第二十七話 分析
―リサ視点―
お兄様の戦いぶりを見て、私はやはり言葉を失った。
A級魔導師であり、エリートでもあるシルバさんを、お兄様は圧倒し続けていた。
周囲の人たちはシルバさんの華やかな攻撃にばかり目を奪われていたが、試合の内容はほとんどワンサイドゲームだった。ただお兄様が守り続け、シルバさんがそれでも諦めずに攻め続ける。
そしてシルバさんは、自慢の攻撃をすべて完全に防がれてしまい、体力を失って力尽きた。彼にとって、おそらく屈辱的なものだっただろう。
攻撃の主導権を握りながら、何ひとつ決定打を与えることができなかったのだから。
お兄様はあえて守りに入った。
あの状況ならば、攻撃に転じることも十分にできたはずだ。
いや、そもそも試合開始直後にシルバさんを倒すことだってできていたはずだ。
それでもお兄様は、あえてシルバさんの戦い方に付き合った。彼の能力がどこまでなのか、見極めたかったのかもしれない。あえてあのような防戦一方の戦い方を選んだからこそ、お兄様も消耗していた。
みんなも接戦だったと誤解しているだろう。
でも、本質は違う。
ずっとお兄様が、見えないところで主導権を握っていたのだ。そして、相手の攻撃をすべて見切った上で、敗北を突きつけている。
実力差をはっきりと示す勝ち方をしていたのだった。
さすがのシルバさんも顔面を蒼白にさせていた。
疲労もあるだろうが、おそらくショックが一番大きいのだと思う。彼の実力だったら、ほとんどのS級魔導師とも十分に戦えるだろう。
勝率は低かったとしても、一発くらいは攻撃を当てることができるはずだ。
でも、お兄様相手にはそんな余裕さえなかった。
お兄様の実力を前にして、まともに戦うことすらできていなかったのだ。
今まで積み上げてきたものをすべて失ったかのような、悲痛な表情をしている。
みんなは負けたことにショックを受けていると思っているようだけれども、そうじゃない。彼は恐ろしいほどの努力を重ねてきた。
それにもかかわらず、その努力の果てにも届かないものがあるということを突きつけられた。
そんな負け方をしたのだ。
そして私は、お兄様の凄さを知っているからこそ、シルバさんの絶望や悔しさが痛いほどよくわかってしまった。
いつもはお兄様をライバル視して、粗暴な言葉を使う彼のことを少し苦手としていたけれども、この状況では同情することしかできない。
そして、お兄様はある意味で残酷な実力者なのだということにも気づかされた。
お兄様も、自分の実力を試してみたかったのだろう。
あのケルベロスとの戦いの後、本気を出して戦ったことは、おそらく一度もない。何人かの魔法の教師と模擬戦をしたりはしていたけれども、それだって今回のように大規模な術を使うことはできなかった。
命を懸けた死闘のような戦いではなかったのだ。お兄様とシルバさんは、たぶんお互いのことをおもちゃだと思っていたのかもしれない。言葉は悪いけれども、お互いに全力を出しても絶対に壊れないという確信を持っているおもちゃ。
だからこそ、無邪気に実力を競い合った。
そしてお兄様は、久しぶりの本格的な戦いに高揚して、少しだけ暴走していたのだろう。
相当な魔力を消耗しているはずだ。
お兄様のほうも青白い顔をして、肩で息をしていた。
私は慌てて駆け寄り、お兄様に回復魔法を施す。
すると、わずかながら呼吸が整った。
これでも最高級の回復魔法を使っているのだけれども、お兄様にはこの程度の回復しかできない。
それほどまでに、お兄様の魔力のキャパシティは圧倒的なのだ。
「ありがと、リサ。やっぱり少し疲れたね」
お兄様は、すべてを出し切ったことに満足したように笑っていた。
その満足げな笑顔が、私の推測を確信へと変えた。お兄様の本質は、戦いにあるのだ。
私はようやく、そのことを理解した。




