第三十七話 守
「ねえ、マモル。今日は変わったことはなかった?」
学校が終わったあと、私がマモルを引き受けていた。リサさんも一緒に帰るとなると、いつもとは違うルーティンになってしまう。つまり、何かを悟られる可能性がある。
私たちがマモルには秘密にしておくことが大事だったから、あえていつもと同じような順番でマモルの車椅子を押すことにしていた。
「特にないよ。何かあったかい?」
「何もないならいいのよ。シルバさんたちがまた変につっかかってこなかったか、心配しただけ」
そう言ってごまかす私に、マモルは優しい笑顔を向けてくれる。
「大丈夫だよ。あの決闘のあとから特に絡まれていない。シルバはシルバで自分の技術を高めることに集中しているみたいだし、取り巻きは、まあ、何も言えなくなってきているよ」
「それはそうよね。マモルの圧倒的な実力を見せつけられたら、なかなか何も言えないわ」
少しだけ安心して車椅子を押した。もしかしたら、シルバさんやシルバの取り巻きたちが教団の息のかかった人間かもしれない。
疑い出したらキリがない。どこに敵が潜んでいるのかわからないのだ。信用できるのはグリーンベルクさん、リサさん、マモル、そして私の四人だけ。
学校にいるときは、常に緊張感を持って動かなくてはいけない。
「それにしても、リサもミランダも随分と過保護だね、最近。何かあったの?」
思わずドキッとした。
でも、マモルは前のほうを向いているからか、私の驚いた表情は見られていない。だからごまかせる。
「ないわよ。ただシルバさんたちにしつこく絡まれていたから、心配しただけ。ほら、よくない不良学生もこの前とっ捕まえたからね。あのあとどうかなと思ったのよ」
「そんなこともあったね。なんだか懐かしいな」
「懐かしいって、まだ一週間も経っていないことじゃない」
「それはそうなんだけどね。なんだか学校に入ってから、一瞬で物事が過ぎるというか」
マモルは年相応に笑う。その表情を見て、私はとても嬉しかった。
「ねえ、マモル?」
「なんだい?」
「ちゃんと伝えておきたいことがあるの」
「うん、聞かせてくれ」
「あの、邪神教団に捕まったとき、私はマモルに言ったよね。『助けて』って」
「ああ、言ったね。それが僕たちの関係を作ってくれたというか、結びつけてくれたんだよね。今となってはとても懐かしい思い出だけど、この出会いに感謝したいな」
とても彼らしい言葉だったけれども、それでも誠実な言葉だ。私は何度もときめきを抑え込もうとして必死になる。あの惨たらしい事件を思い出と言ってくれることに、私は少しだけ同意した。でも、やっぱり伝えなくてはいけない。
「今度は私がマモルを守るからね。あのときみたいに一人で逃げたりはしない」
「違うよ。あのときは僕がみんなに逃げろって言ったんじゃないか」
「それでも、もう守られるだけの存在が嫌なの。あなたを守りたいの。少しでも時間を稼ぐぐらいでもいいから、今度は私にあなたを守らせて」
そう言って彼と向き合い、しゃがみ込みながら彼の膝に手を置く。その手はかすかに震えていた。
マモルは聖母のように慈悲深い笑みを浮かべていた。中性的な美しい表情をこちらに向けてくれる。
そして、震えている私の手を、彼の両手が優しく包み込んでくれた。
「頼りにしているよ、ミランダ。でも、僕も守られてばかりじゃ嫌だからね。あの頃に比べたら弱くなったかもしれないけど、まだ強いんだよ。難しいことが起きたら、二人で協力して助け合おう」
「ありがとう。私、頑張るわ」
彼の手を掴みながら、私は彼の底なしの優しさを、その瞳の奥に捉えた。




