第四話 母親の妄信
―?視点―
どうして分かってくれないのかしら、あのふたりは。
この十年間、私はずっとそう思っていた。
どうして邪神様と一体化し、幸せを得ようとしていたのに、私の子供たちはそれを拒んだのだろうか挙げ句の果てには、ケルベロス様という邪神様の化身にまで牙をむいた。
あんなことさえ起きなければ、邪神様はとっくに復活していたというのに。ケルベロス様まで失った私たちは、計画を大幅に後退させることになってしまった。
本当に、みんなには申し訳ないことをした。私の子供たちのせいで、こんなことになってしまって……。
マモルは素晴らしい才能を持っている。それなのに、その才能を社会のために使おうとしないなんて、おかしな話だ。
邪神様を馬鹿にする者もいる。しかし、私はそうは思わない。なぜなら、彼らが信じる神こそが、本当の意味での『邪神』なのだから。
だって、そうでしょう?
神様がいるというのなら、どうしてこの世から苦しみがなくならないの?私が苦しんでいたとき、どうして神様は助けてくれなかったの?この世界には、貧しさにあえぐ人々が大勢いる。
それなのに、神様は何もしようとしない。
そんな存在が、本当に『神様』と呼べるのだろうか。私はずっと疑問に思っていた。そして、邪神教団と巡り合ったことで、私の世界は一変したのだ。
そう、すべては神を名乗る偽物のせいだった。この世界は、偽りの神によって支配された、歪んだ社会なのだ。
だからこそ、一度すべてを破壊しなくてはならない。そうすれば、きっと誰もが幸せになれる。
あのふたりなら、分かってくれると思っていた。とてもお利口で、とても素直な子供たちだったから。
いつも私をお母さんと呼んで、慕ってくれていた。
あの人が家を出ていったあとも、私は母親であろうとした。けれど、それも間違いだったのだ。
大司教様はおっしゃった。
「あなたは偽りの神の摂理に従っているからこそ、不幸になっているのです」
その言葉で、私はようやく目が覚めた。だから、今までのすべてを捨てた。財産も、地位も、何もかも。
そして、愛する子供たちの命さえも、大義のために捧げようとした。だって、それがあの子たちにとっても、一番幸せなことなのだから。そう。大司教様の計画は十年も後退してしまった。
けれど、ようやく再び動き始めることができる。今度こそ、マモルたちにも協力してもらわなくてはならない。たとえ私の命がどうなろうと構わない。
この歪んだ社会を、必ず変えてみせる。黒いローブの奥で、私はニヤリと笑った。愚かな民衆は、まだ誰も気づいていない。もうすぐ、この世界が浄化されるということに。
そして私たちは、向こうの世界で本当の親子として幸せに暮らすことができるのだ。ああ、なんて素晴らしいのだろう。今から楽しみで仕方がない。
天国に行けば、偽りの神がかけた呪いからも解放される。もう誰も苦しまなくて済む。
だから、一刻も早く解放してあげなくてはならない。世間は私たちを悪と呼ぶ。
けれど、私からすれば、彼らこそが悪なのだ。人々の苦しみを取り除こうともせず、一部の権力者たちが富を独占する社会。
才能のある者だけが優遇され、才能を持たずに生まれた者は奴隷のように生きるしかない。貴族という身分さえあれば、どれほど無能でも尊重される。
その一方で、どれほど優れた才能を持っていても、平民というだけで何もかも奪われてしまう。そんな世界が、正しいはずがない。
私は、すべてに裏切られた。神にも、社会にも、そして愛する子供たちにさえも。だから今度は、私がこの世界のすべてを裏切ってみせる。
もうすぐ約束の時間だ。
私は仲間たちと合流するため、次のアジトへと向かった。




