第九話 暗躍
―グリーンベルク視点―
「素晴らしいスピーチだったな、マモル。私まで感動してしまったよ」
息子に向かってそう感想を伝えると、彼は嬉しそうに笑った。
普通の家族関係であれば、人生最良のひとときと言ってもいいだろう。
マモルが成長して成人になってくれれば、いつか一緒にウイスキーを飲むことができるのかな。
そんな未来を想像して、私は笑った。
リサもとても注目を浴びていたな。二人揃ってS級とA級判定。
二人に嫉妬する者が現れるのも、頷けるというものだ。
今回の判定試験でA級判定が出たのは、わずか三名。そのうちの二人が私の子供たちであることは、校長としても誇らしい。
しかし、その一方で彼らが嫉妬の目に晒されていることも確かであり、そこはとても心配だ。
教職員には「忖度は一切するな」と明言しておいた。つまり、今回の判定は純粋に彼らの実力によるものだ。
それでも、色眼鏡で見る者はどうしてもいるのだな。こうして見ると年相応の子供なのに、二人は巨大な力を持った魔導士へと成長していた。
まったく、時が経つのは早い。二人を引き取ったのが、もう十年前か。あれから邪心教団に目立った動きはない。
ケルベロスを失ったことによって大きく計画が狂ったのか、教団は地下に潜ったと考えられている。しかし、いつ復活するかは分からない。邪心教団が本格的に動き出せば、二人が再び狙われる可能性だってある。
今度こそは、私が彼らを守ってみせる。
親として。
血は繋がっていないが、この十年間はとても幸せな時間だった。
子供ができないと諦めていた私たちに、二人の子供ができたのだ。嬉しくないわけがない。
妻もいつも二人のことを愛してくれている。
私のわがままで子育てに付き合わせてしまったが、妻にもそれを悔いる様子は一切なかった。
「明日からは本格的に授業が始まる。しっかり学ぶように。得られるものはたくさんあるはずだ」
「はい!」
二人は元気よく返事をすると、部屋から立ち去っていった。さてと……私は部下から送られてきた報告書に目を通した。二人の本当の母親を捜索しているのだが、彼女は熱心な邪心教団の信者であり、ほとんど洗脳されているような状態で二人を教団に売り渡した。
その前から、ひどいネグレクト状態が続いていたとも聞いている。
食事もろくに与えず、自分は教団の仕事で家を離れ、一週間も二週間も帰ってこないことがざらにあったらしい。そんな環境で、リサを守ったのはマモルだった。
マモルがどこからか食料を確保し、料理までしてリサを守っていたと聞いている。
尋常ではない。わずか五歳の子供に、そんなことができるのだろうか。
異常に発達した魔力による影響なのだろうか。
私自身、マモルほどの能力を持った人間を見たことがない。だから、分からない。
だが今は、それ以上に目の前の問題が私の頭を悩ませていた。
市場で、二人の本当の母親を見たという目撃証言があったのだ。
彼女は黒いローブを身にまとい、邪心教団のアジトと思われる場所へ入っていったという。
我々がそこへ突入した時には、すでにもぬけの殻だった。証拠も一切残されていない。
二人の母親が王都にいるということは、邪心教団もこの王都に集結しつつあるということなのかもしれない。
これまで十年以上、目立った動きを見せなかった邪心教団が、ついに動き始めた。何かが起こる前触れである可能性は高い。我々も警戒態勢を大幅に強化している。
せめて、あの子たちには平穏な学校生活を送らせてやりたい。
そのためにも……
私の手で、邪心教団を壊滅させる。




