第三話 養父の後悔
―養父・グリーンベルク視点―
私の息子は天才だ。
息子といっても、血はつながっていない。妻と私には、子供ができなかった。
だからこそ、マモルとリサは本当の子供のように可愛い。神が授けてくれた、私の宝物だ。
私はグリーンベルク。
伯爵であり、国内最高の魔法使いと呼ばれている。しかし、私の人生は後悔に満ちあふれていた。マモルを守ることができなかった。
彼が生まれたばかりのころ、王国は騒然となった。恐ろしいほどの魔力量を持った赤子が生まれたのだ。
私も長年、魔法使いとして生きてきたが、あれほどの魔力を秘めた子供を見たことはなかった。おそらく、歴史上でも最強と呼べるほどの才能だった。
この子は、いつか人類の希望になる。
私はそう確信した。
そして心の片隅では、いつか彼が私の後継者になってくれればとも思っていた。
当時の私は「王国最強の魔法使い」という名声を手に入れ、少しばかり調子に乗っていたのかもしれない。我々と邪神教団は、長年にわたって敵対関係にあった。
しかし当時、邪神教団は徐々に勢力を失いつつあった。平和な時代になったからこそ、邪教を信仰する者も減っていたのだ。その焦りが、彼らを強硬な手段へと走らせたのかもしれない。
マモルとリサの母親は、邪神教団に洗脳されてしまった。ほとんど育児放棄のような状態だったと聞いている。子供たちには満足な食事すら与えず、家の財産のほとんどを邪神教団へ寄付してしまった。そのため、二人は着の身着のまま、貧しい生活を送っていた。
マモルは特別な子供だった。だからこそ王国も彼を保護しようと動いたのだが、すでに遅かった。二人は邪神教団に連れ去られた後だったのだ。
まさか母親が、実の子供たちを教団へ売り渡すとは思わなかった。私の考えが甘かった。我々は必死になって彼らの居場所を追った。
しかし、邪神教団の連中は巧妙だった。そして彼らは、子供たちの命と引き換えに邪神を復活させようとした。
それを食い止めたのが、マモルだった。五歳の彼が引き起こした爆発を遠目に見たとき、私は茫然とした。次元が違った。
私ですら見たことがないほどの破壊力だった。世間の人々は、王国最強と呼ばれる私ならばケルベロスを倒せると思っているのかもしれない。
だが、実際に戦えばどうなるか。おそらくケルベロスを倒すためには、私も命を差し出す覚悟が必要になる。
そんな怪物を、マモルはわずか五歳で粉砕したのだ。あのまま順調に成長していれば、どれほど巨大な魔法使いになったのだろう。
私など、いずれ簡単に追い抜かれていたはずだ。それなのに……私は人類の未来も、彼自身の未来も守ることができなかった。
二人を養子にしたのも、もしかすると私の罪滅ぼしにすぎないのかもしれない。
マモルは魔力の半分以上を失っても、努力することをやめなかった。足が不自由になってからは、再び歩けるようになるため、必死にリハビリを続けた。私もできる限りのことをした。
高名な聖女や神官たちにも頼み、どうにか足の麻痺を治せないかと、ありとあらゆる手段を試した。
しかし、どんな方法もうまくはいかなかった。マモルの足が再び動くことはなかった。そして彼は、本来持っていた膨大な魔力の半分以上を失った。
もちろん、今でもマモルは十分に強い魔法使いだ。
だが、本来ならばこんなところで終わるはずのない人間だった。順調に成長していれば、いつか必ず私を追い抜いていただろう。いや、私など比べ物にならないほどの存在になっていたかもしれない。
それほど巨大な才能を、我々は失った。
そして私は……彼を守ることができなかった。
あの日。
爆発が起きた場所へ、我々はすぐさま駆けつけた。辺り一帯が、金色の炎に包まれていた。
恐ろしい勢いで炎が燃え上がり、魔力の気流すら反転している。異常な雰囲気が、その場に充満していた。
爆心地と思われる場所は大きく窪んでいた。そのすぐ近くに、マモルは横たわっていた。
「大丈夫か!」
私は夢中で駆け寄った。するとマモルは、意識を失いかけているというのに、かすかな笑みを浮かべて言ったのだ。
「よかった……みんな、助かったんだね」
自分がそんな状態になっているというのに、最初に心配したのは他の者たちのことだった。その優しさに、私は胸を締め付けられた。
人間としての器の違いすら感じた……せめて、この子たちには幸せな人生を送らせてやりたい。そんな願いまで抱いてしまう。
滑稽な話だ。
彼らを守ることすらできなかった私に、そんなことを願う資格があるのだろうか。
「お父様、お兄様と一緒に来ました」
部屋の外から、リサの声が聞こえた。今日は二人を呼んでいたのだった。
「ああ、入っておいで」
扉が開き、二人がゆっくりと私の部屋へ入ってくる。
マモルの車椅子姿を見るたびに、今でも胸が締め付けられる。
それでも私は、父親としての責任を全うしようと思う。
「二人とも、立派になったな。明日からいよいよ魔法学校だ。入学祝いに、二人のための杖を作ってみた。明日からはこれを使うといい」
リサには、標準的な長さの杖を。そしてマモルには、車椅子に乗ったままでも扱いやすいよう、短めの杖を渡す。もっとも、マモルには杖などほとんど必要ないのかもしれない。
それでも魔力増幅の効果を持つこの杖を使えば、ほとんどの学生を上回る力を発揮するだろう。
いや――。
すでに並の教師すら超えているかもしれない。
「ありがとうございます、お父様」
リサが嬉しそうに笑う。
「ありがとう、お父さん」
マモルも笑ってくれた。
――お父さん。
そう呼ばれるたびに、嬉しくなる。そして同時に、怖くなる。
私は本当に、この子たちから「父」と呼んでもらえる資格があるのだろうか。
二人が立派に成長していく姿を見るたび、そんなふうに怯えてしまう自分がいる。
「今日は入学祝いに、お母さんが二人の大好きなシチューを作ってくれるそうだ。楽しみにしておくといい。明日は早いから、しっかり準備をして、今日は早く寝るんだぞ」
「はい!」
二人は、まだ幼かったころと変わらない笑顔を見せてくれた。
私はこの二人を、本当の我が子だと思っている。愛している。
だからこそ――。
私の後悔は、いつまで経っても消えてくれない。




