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邪神の化身・ケルベロスを討った天才少年~世界を救った代償に両足の自由を失った彼の笑顔が周囲をくもらせる~  作者: D@5作書籍化


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第一話 曇っていく妹

 お兄様は天才だ。五歳で、邪神の化身であるケルベロスを倒した。

 双子の兄であるマモルは、生まれながらにして絶大な魔力を持っていた。


 そして母は、兄の魔力を利用しようとしていた邪神教団につけ込まれた。母の精神的な弱さにつけ込んだ邪神教団は彼女を支配し、私たち兄妹を教団へ売り渡させたのだ。


 私たちは、生贄にされそうになった。邪神教団の神を、再び現世に蘇らせるために。しかし兄は、わずか五歳にして邪神教団を相手取り、私たちを逃がした。


 さらに、追ってきた邪神の化身……ケルベロスを撃破したのだ。


 でも、その代償は、あまりにも大きかった。

 お兄様はケルベロスを退治した際、持てる魔力のすべてを解き放った。

 その結果、神にも届き得ると思われていた魔力の才能の半分を失い、足の自由まで奪われた。


 そして、十年後……


「リサ、今日は天気が良いね」

 魔法学校への入学を明日に控えた今日、私はお兄様と中庭で紅茶を飲みながら、チェスをしていた。

 お兄様は、私たちのために自らの才能を失ったというのに、いつも笑っている。


「そうですね」

 彼の優しい笑顔に、胸が締め付けられそうになる。

 私たちを守るために、兄は史上最強の魔導士になり得た才能を失ったのだ。

 そして、自らの足の自由さえも。


 膨大な魔力を使った副作用のせいなのか、あの戦いの後からお兄様の足には麻痺が残っている。どんな聖女の治癒魔法でも治せないほど、強力な麻痺だ。


 邪神の呪いではないかと噂されていたが、養父であるグリーンベルクはそれを笑って否定した。王国最強の魔導士と呼ばれるお父様は、私たちの前では優しい父親だった。


 血がつながっていなくても、私たちのことを心から愛してくれている。身寄りをなくした私たちを引き取り、十年間、立派に育ててくれた。


 そして今度は、自らが校長を務める魔導学校へ、私費を投じて私たちを入学させてくれたのだ。


「明日から忙しくなって、リサとこうしてチェスもできなくなるのは悲しいね」

 私のキングをチェックメイトした後、兄はそう微笑んだ。


「お兄様なら、学校の授業なんて簡単に追い抜いてしまうでしょう?」

 私は苦笑しながらそう言う。


「そんなことないよ。追いつくだけで精一杯になるはずだよ」

 彼はケタケタと笑った。……どうして、こんなに素敵な笑顔を作れるのだろう。私たちのせいで足も動かなくなり、魔力の才能の半分まで失ったのに、兄は決して私たちを責めることはなかった。


『大丈夫だよ、リサ。僕が守ってみせるよ。何に代えても、君たちを守るために。僕は……』

 あの日、ケルベロスの前に立ちはだかり、私たちを逃がしてくれたお兄様の言葉を、今でも思い出す。私たちは死にたくなかった。だから必死に逃げた。


 そしてお兄様は、わずか五歳でケルベロスと戦った。私たちが山を下り、街へ戻ったときだった。

 背後から、轟くような爆発音が聞こえた。それがお兄様の最後の一撃だった。


 ケルベロスは四散し、消滅した。教団も邪神復活計画の要だったそれを失って地下に潜ることしかできなくなった。


 お父様ほどの魔導士でさえ倒せるかどうかわからない邪神の化身を、わずか五歳の天才少年が打ち破ったのだ。


 その報せは瞬く間に王国全土へ広がり、兄は英雄となった。潜在能力だけならば、王国最強の魔導士であるお父様すら超えるかもしれない。誰もがそう期待した。しかし、その期待はすぐにしぼんでしまう。私たちを助けるために、あまりにも多くのものを失っていた。


 両足の自由と魔力の才能の半分を失ってしまったのだ。それでも十分に強力な魔導士ではある。

 けれど、本来ならば手が届いたはずの「史上最強の魔導士」には、もうなれない。


 私たちのような凡才を守るために、兄は天才ではなくなってしまった。

 ずっと、ずっと――それが私の心に引っかかっていた。


Dと申します。

最近、カクヨムさん中心に活動していたのですが、久しぶりにこちらに戻ってきました!

完結には自信があります!


現在

『人生逆転』・『老兵は死なず、ただギルドの受付になるのみ』・『追放公爵、ダンジョンを踏破する』など5作を書籍化・マンガ化しております!


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