい、ペリア?」

 ルドベキアの声に、ペリアは我に返り、

「あっ……ルドベキア……気分はどう?」

「俺よりもお前の方が辛そうだけど……大丈夫か?」

「えぇ………」

「それで、奥義とやらは成功したのか?」

「なんとか無事に………」

「そうか……」

 ルドベキアもペリアの横で座り込み、身体を休めるのであった。



「んっ……くはっ……」

「おっペリア、ルークが気がついたようだぞ」

「おっ俺は………」

 まだ、状況を掴めない俺に、ペリアは話しかけてくる。

「ちょっと危なかったですけど、無事成功しましたわ……」

「ほっほんとですか?」

 しかし成功したとペリアは言うが、俺の身体は全身筋肉痛で起き上がる事が出来なかったのである。

「あっあの……身体中、ものすごく痛いんですけど……?」

「筋力が復活した事により、筋肉がびっくりしているのでしょうね。

 今日一日は筋肉痛で動けないかもしれませんが、若いから明日には違和感なく動けるかと思いますわ」

「そうですか……わかりました……

 ありがとうございます。ペリアさん」

「さて、私も【天使のアーツ】を発動し過ぎて疲れ果てましたわ……

 ルドベキア後の事、任せてもいいかしら?」

「あぁ………」

 そう言いながらペリアは立ち上がり、少しふらつきながらもアジトを後にしたのである。


 意識が飛びそうなのを賢明に耐え続けながらも、なんとか家に着く事が出来たペリアは、服も脱がぬままそのままベットに飛び込み泥の様に眠りにつくのであった。




 ◆◇◆◇◆



 次の日、ペリアが話ししていたように筋肉痛は嘘のように消え、自然と起き上がれる事が出来た。

 俺は自分自身の身体をゆっくりと確認し始める。

 腹筋部分は筋肉が岩のように固く張りつめ、何気なく下ろした腕は、拳に力が入る。

 そして無駄な筋肉は一欠片もなく、痩せすぎずがっしりした骨格……


 “うん、元の身体だ”


 ルドベキアは俺の一連の流れを、腕組みしながら見守り話しかけてきたのである。

「それで、どんな感じだ……?」

「はい、力が込み上がってくる感じで、暫く力加減するのに苦労しそうです」

「ほぅほぅ……そうか……それはいい事だな……

 ではルーク、ここはひとつ少し肩慣らしでもしてみるか?」

「はい、ルドベキアさんよろしくお願いします」


 ルドベキアは戦闘体制を取りながら【重力のアーツ】を俺めがけて発動してきた。


 ズズズズンッ


 と俺の身体に重さが加わってくる。

 身動きは取れるが、大きな動作即ち飛び上がったり、横に大きく回避したりする事は制限されてしまう。

 ルドベキアは、右手の拳を握りしめ小さな重力をその拳に集中させ、

 ブォォォォォォン

 と音と共に俺に襲いかかってくる。


 ルドベキアの攻撃を、俺は右手で上の方に払いのけ、すぐさま左手で拳を握りしめ、ルドベキアの胸目掛けて攻撃を繰り出す。

 それをルドベキアは、後ろの方に飛び回避するのであった。

「ふむ、まだ重力が足りないか………」

 そうルドベキアは呟くと、今度は胸の高さまで上げた両手を前の方へと伸ばし、膝下まで勢いよく下げたのである。

「うおっ……!!」

 強力な重力が、俺を押しつぶそうと襲いかかってくる。

 その重さに、地面は耐えきれず、

 ボコンッ!!

 と音を立て沈んでいく。

 なんとか立っている事は出来たが、身動き自体俺はもう完全に封じ込められてしまっていた。

 かろうじて腰を左右に少しだけ動かす事は出来そうだった。

 そんな動けない俺に対して、ルドベキアは飛び上がり俺の右肩目掛けて左脚で踵落としをしかけてきた。

 少しだけ腰をひねり右肩を後ろに、左肩を前に動かすことでルドベキアの攻撃をよけたのだが、重力に乗ったルドベキアの攻撃は激しい音と共に、地面に大きなヒビを開けてしまうのであった。

「ほうほう………」

 感心しているかのようにルドベキアは俺の方を、向き直すのである。

「ちょ……ルドベキアさん、危険過ぎますって!!」

「なら、なんとかすれよ………」


 “ううっ……なんとかってまた無茶な……

 この考え方は少しギレット先生に似ているな………”


 ルドベキアは俺に考える時間を、与えてはくれなかった。

 今度は、ルドベキアは自分の身体を回転させ、その勢いで肘のバネと手首の返しで素早く俺の顔を目掛けて振り抜いてきたのである。

 その攻撃を膝を曲げ、上半身をお辞儀をするかのように前の方に倒し、ルドベキア攻撃を空打させたのだ。

「あっ!!!」


 “しまったっ!!”


 と思った時にはもう遅かった……

 俺の上半身は、お辞儀から身体を起こし上げる事が出来なくなっていた。

 そもそも、立っているだけの状態では身体全体負荷部分は少なかったのだが、お辞儀をした事により身体全体の負荷部分が増えてしまったのだ。

 当然の如く重力に耐えきれるはずもなく、その場で両膝と両手を地面につき、四つん這いになってしまうのだ。

 もうそこからは、更なる重力が俺を押しつぶそうと激しく襲いかかってくる。

 両腕をプルプルと震わせながら、地べたに這いつくばらないように懸命に耐える事しか出来なかった。

 そんな俺の姿を、ルドベキアは見ながら話しかけてくる。

「この状況可………

 もし仮に俺が殺傷能力のある武器を持っていたとするならば、この時点でお前は死んでいるな………」

「くっ……」

 耐えるのに精一杯で、顔も上げる事が出来ず反論すら出来なかった。


 ルドベキアはゆっくりと歩み寄り、左脚で俺の右手は払いのけたのである。

 右手が地面から離れてしまえば、残った左手で全ての重力に耐えれるはずもなく、そのまま両手を広げ地面に這いつくばってしまうのであった。


「うっぐぐぐぐぐっ……」

 なんとかこの状況を打破しようと思い、両手を動かし手の掌を地面につけ、つま先にも力を込め、腕立て伏せをしているようかのように、身体を持ち上げようと試みた。

 だが、俺の身体はピクリとも持ち上がる事はなかった……


 “くっくそぉ………”


 そのままルドベキアは五分間、何も言わずずっと【重力のアーツ】を発動し続け、俺の姿を見下ろしていたのである。




 ルドベキアが発動をやめると、俺の身体は軽くなっていくのがわかる。

 すぐ動ける事も出来ず、両手を広げ大の字にうつ伏せになりながら、呼吸を整えるのに精一杯だった。

「はぁはぁ………」


「肩慣らしにもならなかったな……

 お前実は……とてつもなく弱いんじゃないのか!?」

「!!!」

 ルドベキアのその一言は、衝撃的だった。

「だってよ〜立派な身体つき、伝説のアーツがあったとしても、それを使いこなせないでいるのは、弱いのと一緒だろ?」

 その言葉は、全くもって俺には届いていなかった。



 呆然と立ちすくんでいる、俺にルドベキアはさらなる追い打ちをしかけてきた。

「おーーい……ルーク……

 ショックがでかいのはわかるがよ、次は治療費について話をしようと思うんだけどいいか?」

「はぁ………」


「んっ……?ちっ治療費!!?」

 ルドベキアの言葉を整理した俺は、思わず大きな声を荒立ててしまう。

「当たり前だろ!

 ペリアにしろ、俺にしろ生活がかかっているんだ。

 きちんと払ってもらうぞ………」


 “すごぉぉーく嫌な予感しかしない……”


「えーと、ざっと計算して宿泊費、食事代、治療費全部込で257万5743スウーだな」

「はぃぃぃ?」

「まぁおまけして、250万スウー払ってもらおうかな」

「はぁはぃぃぃぃぃ??」

「なんだよ?文句あるのか?」

「そっそりゃありますよ!!

 どこをどう計算したら、そんな金額になるんですか!!」

「ペリアの治療代は、べらぼうに高額だ……

 なのに奥義という奴まで発動したのなら、更に拍車はかかるだろ?

 そしてあいつは、一括で今すぐ払えと気絶しているお前を理由にして俺に言ってきたんだ!

 よって、ペリアから申請された治療費は、俺が耳を揃えて一括で払っておいた。

 なので計算してみると、利子込で250万スウーになったと言うわけだ!」

「…………」


「なんだよ……?」

「その利子って……………」

「それは、聞かん方がお互いの為だな………」

「……………」


「そもそも、そっそんな大金、俺は持ってはいませんよ……」

「あぁ最初っから当てにはしていない。

 お前には金を返し切るまで、俺の元で働いてもらおうと思ってる」

「………」

「俺がお前に依頼を出す、そしてその依頼をお前が解決し俺に金を返して行く……

 上手く行けば強くもなれるぞ…?」

「………俺この街の事、良く知りませんし………」

「心配するな、そう言うと思って相棒を既に用意しておいた」

 ルドベキアはそう言い、ドアの所まで歩いて行き部屋のドアを開る。

 中に入ってきた男は、以前ここで会った事のある真っ赤で逆立っている髪型をしているディアルスと呼ばれていた男だった。


「ディアルス、今日からお前の相棒のルークだ、色々教えてやってくれ」

 ディアルスはルドベキアにコクンッと頷き返事をしていた。

「あっあの……ルドベキアさん、俺に拒否権はないのですか?」

「金を今すぐ払えるか?」

「無理です………」

「なら諦めて、ディアルスと共に稼げ……!!」


 “どうやら俺には拒否権はないらしい……”


 そう諦め、俺はディアルスの側に行き、頭を下げながら挨拶をしたのである。

「ルークです。よろしくお願いします、ディアルスさん」

 しかし、ディアルスは先程と同様に頷くだけで、返事はしてくれなかった。


 “態度悪いなぁ〜”


 と俺が思っているとルドベキアは、何やら一通の書類を取り出し俺に渡してきた。

「さて、ディアルスとルーク……君たちの記念すべき最初の仕事はこれだ!!」


 その書類には、

『処刑を妨害せよ!』

 と書かれていたのであった…………





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