↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神の化身・ケルベロスを討った天才少年~世界を救った代償に両足の自由を失った彼の笑顔が周囲をくもらせる~  作者: D@5作書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/34

第二話 幼馴染の苦悩

 ―幼なじみ・ミランダ視点―


 私はいつものように、隣の家へと向かった。 そこでは幼なじみのマモルが、中庭でいつものようにチェスの本を読んでいた。


「おはよう、マモル」


「あ、おはよう。ミランダ」

 マモルはチェスの本から顔を上げ、私に向かってにっこりと微笑んでくれる。いつもの優しい笑顔だ。


「またチェス? 勉強しなくていいの?」

 彼は明日から、難関で知られる魔法大学の魔法科に進むはずだ。それなのに涼しい顔で、チェスの勉強をしている。なんともまあ、すごい頭脳だと思う……マモルは、私たちを守るために半分以上の魔力を失っている。


 私も、邪神教団に囚われた子供の一人だった。私の父親は、この王国の名門貴族だ。その一人娘である私は幼いころから英才教育を受け、何不自由なく成長した。しかし五歳になったある日、突然、何者かに誘拐されてしまった。


 なんでも邪神教団にとって、貴族の血は邪神を召喚するために必要だったらしい。だから私が狙われたのだ。邪神教団のアジトで、私は同い年くらいのマモルたちと出会い、仲良くなった。


 マモルは妹のリサを守るため、大人を相手にしても一歩も引かなかった。いや、リサだけではない。私たち子供全員を守るために、彼一人が戦っていたように思う。


 力だってほとんどない、ただの五歳児だったのに。それでも、そのあまりに頼もしい姿を見て、私たちは錯覚してしまったのだ。マモルは、自分たちよりずっと大人なのだと。


 だから私たちは、彼に頼り切ってしまった。邪神教団のアジトで過ごした、ある夜のことを今でも覚えている。

 私は怖くて震えていた。

 それを見かねたのか、マモルが話しかけてくれた。


「怖いのかい? ミランダ」

 まだ声変わりもしていなかったころの、彼の高い声。今でもはっきりと思い出せる。

 あのときの私には、まるで天使の声のように聞こえた。


「うん、怖いの。私はどうなってしまうのかしら。このまま殺されてしまうのかしらって思うと、とっても怖いの」


「そうだよね」

 震えている私に、彼は優しく手を差し伸べてくれた。


「マモル……私が殺されそうになったら、助けてくれる?」

 彼は私を安心させるように、にっこりと笑った。


「もちろんだ。絶対に僕が君を守るよ」

 あのとき私は、まるで物語に出てくるお姫様になったような気分だった。


 だけど、その言葉は今では呪いになっている。

 

 マモルは本当に私たちを助けてくれたからだ。たった一人で、教団が生み出した邪神の化身ケルベロスと戦った。


 そして、魔力の才能と足の自由を失った。幼き英雄との二つ名と引き換えに……そして、大衆はすぐにその英雄を忘れ去ってしまった。


 今でも思う。

 あのとき、私があんなことを言わなければ、彼は一人で逃げられたのではないかと。


 私たちという足手まといがいたせいで、彼は才能も、将来得られたはずの名声も、すべて失ってしまった。私たちのような凡才を助けるために。


「ねえ、マモル。今日はお散歩に行かない?」


「いつもありがとう。今日もお願いできるかな?」


「もちろん」

 マモルは車椅子に乗っている。これは彼自身が作った特注品だ。自らの魔力を流し込むことで、少しずつ車椅子を動かせる仕組みになっている。けれど、その操作にはかなりの魔力を使う。


 誰かに押してもらったほうが、彼も疲れずに済む。

 だから私はいつもこの時間にマモルを散歩へ連れ出すことを、日課にしていた。街の人たちは、私たちをまるで許嫁のように扱っている。お父様も、私のために命を投げ出してくれたマモルのことが大好きだ。


 命の恩人なのだから、それも当然だろう。東の国から伝わってきた「桜」という木が、美しい花を咲かせている。

 

 春になると、私たちはいつもここを散歩する。

「今年も綺麗だね」

 マモルが言った。


「うん。とっても綺麗」

 マモルは、お父様の親友であるグリーンベルク様に引き取られ、その養子となった。


 グリーンベルク家は私の屋敷から近い。だから私は、いつでもマモルに会いに来ることができる。もう十年近く一緒にいるのだから、世間から見れば幼なじみのような関係なのだろう。


 でも、私にとってマモルは、ただの幼なじみではない。

 もっと大切な存在だ。


 命を投げ出してでも報いたい。

 そう思ってしまうほどに。


 どうして彼は、私たちのせいでこれほどの犠牲を払ったのに、愚痴の一つも言わないのだろう。いつもニコニコと笑っている。


 魔力の才能を半分以上失っても、努力することをやめない。チェスだって、今では国内トップクラスのプレイヤーになりつつある。


 本当に、努力ばかりしている。できることなら、一度くらい私に暴言を吐いてほしい。

『お前たちのせいで、俺は才能を失ったんだ』

 そう言われたほうが、どれほど心が救われるだろう。


 でも、マモルは決してそんなことを言わない。一度だけ、彼が泣いているところを見たことがある。

 まだ小さかったころだ。たぶん、七歳か八歳くらい。


 どれほどリハビリを続けても、足がまったく良くならなかったころだった。

 彼は苦しそうに芝生の上に座り込んでいた。誰もいないと思っていたのだろう。


 一人で、ぽつりと弱音を吐いた。

「どうして僕の足は動かないんだ……」

 その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられそうになった。全部、私たちのせいなのに。それなのに彼は、そのつらささえ一人で抱え込もうとしていた。


「いつもありがとう、ミランダ。君のおかげで毎回楽しい散歩ができるよ」

 彼の言葉で現実に引き戻された。


「私もよ」

 ゆっくりと、大切な時間が流れていく。私は今年から、魔法学校の貴族課程へ進む。貴族課程では魔法の勉強が少し減る代わりに、政治や経済、礼儀作法などを学ぶことになる。剣技もその一つだ。

 貴族として、自分の身を守る術を身につけなければならない。


 私はすでに、女剣士としてそれなりに名を知られていた。必死に剣を学んできたからだ。

 今度は私が、マモルを守る。

 私たちを守ったせいで身体が不自由になった彼のために、今度は私が盾にならなければならない。


 そう決意していた。

 そうでもしなければ、彼に報いることなんてできないと思ったからだ。私はマモルの背中を見つめながら、心の中で語りかける。


(ねえ、マモル。私のことを好きにしてもいいのよ。それほどのことを、あなたは私にしてくれたのだから……あなたのためなら、私は何だってできる。身体を差し出したって構わない。それなのに……どうしてあなたは、いつもそんなに優しいの?)

 言葉にしたら消えてしまいそうな気持ちが、ゆっくりと彼へ向かっていく。


 これは恋なのだろうか。

 それとも、罪悪感なのだろうか。

 私にはまだ、わからない。


 愛情と償いの狭間で、私はいつも揺れている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。