第二十九話 思惑
―大司教視点―
「大主教様、マモルの近況がわかりました。学園へ放っているスパイから連絡が来ました」
この新しいアジトに来てから、少しずつ状況が変わってきている。
なかなか面白いことになりそうだ。
「なるほど。マモルがA級魔導士と模擬試合か」
報告書に目を通していく。
シルバに決闘を挑まれたマモルが、あの学園の特殊な設備の中で模擬試合を行ったことの詳細が書かれていた。A級魔導士を圧倒する彼の戦い方に、とても興味を惹かれる。
「面白いな。今は氷の魔法が得意なのか、あいつは」
昔とは真逆の魔法を使っていることに、少しだけ驚いた。これはなぜだろうか。
魔力を失ったことで、得意魔法や体質が変わったのだろうか。
それとも、何かの当てつけか。
まあいい。そんなことはどうでも構わない。
邪神様の復活のためには、些細なことでしかないのだから。
A級魔導士の攻撃をすべて受け切り、実力差を見せつけながら勝つ。
随分と残酷な戦い方をするものだと思ったが、そのおかげでマモルの限界を看破できた。
マモルは守ることしかできていない。
普通ならば先に攻めて勝てるはずなのに、守らざるを得なかったのではないか。
そんな仮説に思い至る。
そうであれば、やはりマモルは能力の大部分を失っている。
あの五歳の時のマモルが一番強かったのだ。
あの全盛期を間近で見た自分にとっては、この報告書の中のマモルは、恐れるに足らないレベルにまで落ちていた。
ケルベロス様を圧倒したあの実力がどこかへ行ってしまったというのは悲しいが、魔力の後継としての彼の能力にはとても期待できる。
何せ、全盛期を間近で見たのだからな。能力を失いつつも、魔力の器としては一級品だ。
いや、これ以上の逸材はもう出てこないかもしれない。
邪神様が復活すれば、時間も、時空すらも意味がなくなる。
この封建的な世界も、その秩序すらも意味がなくなっていく。
始まるのは新しい世界だ。
そして、どの王国の王でもなく、邪神様が神として世界に君臨する。
この数年間、誰も成し遂げられなかったことが、やっとできるのだ。興奮で心が躍らないと言えば嘘になる。
マモルの現状と、そしてその器の能力の高さは、今回の報告書でよくわかった。
少しずつ計画を進めよう。
そのためにも、マモルの親にはまだ使い道がある。あの女だけは、絶対に手放すわけにはいかない。
この十年間、耐えてきた苦労がやっと報われる。
そして、今の自分ならばマモルの能力をうまく使うことができるだろう。
残念ながら、今のマモルはこの程度の能力なのだ。
下手をすれば、スパイだけで勝ててしまうかもしれない。
あのスパイには、邪神様の加護を与えている。
グリーンベルクですら見通せない、邪神様の加護を。誰も気づくことはできないのだろう。そして、気づく頃にはもうすべてが終わっている。
マモルの体を手に入れて、それを生贄にすれば、世界は変わっていく。
果たして、それまでに真相をつかめるかな、グリーンベルク。
いくらマモルが強いといっても、所詮は子供だ。
「さあ、次の戦いを始めようか」
そう言って私は、神の酒を一口含んだ。




