↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神の化身・ケルベロスを討った天才少年~世界を救った代償に両足の自由を失った彼の笑顔が周囲をくもらせる~  作者: D@5作書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/32

第六話 偏見


 お兄様による新入生代表の挨拶は、とても素晴らしかった。

 妹の私から見ても、非常に感動的なスピーチだったと思う。


 お兄様は自身の足が不自由であることに触れ、これまで支えてくれた家族や友人たちへの感謝を述べた。そして、「自分にしか持てない視点から、新しい魔導のあり方を模索していきたい」と語ったのだ。


 教壇に立つ先生方の中には、涙ぐむ人もいるほど感動的な内容だった。


 しかし、ひねくれた貴族の若者たちの反応は違っていた。


「おいおい、あいつまた綺麗な夢物語を語ってるぜ」

「そうでもしなきゃ、自分を奮い立たせられないんだろうよ」

「そりゃそうだろ。所詮、あいつはもう終わった人間なんだから」

「入学前に終わっちゃうなんて悲しすぎるだろ! 全盛期は五歳の頃か?」

 そんな下品な嘲笑が後ろから聞こえてきた。


 式典の最中ということもあり、怒りをぶつけることもできない。本当に卑劣な奴らだ。だが彼らも、いずれ本当の意味でお兄様の凄さを知ることになるはずだ。


 私は心の中でそう自分に言い聞かせ、込み上げる怒りを無理やり押し殺した。


「――それでは、新入生は魔力測定試験に移ります。校庭へ移動してください」

 案内があり、新入生の伝統行事が始まった。入学式の直後、現在の自らの実力を測るための試験だ。生徒たちは得意な魔法を披露し、教師陣によって採点される。


 魔導師のランクはS級からD級まで存在するが、この学校に入学するためには最低でもC級の実力が必要とされる。C級といえば、一般的な魔物を問題なく討伐でき、下級魔導師として十分に通用するレベルだ。


 つまり、ここに集まっている者はみなエリートと言っていい。しかし、それゆえに彼らはプライドが非常に高かった。お兄様への嫌がらせも、そうしたプライドの裏返しなのだと私は思っている。


「マモル、なかなか良かったぞ」

 校庭へ向かうと、一人の男が待ち構えていた。黒いローブを羽織ったその男の名はシルバ。

 公爵家に生まれ、生まれながらの魔力の天才と称される人物だ。

 彼は貴族課程の首席として入学しており、幼少期からお兄様を激しくライバル視していた。プライドが高くエリート意識が強い分、お兄様に勝てない現状に焦りと苛立ちを募らせているのだ。


「今回は絶対に負けないからな」


「ああ、楽しみにしているよ」

 お兄様が意に介した様子もなく微笑むと、シルバは顔を顰めた。


「くそっ、その余裕がむかつくんだよ……!」

 彼は吐き捨てるように言い残し、試験場へと向かった。


 名前が呼ばれると、シルバは高速で魔法の詠唱を開始した。彼の足元に、複雑な魔法陣が形成されていく。


「出でよ、火の巨人!」

 彼が叫ぶと同時に、魔法陣から巨大な炎のゴーレムが姿を現した。


 ゴーレムはその圧倒的な巨躯を動かし、的に向かって拳を振り下ろす。


 周囲の空気が激しく振動し、標的となっていた的は一瞬で粉々に砕け散った。


「さすが天才だ!」

 ギャラリーから歓声が上がる。間違いなく、彼は天才だった。お兄様という存在がいなければ、文句なしでこの学年のトップに君臨していただろう。


 お兄様には真似できない、強大な魔力を力任せに叩きつける一撃。破格の魔力量を持つ彼だからこそ成し得る、圧巻のパフォーマンスだった。お兄様は目を輝かせながら、その光景を見つめていた。


 お兄様は昔からそうだ。他人に嫉妬するような感情は一切持たず、目の前で起きた素晴らしい現象を、まるで学者のように冷静に観察・分析する。


「なるほど……魔法陣を組み込むことで、自身の魔力容量(キャパシティ)を最大限に引き出しているんだね。それに、あのゴーレムをこれほど自在に動かせるとは。普段から絶え間ない努力で魔力を鍛え上げている証拠だ」

 淡々と、しかし正確に相手の術式を解読していくお兄様。そして、隣に立つ私を振り返ってニコリと笑った。


「僕にはとても真似できないよ。あそこまで魔力を消費してしまうと、車椅子の制御すら覚束なくなってしまうからね」

 そう言って朗らかに笑うお兄様を見て、私はまた胸がズキリと痛むのを感じた。


「魔導士ライセンスA級」

 まだ学校に入学する前に、A級判定が下されたことに生徒たちはわかりやすく動揺していた。やがて、お兄様の番が巡ってきた。お兄様は車椅子を少しだけ進めると、「行ってくるよ」と私だけに小さく声をかけた。


 すっと息を吸い込み、吐き出す。その瞬間、周囲の空気がすっと冷え込んだような感覚があった。

 お兄様が魔力を解放する際の合図だ。


 次の瞬間、お兄様の周囲に無数の小さな氷の粒が生成された。それらはまるで意志を持っているかのように、お兄様の体を守るように優しく漂っている。詠唱すら挟まず、一瞬にして膨大な氷の粒を作り出す技術。


 先ほどの火の巨人のような派手さはないが、それがどれほど常軌を逸した技術であるかは、熟練の魔導師であれば一目で理解できる。


 教師たちからは「おお……」と、驚嘆と困惑の入り混じった声が漏れた。


 しかし、周りの生徒たちの反応は冷ややかなものだった。彼らには、目の前で起きていることの異常さが理解できていないのだ。確かに、見た目のインパクトで言えば、先ほどの炎のゴーレムの方が遥かに分かりやすい。


 この場でお兄様の真の凄さを理解できている生徒など、きっと片手で数えるほどしかいないだろう。それでもお兄様は、どこか楽しそうに魔力を操っていた。


 浮遊する氷の粒が、次々と的に向かって放たれる。一発目の氷粒が的の中心を穿つと、間髪入れずに後続の氷粒が次々と命中していく。

 合計十発の連続攻撃。


 それらすべてが、寸分たがわず「まったく同じ点」へと吸い込まれていった。誤差はほとんどない。おそらくミリ単位……肉眼では判別不可能なレベルの精密射撃だ。


「なんだよあれ、地味だなあ」

「真ん中に一発当たっただけじゃん。他に穴が開いてねえぞ?」

「もしかして命中率十%かよ! ダサすぎだろ」

 生徒たちからは嘲笑が漏れる。この正確無比な連続射撃の凄さに気づける者は少ない。


 さらにお兄様は、観客に砕けた氷が飛び散らないよう、的に命中した瞬間に氷自体が消滅するよう計算して制御していた。これもまた、尋常ではない精度を要求される魔力制御だ。玄人にしか分からない高度な技術の応酬。


 事情を知る熟練の魔導師たちだけが、目を見開いてその神業に戦慄していた。


「十発すべてだと⁉」

 シルバは思わず声が漏れた様子だった。彼は気づいていた。それがどんなに難しいことか、よくわかっているのだろう。


「魔力ライセンスS級認定」

 学生で最上級ライセンスに認定された。たしか、これは歴史上でお父様しか成しえていなかった偉業のはずだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。