第三十話 焼き芋
「今日の試合もすごかったわね、マモル」
私がそう言って彼を褒めると、彼は恥ずかしそうに笑った。
「ありがとう。でもギリギリだったよ。シルバが先に魔力を使い切ってくれて助かった。でも、シルバの魔力はどんどん伸びていく。簡単に僕は追い抜かれるんだろうね。今の僕は小さな頃の貯金で生きているようなものだから」
彼はいつも謙虚だなと思う。そして、その言葉が少しだけ私の心を抉る。
でも、仕方がない。それが私の罰だから。
「そんなこと言って、マモルだって相当努力してるでしょ?」
私がそう励ますと、彼は「ありがとう」と言ってくれる。
彼は相当努力をしている。魔力を取り戻そうと、瞑想する時間を延ばしたりもしていた。
だが、魔力の戻る速度は緩やかであり、最近は停滞気味とも聞いている。そこに少し焦りがあるのかもしれない。
彼を焦らせてしまっていることに泣きそうになりながらも、私は気丈な笑顔を見せた。
「ミランダはどう? 学校生活は」
「楽しいわよ。最近は友達も増えてきたし、今度お茶会の約束もしているの」
「それはいいね。たまには楽しんでくるといいよ。なかなか同年代の女の子と遊ぶ時間もないだろうから」
お茶会をする相手が女の子だと確信しているようで、少しだけ嬉しかった。男の人から言い寄られることもあるけれど、それはすべて拒絶している。
マモル以外の男性と仲良くなる気はない。だから、お茶会も貴族の令嬢たちからの誘いがもっぱらだ。
「そんなこと言って、マモルは結構、女の子と仲良くしてるんじゃないの?」
私が少し冷たい声で言うと、「そんなことないよ」と彼は苦笑している。
私の真意に気づいているんだろう。それでも彼は、それ以上は何も言わなかった。
お茶会は学校が休みの日に行くことになる。平日はマモルと過ごす時間を優先したい。
私はいつもそう言っている。ほとんどの生徒はそれを聞いて、「まあ」とか「やっぱり」とか、そういう反応を見せる。
顔を紅潮させて興奮する女の子もいる。恋人なのだと思われているらしい。
確かに、これが普通の恋人だったらどんなに素敵な話だろうか。
でも、私たちの場合はそうではない。すでに学校では、私たちが婚約しているという噂も流れていた。
そんなことは一切ないのに、私は絶対にその噂を否定しないようにしている。否定してしまえば、嘘が本当になってしまうと思うから。
少なくとも私は、あのケルベロスの件で、言葉が呪いになることを知っているから。マモルとの未来があるというのならば、私はその言葉が噂であったとしても尊重したい。
そんな儚い気持ちに支配されていた。
「あ、マモルさんとミランダさんじゃん!」
近所の少年たちが私たちに声をかけてくれた。
男爵家の息子二人だ。二人はまだ十歳前後だが、好奇心旺盛で、私たちとよく遊んでいる。マモルも、たまにリラックスしたいときは、この二人の年下の子供たちと遊ぶことで、いつもとは違った笑顔を見せてくれる。
「二人とも、今日は何をしているの?」
私がそう聞くと、二人は簡単な魔法を使って焚き火をしていた。
兄のほうは火の魔力が得意で、弟は水の魔力が得意だ。
だから、こうやって焚き火をする分には危なくはない。
まあ、子供たちだけで火を使うのは、さすがによくないとは思うのだけれど。なので、私たちもその様子を見ることにした。
焚き火が温かい。
まだ春とはいえ、肌寒い日も多いから、火を見るとなんだか安心する。実は二人は、父親からもらった食べ物を焼いていたのだ。
「火に入れるだけで美味しくなるっていうからさ」
そう言って二人は、枝の先につけたものを火から取り出した。
丸くて長細い。
見たこともない形をしている。色は紫色だろうか。
なんだか不思議な形だ。
「ああ、スイートポテトだね」
マモルがすぐにピンときた。聞いたこともない食べ物の名前だった。ポテトは知っていたけど、色や形が違う。
「違うよ! クイズにしようと思っていたのに、どうしてすぐ答えちゃうんだよ!」
お兄さんは少し残念そうに笑う。
弟も「さすがマモルさん!」とはしゃいでいた。
マモルは博識だ。どこかの文献で読んだことがあったのだろう。私はその姿形すら知らなかったから、少しだけ恥ずかしい。
「これはどういう食べ物なの?」
私はマモルに聞く。
「どんな痩せた土地でも作れる、魔法みたいな食べ物さ。ポテトの仲間で、甘いんだよ。最近、別の大陸から伝わってきたらしくてね。本にもなっているんだよ」
彼が知識を披露すると、私たち三人はマモルの博識さに驚いていた。
「マモルさん、すごいですね! お父さんは、これはまだこっちの大陸ではほとんど知られていないって言っていたのに」
「うん。たまたま本で読んだんだ」
もしかしたら、別の大陸の本まで読んでいるんだろうか。私はそう思って、彼のことが誇らしくなる。
先ほどまで感じていた鈍い心の痛みはどこかへ飛び去っていき、私は和やかな雰囲気を楽しんだ。




