第二十六話 決戦
「試合開始!」
開始の声が響き渡ると、俺たちは一気に臨戦態勢に入った。
マモルはほとんど詠唱しなくても魔法を成立させることができる。だから、あいつに隙を与えるのはまずい。こちらが先制攻撃を仕掛けなくてはならない。
マモルは自由に移動することができない。攻撃された場合は、そのすべてを受け切る必要がある。
その状況さえ作り出せば、まだ戦える。
あの「炎のゴーレム」を使うよりも、今回は手数で勝負する。
こちらも短い詠唱で済ませることができるからだ。俺は下級魔法で火球を大量に作り出した。
そして、それらを暴走させた。
マモルのように数多くの魔法を同時制御する実力は俺にはない。だからこそ、このような暴走が必要なのだ。
フィールドには先生が結界を張っていた。だから、他の生徒に攻撃が向かうことはない。
つまり、結界内で魔法を暴走させれば、俺とマモルだけにしか影響を与えない。いくら天才のマモルでも、偶然性が強いこの状況下では、うまく防御することもできないだろうという読みだった。
これでマモルの先制攻撃を防ぐことはできた。
マモルは防御に専念しようとしている。
自分の周囲に薄い防壁を張って、攻撃に備えていた。チャンスだ。
自分に魔法が直撃しないルートを選びながら、俺は宙を舞う。かなりの魔力を消耗するが、自分の体を空中に浮かせたのだ。
これで機動力ではマモルを圧倒することができる。もしマモルも空中を自由に動き回ることができたなら、俺の攻撃は厳しくなるだろう。
だが、あいつにはそれができない。
この機動力を生かして、あいつの鉄壁の防壁を砕いてみせる。
マモルは暴走している下級魔法を、次々と撃ち落としていく。
こちらの状況に気づいていても、まずは自分の致命傷になりかねない暴走した下級魔法を潰すことを優先していた。
すべての下級魔法を撃破したあと、マモルはこちらを見つめる。だが、俺はすでに詠唱を完成させていた。
今度は上級魔法がマモルへと向かう。
「炎の巣」という魔法だ。
天井一面を、先ほどよりも大きな炎の塊が埋め尽くした。こちらは数が少ない分、一発一発の威力が大きく、制御もしやすい。
ただし、膨大な魔力を消耗する。すでに空中に浮かぶ魔法を使っている俺にとっては、限界に近い。
これが通じなければ、俺の敗北だろう。だから、最後にもう一つ、ありったけの力を振り絞る。
この上級魔法と同時に、俺は再び下級魔法を暴走させた。
ランダムに動き回る小さな炎の塊が、周囲を埋め尽くす。
大小無数の炎が、マモルへと殺到した。
まるで世界が終わってしまったかのように、色鮮やかな炎が隕石のようにマモルへと降り注いでいく。
さしものマモルも、これほどの破壊力を持った魔法であれば、シールドだけで防ぎ切ることは難しいだろう。
そして、偶発的に動き回る小さな下級魔法もある。それらをすべて撃ち落とし、相殺するには、人間業とは思えないほどの魔力制御が必要となる。
もし自由に動き回ることができれば、マモルだって攻撃をかわすことができるだろう。
だが、そうはいかない。
マモルは固定砲台のようなものだ。
動くことができなければ、狙い撃ちにされる。一発一発の火力がどんなに高くても、守りに回ってしまっては弱い。
自分の限界が来る前に、俺はこの術を発動させた。
「すげえ……」
「上級魔法と下級魔法を同時に使いやがる!」
「これがA級かよ……」
周囲の者たちが俺の攻撃を見て、感嘆の声を上げている。
だが、楽観視はできない。相手は天才だ。
無数の炎がマモルへと殺到した。しかし、その瞬間だった。何か恐ろしいものが俺の脇を通り過ぎていった。
それと同時に、目の前にあった下級魔法の一つが消えていた。
何が起きたのか分からない。
無数の炎はゆっくりとマモルの方へ落ちていく。そのはずなのに、地上には一つの炎も落ちることがなかった。
マモルは自分に降り注ぐ炎の軌道を計算しながら、一発一発を精密射撃で撃ち落としていたのだ。
まるで空が切り裂かれたかのように、魔力の閃光が天井へと向かって放たれていく。
それは上から見ている俺でさえ、神々しいと感じてしまうほどだった。
正確無比な魔力制御と弾道予測。
そして、それらを同時に可能とする、洗練された魔力操作と圧倒的な魔力容量。
まさに圧巻の光景だった。マモルへ向かっていたはずのすべての炎が撃ち落とされ、無効化されていく。
そして、俺が空中で無様な姿をさらした瞬間、勝負は終わった。膨大な魔力を使い果たした俺は、情けなく空から地上へと降り、不時着した。
魔力切れだ。
マモルがとどめの一撃を放つ前に、俺の魔力の方が尽きてしまったのだ。
周囲は騒然となっていた。
この光景を見て、恐怖を感じた者も多いだろう。そして、おそらくほとんどの者の驚きの根幹には、ある一つの事実があった。
これで魔力の半分を失っているという、あいつの人外じみた恐ろしさだ。
マモルはかなり消耗しながらも、俺の攻撃を完全に受け切った。そして、あいつは俺に勝利した。




