第三十八話 監視
―リサ視点―
ミランダさんとお兄様の後ろ姿を、遠くから眺める。大聖堂にお願いして、私の影武者を立ててもらっている。だから表向き、私は今も大聖堂にいることになっていた。
変装し、お兄様とミランダさんの後をつける。二人は幸せそうに笑っていた。
それを眺めながら、どこか複雑な気持ちに襲われる。
お兄様の魔力感知は相当なレベルだ。だから、お兄様の魔力感知の範囲外から二人を見守らなくてはならない。
おそらく教団は、私と同じようなことをしているだろう。どこかで監視している。ならば、どこかに怪しい人物がいるかもしれない。聖女の力を使えば、対極にいる邪神教団のメンバーを捜し当てることができるかもしれない。
そう言って、父様に直談判した。
危険な真似はするなと言われながら、私は命知らずな覚悟でお兄様たちを見つめる。どこにも怪しい人物はいなかった。
能力を最大限まで強め、周囲を監視する範囲も広げているのに。誰も私の捜査網には引っかからない。
「まあ、これくらいで尻尾を出すような相手も愚かじゃないわよね」
私はそうつぶやいた。もちろん監視者は見つかってほしいが、そう簡単にはいかないことも分かっている。
十年前に組織は壊滅的な打撃を受けた。
「もう次の失敗を許せるほどの余力はないはず」
では、どうやってお兄様たちを監視しているんだろうか。それを突き止めることが今回の目的だ。だが、お兄様の周囲にはミランダさんや男爵家の子供たち以外の姿が見えなかった。
どこかに裏切り者がいるのかもしれないけれども、お兄様と積極的に接しようとしているクラスメイトはほとんどいない。まるで腫れ物を扱うかのように、お兄様と接している。
こうなってしまったら、なかなか容疑者を断定することはできなかった。
遠巻きに監視している可能性もあるが、邪神のオーラを検知することはできなかった。焦ることはない。
「お兄様さえ守り切れればいいんだ」
日を変えて、少しずつ監視する場所を変えていこう。そうすれば何かが引っかかるかもしれない。同じように、何度も出会う人間も怪しい。もしかしたら、邪神教団側から脅されていて、協力を強いられている可能性もある。
オーラが分からないからといって、本当に容疑者から外していいのかはまだ分からないんだ。いったい誰が味方なのだろうか。
私は比較的、クラスではよく話しかけられる。次の聖女という評判を聞いて、仲良くしたい人間も多くいるんだろう。それはとても下心が見え見えだ。
男性陣も私の外側だけを見て、気軽に話しかけてくる者も多い。それを適当にあしらってはいるけれども、誰も私の本質なんて見てくれてはいないことに気づく。
放課後などにも遊びに行こうと誘われることも多いのだけれど、そうした人間にはあまり興味がなかった。ちょうどいいことに、大聖堂での仕事があるという言い訳がうまく使えた。
だから私は表面的な仲のいい友達が多いけれども、本当に理解してくれているのは、あの邪神教団の事件で生き残ったお兄様とミランダさんだけなのだ。監視をしながら、少しずつ自分が空虚であることに気づく。それでもいい。
「たとえ空虚であっても、私にはお兄様がいる」




