第三十五話 グリーンベルクの焦り
―グリーンベルク視点―
娘たちとの相談が終わって、部屋で一人になった。
「ついにミランダさんにまで接触があったということか」
思わずつぶやいた。
まさか、奴らがこうやって表立って動くとは思わなかった。そもそも今回の動きを示唆させた行為はなぜだろうか。違和感がある。
本来であれば、秘密裏に動く方が彼らにとっては合理的だったはずだ。にもかかわらず、自分から宣戦布告のようなことをした。
「こちらが協力者たちをあぶり出していることに焦りを覚えているんだろうか」
何かの誘導かもしれない。マモルに護衛戦力を傾けることで、別の方向に何かを求めている可能性もある。
正直に言えば、何が起きているか分からない。しかし、マモルの護衛は強化が必要である。秘密裏に騎士団を回して、マモルには常に数人の護衛を配置していた。マモルも気づいているかもしれないが、何も言わない。
自分が教団にとってどんな価値があるか、彼らも分かっているからか。しかし、教団が積極的に動き始めたならば、果たしてあの護衛で足りるだろうか。
本来であれば私が直接指揮を執っていたいものだが、それも叶わない。
やはり、教団のアジトを特定して、先制攻撃で潰すしかない。
マモルに何かあっては前回の二の舞になってしまうのだ。
まったく、あいつらめ。
しかし、教団の摘発作戦はあまり進行していなかった。数人の教団幹部たちを逮捕することもできたが、彼らが知っている情報はほとんど限られていて、芋づる式に他の教団メンバーを逮捕するには至っていない。
相当工夫はされているようだ。教団信徒はお互いの名前も知らないということも多く、人相だけの情報しか出てこなかったりもする。
「これでは捜査は一向に進まない」
精神的な焦りが生まれる。教団はこうして私たちを攪乱しているのだろう。
焦れば焦るほど向こうの思う壺だ。
そう思って、一口ウイスキーを飲んだ。スモーキーなウイスキーが心に安寧をもたらしてくれた。
ただ、壊滅的な状態になった教団に加え、こちらも相当な人数を逮捕し続けている。おそらく大きなダメージを受けているのだろう。
マモルたちの母親のことは追っていたが、やはり相当重要な人物ということで、うまく護衛されているらしい。
そんな彼女が自ら動くとなると、向こうも本気だろう。だが、奴らは切り札であるケルベロスも失っている。
果たして何ができるんだ。
こちらが有利な状況であるとは思っているが、それだけに敵が何をしてくるか分からないことはもどかしく、そして不安でもある。
「落ち着け。子どもたちを守るのが父親の仕事だろう」
私はそう言って自分を勇気づけた。
そうしなければ、マモルたちを守れないと思ってしまう。自分の自信が揺らいでいるようにも思えて、やはり複雑な気持ちが心の中に渦巻いた。
過去の出来事がフラッシュバックする。私は一度失敗した側の人間だ。
だからこんなに焦って慎重になっているだけだ。
そう信じていたかった。




