第七話 ライバルのくもり
―シルバ視点―
「おい、シルバ。抗議しようぜ。あんな判定、認められないだろう」
取り巻きがそう憤っていた。こいつらは分かっていないのか……あいつの、あの異常性に……
「あいつ、グリーンベルク校長の息子だからって、下駄を履かせてもらってるんだよ。許せねえな」
「そうだぜ。的にも一発しか当たってないのに、なんでS級なんだよ」
僻みと妬みに満ちた言葉を口々につぶやく取り巻きたちを、俺は鋭い視線で睨みつけた。
「お、おい、シルバ……どうしたんだよ、そんな怖い顔して」
「そうだよ。何に怒ってるんだ?」
どうしてこいつらは気づかない? あの術の恐ろしさに……
「お前たち……まさか本気で教官に抗議するつもりか?」
俺の圧にひるみつつも、取り巻きの一人が意地を張るように頷いた。
「当たり前だろ! だっておかしいじゃないか。シルバがA級で、あいつがS級なんて納得いかないよ!」
(……救いようのないバカどもが)
一応、こいつらも難関を突破し、C級魔導士となった連中だ。しかし、C級程度の眼力では、あの緻密すぎる魔力制御の神髄など見抜けないのかもしれない。だが……あり得ないのだ。
無数の氷粒を同時に生成し、まるで意志を持つ生命体のように完璧にコントロールしてみせた。それだけではない。周囲への二次被害まで計算に入れ、着弾した直後に自壊するよう、術式が組み込まれていたのだ。
一体、どれほど複雑な魔力制御を重ね掛けしているというのか。
解析しようと試みることすら馬鹿らしくなるほどの高み。まさに異常だ。
俺自身、血のにじむような努力を重ね、あいつにかなり追いついたつもりでいた。
だが、あいつは身体能力の半分を失ってなお、遥か雲の上の恐ろしい高みに君臨し続けている。教官たちだって、本当は恐怖すら感じているはずだ。
自分たちにあいつを指導できるのか。そもそも、制御できるのか、と。あいつの領域は、すでに大半の教師のレベルすら凌駕しているかもしれないのだから。
「俺にこれ以上、恥をかかせるな」
絞り出すような声で言った。
「あいつは十発連続で、的のまったく同じ『中央の一点』に氷を叩き込んだんだ」
「え? そんなわけないだろ。だって一発撃ったあとにそんなことしたら、周りに破片が散らばって――」
言っても理解できない取り巻きたちの無知さに、ついに俺の怒りが爆発した。
「だから分からんのか⁉ 的を穿ったその瞬間に、すべての魔力が自壊するよう組まれていたんだよ! 寸分たがわぬ同じ位置に氷を当て続け、寸分たがわぬその場所で消滅させる……! それを無詠唱で、十発もの氷粒を同時に操ってやってのけたんだぞ⁉ もしあれが実戦だったらどうなるか、お前たちには想像もつかないのか!?」
「え……っ」
あまりの気迫に、取り巻きたちは完全に言葉を失った。
ようやく、目の前で行われたのが『奇跡』と呼ぶべき神業だったのだと悟ったらしい。
「で、でもさ……シルバの『火の巨人』なら、あんな地味な氷、一発で焼き払って破れるんじゃないか……?」
まだ分かっていない。
「……俺が火の巨人を召喚する前に、無詠唱で放たれたあの氷粒によって、俺の眉間は撃ち抜かれて終わる」
そう告げてから、俺は小さく息を吐いた。
「今、頭の中で幾通りもの攻略法を考えた。だが、一つとして突破口が思い浮かばない。それほどまでに……俺とあいつは、最初から住む次元が違うんだ」




