第三十三話 無口な青年、ディアルス
『処刑を妨害せよ!』
と書かれていた書類をよくよく見てみると………
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『処刑を妨害せよ』
⚫ランク:C
⚫依頼内容:本日正午に中央広場で執行される処刑を妨害し『プルキブウム』まで無事に送り届ける事
⚫備考:一人の犠牲者を出さず、尚且つ誰にも見られない事
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「あの………ルドベキアさん、情報ってこれだけですか?」
「あぁそうだ、詳しい事はディアルスがわかっているから聞くといい」
そう言われ俺はディアルスを見上げると、ディアルスは俺の顔を見ながら頷くだけだった。
“なんか話ししてよ……………”
「早く行った方がいい、処刑の時間までそれほど時間はないぞ」
「はい」
ディアルスはクイクイっと合図を送り俺は、その後ろを歩き始める。
裏口から出るとディアルスはひょいひょいと、階段を登りアジトの屋根まで登って行く。
そして、俺が登ってくるのを黙ったまま待っていた。
「登って来いって事ですか!?」
ディアルスはコクンと頷き、俺はその指示に従いながら階段を登り屋根へと登って行く。
屋根の上に登ると、そこからは『水の街ヴァル』の広い街並みを一目で見渡す事が出来た。
ヴァルの街並みは、円を三等分し約120度前後の扇のような形をしていた。
扇子の要部分に当たる、先端には入り口があり、そこから商店街は中心に伸びていた。
曲線部分には貴族街が立派に建ち並び、その近くの右側には繁華街、左側には住宅街が建っていた。
繁華街から壁側に向かってスラム街はひっそりと建っており、繁華街とスラム街の境めにルドベキアのアジトは建っていた。
街並みを見渡している俺にディアルスは、肩をポンポンと二回叩き親指で商店街の方を指差す。
どうやら、中央広場は商店街方向にあるらしい。
ディアルスは屋根の上を、軽々と飛び越えながら移動して行く。
俺も後へと続くのだが、ついて行くので精一杯だった。
時々ディアルスは後ろ振り返り、俺が追いつくのを待っていてくれていた。
そして中央広場が見える所まで移動すると、屋根の煙突に身を潜めディアルスは顔だけを出し、中央広場の様子を伺い始めた。
中央広場には、噴水があり水が上の方に勢いよく吹き出し水しぶきを挙げ、噴水の前方には木で出来た高さ三m程の長方形の舞台があった。
その舞台の上には人が二名分入れるぐらいの大きさで2mぐらいの高さのプラスチックで出来た水槽が設置されており、水槽の中には大量の水が貯められていた。
その周りを囲うかのように多くの人たちが群がり、ざわめきの中今か今かと待っていたのである。
暫くすると民衆の歓声と共に、立派な服を着ている貴族の人間かと思われる男が、鎖に繋がれた青年を連れて来るのであった。
鎖に繋がれた青年は、裸で激しい拷問の受けたと思われる程、全身傷だらけで首輪と足枷をされながら、水槽の前へと立たされるのである。
その青年の背中には、俺と同じく奴隷の烙印を押されていた………
ディアルスは、人差し指で中央広場をクイクイと俺に指をさして指示を出してきたのである。
「下に降りろって事ですか?」
コクンコクン…
とディアルスは頷く。
俺はその指示に従い中央広場広場へと降りて行く。
民衆の中に紛れ込んだ俺は、これから起こる事に目が離せなかった。
貴族の男は集まった民衆に向かって、なにやら話し始めた。
「この男は、先日雇い主である俺の目の前から忽然と消え逃亡を計った。
しかし、昨日諸君たちの一人の通報のお陰で、無事に捕らえる事が出来た。
逃亡奴隷は重罪である。
よって、ただいまより公開処刑を執り行う!!」
わぁぁぁぁぁという歓声と共に民衆たちは、
「早く殺れ!!」
「死んでしまぇ!!」
等と青年に石を投げつけ罵倒を浴びせる中、貴族の男は青年の足枷にある鉄球を勢いよく水の中に落としたのである。
鉄球に引きずられ、青年も水の中に落ちて行く。
鉄球の重みで青年は水面に上がる事も出来ずに、もがき苦しんでいた。
その姿をニヤニヤと笑いながら貴族の男は、青年の頭の上に棒を突き立て浮き上がってこないようにしている。
そんな残虐な光景を民衆たちは拍手喝采を送り大興奮していた。
痛くないはずの背中がチクチクと疼き出し………
“もしかしたら、俺も……”
と思うと人ごとの様には思えなかった………
拳を握りしめ今この瞬間【黒のアーツ】を発動し、この場にいる人間全てを消しさってしまいたくなる……
しかし、依頼内容が『一人の犠牲者出さず……」との事なので諦めるしかなかった…
そして、次第に青年の動きは緩慢になっていく………
思わず最後まで見ている事が出来ず、俺が目を離した瞬間だった。
突然激しい風が舞い上がり、竜巻を起こしながら水槽を直撃し破壊したのだ。
水しぶきが飛び散り、誰もが混乱状況に陥いっている中、俺は屋根にいるディアルスと目が合う……
ディアルスは、右手を前に出しながらアーツを発動していた。
そして、俺の姿を見ながらコクンと頷くのを確認し、ようやくこの騒動はディアルスがやった事なのだと理解出来、青年の所在を確認する。
青年は竜巻に巻き込まれ、空高く飛び上がり鉄球の重みと共に中央広場より少し離れた地面に急降下していた。
「やばいっしょ!!?」
と思わず声に出てしまったが、その落下地点に俺は周りの混乱に乗じて怪しまれる事なくサッサッと抜け出し、両手を前に出しながら受け止める準備をする。
両手両足がビリビリと振動を起こし、かなりの衝撃があった。
だが、ルドベキアの【重力のアーツ】を受けていたせいで、身体がそれに慣れていたのか無事に受け止める事が出来、早々とその場から離れる事にしたのである。
青年を連れたまま、俺は建物の影に隠れ【白のアーツ】を発動する。
「げほっげほっ」
青年は、なんとか息を吹き返えす事は出来たものの、目を冷ます事はなかった。
“これからどうすればいいんだろう……”
と考えていると、ディアルスは俺の居場所を突き止め合流してくれた。
意識のない青年の姿を見たディアルスは、青年を背負い歩き始める。
「『プルキブウム』まで送り届けるのですね?」
その質問にディアルスは、俺の顔を見ながら頷くのであった。
再び屋根の上を歩きだし、『プルキブウム』に向う。
しかし、ディアルスはなぜかアジトの屋根で立ち止まり、下へと降りて行くのであった。
そして裏口にいた仲間の男に青年を預けると、ディアルスはさっさと中に入ってしまうのである。
仲間の男は、俺の姿を見ながら、
「初仕事ご苦労さん、ルドベキアの兄貴に報告しにいくといい」
「??」
言われるがまま、俺はルドベキアの部屋へと行き中に入ると、既にディアルスが立っていた……
「よぉ、速かったな……それで上手く行ったか?」
ルドベキアの問いに、ディアルスは頷いていた。
「そうか、わかった……後の事は任せろ」
そうルドベキアが言うとディアルス頷き、部屋から出て行ったのである。
ルドベキアは、机の上から別な書類を取り出し秘書へと渡し、秘書はそれを持って部屋から出て行ったのである。
一息ついたルドベキアは、俺の存在にやっと気づいてくれた。
「んっ?ルークか……どうした?」
「いっいや…………『プルキブウム』に送り届けるって書いてあるのになぜ、ここなんですか?」
「『プルキブウム』はここだ、教えていなかったか?」
「!!」
“聞いていないって!!!”
「あの、俺たちが連れてきた男の人……どうなるのですか?」
「…………」
ルドベキアは即答してくれなかった……
机の上で右手の人差し指を叩きながら俺の目をじっと見つめ、暫くしてから口を開いてきた。
「あの男は、奴隷だ…………」
「はい……背中見ました…………」
「あの男はな、貴族の家から逃げ出し俺の元に来て、助けを求めてきた」
「助け……?」
「あぁ……しかしそれは断った……
断って雇い主に連絡し、引き取りに来てもらった」
「!!」
「何故ですか!?
ルドベキアさんが通報しなければ、あの男の人は虐待にも会わなかったし、死ぬ思いもしなくて済んだのですよ!!」
「お前……俺に意見するつもりか?」
「だっておかしいですよ!」
「そのおかしい現実がお前にとっても、あの男にとっても避けられない現実なんだよ!!」
「!!」
その言葉に俺は反論が出来ず、黙り込んでしまう……
「言われた依頼は達成出来たんだ………
とりあえず今はもう休んでいいぞ」
「……納得は出来ませんけどね…………
それに休めと言われましても、何をしていいのかわかりません」
「アジトの中を探検したらどうだ?」
「………そうですね、ではそうします」
ルドベキアの部屋を出た俺は、避けられない現実がいつ自分に降りかかるのか………
処刑の風景を見てしまい、それは暫く頭の中から離れる事はなかった。
それでも気を間際らそうかと、早速アジトの中を探検して見る事にした。
アジト曰く『プルキブウム』の中は意外と広かった。
玄関を背にし、ドアが五個存在し一つはルドベキアの部屋だ。
まず、右手側には食堂があり、十個程の椅子と長いテーブルが置かれていた。
その奥には、炊事場には女の人たちが五、六人集まり忙しく動き回りながら晩御飯の準備をしていた。
「坊や……見ない顔だけど新人だわさ?」
ぷっくらとした体型のおばちゃんは、愛想よく俺に話しかけてきたのである。
「えっと……そんな感じかな?」
「んじゃまぁ〜ここの説明をするだわさっ。
私はここの責任者の料理長だわさっ。
味が薄かったり、美味しくなかったりしても苦情は受け付けないだわさ」
“受け付けないんかよ……”
と思わず突っ込みを入れたくなったが、それをいう前におばちゃんが話しを続けてきたのである。
「まず食事は、朝七時から一時間とお昼の0時から一時間、そして夕方は六時から一時間だわさ。
おかわりは自由でいっぱい食べていくといいだわさっ」
「わかりました、ありがとうございます」
一礼し俺は、そうそうと炊事場を後にしたのだ。
“だわさ〜
うん……やばいあれは癖になりそう……”
そう思いながら俺は『だわさおばちゃん』と勝手に命名し、次の場所へと進む事にした。
玄関から左手に進みドアを開けると、ギロリッと俺は睨まれてしまうのである。
その部屋の中には、十人ぐらいの男の人や女の人たちがおり、そのうち一人の男の人が話しかけてきた。
「よう兄ちゃん、ここは兄ちゃんが来るような場所じゃないぞ……お家に帰りな」
「えっと……ルドベキアさんに働いてお金を返さないと………」
「んっ?そうだったのか、そいつは悪かったな、俺の名はアイブロウ。
これからよろしくなっ!」
「はい!」
「それでぼくぅはぁ〜、今、何をやっているのかな?」
女性は男の人の影から現れ、俺に話しかけてきたのである。
「時間があったので、アジトの中を探検していました……」
その女性は、セルビアと生き別れの双子の姉妹!!?
と思える程そっくりで、数歩後ろに後ずさりしてしまう……
似ていない所といえば………
セルビアは黄色のクリクリッのくせ毛だ。
この女性は、栗色のクリクリッのくせ毛だが、きちんと手入れをされた綺麗な髪だった……
セルビアも、これくらい手入れすればもうちょっと威厳が生まれるかも……
と思っていると、女性はしゃがみ込み俺と目線を合わせながら、
「なら、この美人のお姉さんネーヴェが案内してあげようか?」
その会話を聞いていた、周りの大人たちは、
若いからって手を出すなよ〜
許容範囲でかすぎだ〜
とか色々な野次を飛ばしていたのだ。
ネーヴェと名乗る女性は、そんなのを無視して俺を案内してくれた。
どうやらここは、待機室で色々な話しをしたり、打ち合わせをし隣の部屋からルドベキアに呼ばれ依頼を待つ所らしい。
案の定、俺が待機室から出た後、数人外へ出て行く姿を見た。
ネーヴェと一緒に部屋から出た俺は、次の場所へと歩いて行く。
待機室の隣にはルドベキアの部屋があり、その隣には客室とルドベキアの寝室へと繋がるドアがある。
その隣のドアを通れば、そこからは居住空間になっていた。
共用の洗面所や男女に分かれたトイレ、お風呂や談話室等が存在していた。
そして、二人一組の部屋が十数個設置されていた。
「とまぁこんな感じかしら………」
「あっ……ありがとうございます、お姉さん……」
そう話すとネーヴェは俺の顔をジロジロと見出し始めた。
「ぼく、お姉さんと気持ちいい事する?」
「えっ!?」
俺の言葉を待たずにネーヴェは俺を部屋に連れ込む……
そしてそのままベットに俺を押し倒し、いやらしい目で見つめてくる。
ドッキンッドッキンッ!!
心臓が飛び出しそうなぐらい早い鼓動を感じる。
「大丈夫……緊張しないで………」
そう言うとネーヴェは、俺の服の下から手を伸ばし肌を触って来る。
「ちょ!!お姉さん!?」
“そっそれはやばいって!! いろんな意味で!!”
俺の静止の言葉を聞かずにネーヴェは、ズボンを降ろそうとしてきた。
「!!!」
慌ててネーヴェを払いのけ、顔を真っ赤にしながらその場を逃げだし部屋から出て来て呼吸を整える。
「はぁはぁ………」
“勘弁してよぉ……”
そんな俺の姿を見ながら……
「もう……ウブなんだからぁ」
と呟いていた。
俺は、呼吸を整え気を取り直し今度は、ディアルスを探す事にした。
居住空間や先程の待機室にもディアルスの姿はなく、見つける事は出来なかった。
ルドベキアに聞くと、
「しらんっ」
と言われてしまうのである。
「所でルーク………」
「はい?」
「先程、あいつのお誘い断ったんだって?」
「???」
言っている意味がわからなかった。
「あいつって?」
「お前にアジト内を案内した後、『部屋に誘ったら顔を真っ赤にして逃げられた』と落ち込みながらネーヴェが報告してきたぞ?」
「………」
思い出し……また顔が真っ赤になってしまった。
「まぁいい、所でルーク今暇か?」
「やる事ありませんし、暇ですよ」
「そうか、ならばこれをディアルスと共にやってきてくれ」
そう言いいルドベキアから書類を渡してくるのであった。
その書類を受け取り俺は、ルドベキアの部屋から出て行き、ディアルスを探す事にする。
「さてと、どこにいるのかな………」
取り敢えず待機室へと移動し中へと入る。
また、ギロリと睨まれてしまう。
「なんだい?兄ちゃん………」
後ろの方ではシクシクと鳴き声が聞こえてくる。
予想通り、ネーヴェが泣きながら座り込み、慰めるかのように数人の女の人たちが周りを囲っていた。
「……」
“襲われたのは俺の方なのに………”
俺の目線がそちらの方に向いていると、アイブロウに、
「兄ちゃん……女性の誘いを断ったらダメだな〜?
それとも今、誘いを受け取りにきたのかい?」
「ちっ違います……!!
ここにディアルスさんいますか?」
「なんだ違うのか………
おいっ!ディアルス!!」
と叫ばれるとディアルスは俺の方に歩いてくる。
そして、ルドベキアから預かった手紙を渡しながら……
「ルドベキアさんから、暇ならこれをやれと……」
書類を受け取ったディアルスはコクンと頷き、俺に書類の内容を見せてくれた。
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『郵送』
⚫ランク:E
⚫依頼内容:商店街の武器屋に行き限定発売の『リバースロングソード』の入手
⚫備考:入手後、絶対に開けないまま貴族街まで届ける事
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「早速行きます?」
コクンコクンとディアルスは頷き、待機室から出るとネーヴェの大きな鳴き声が聞こえてきた。
「………」
一瞬戻ろうかと思い立ち止まると、ディアルスに首を横に降られながら俺は静止されたのであった。
アジトを出て武器屋へと向かう。
「なんのようだ?」
「『プルキブウム』からの依頼で来ました……これを」
武器屋についた俺たちは、武器屋のおっちゃんに書類を見せる事にした。
書類を見たおっちゃんは奥の方へと行き、五分後木箱を俺の前に持ってきたのである。
木箱の両端には、紙で頑丈に止められていた。
無理にでも中を見ようとするならば、紙を破かなくてはならなかった。
「箱の中身はみるなよ……」
「大丈夫ですよ……みませんから」
木箱を受け取り今度は、貴族街へと歩いて行く。
『水の街ヴァル』の貴族街も、どうやらロールライトと同じだった……
貴族街の入り口には警備兵が暇そうに立っていた。
きっと俺たちが入れば、捕まって今日のように処刑されるんだろうな……
そんな事を考えながら近づくと警備兵も俺たちに気がつき警戒し始めていた。
「止まれ………何のようだ?」
「『プルキブウム』に依頼書を出した方への依頼品です」
そう言うと警備兵は、書類を探しだし木箱に書かれている書面と照らし合わせ始めた。
「うむ、確かに受け取った……これを『プルキブウム』に渡しておけ」
受取書という物を受け取った俺は、アジトへと帰る事にしたのであった。
あっさりと終わったのだが、これでいいのだろうか……?
「後はルドベキアさんに、この書類を渡せば終了ですか?」
その問いかけにディアルスは、頷いていた。
気がつけば陽はすっかりと沈み夜になっていた。




