第二十四話 大司教
―大司教視点―
「大主教様。一人やられました」
部下から報告を受けて、私は思わず笑いそうになってしまった。
ずいぶんと早い。それほどこちらを警戒しているということだろう。
さすがはグリーンベルクだ。
こちらの思惑どおりに情報を受け取ったと考えていい。我々の狙いはマモルだ。十年前、我々は彼をうまく取り込むことができなかった。
それによって計画は大幅に遅延し、新たな計画を用意することを余儀なくされた。
だが、それもいい。すべては邪神様のために捧げられるべきことなのだから。
グリーンベルクはマモルの周囲を固めるだろう。
マモルも半分の魔力を失ったとはいえ、相当な魔術師だ。自分の身を守ることくらいなら難なくこなせる。
その状況で、彼をどう捕まえ、生贄にするのか。私は何度も頭の中で思考を巡らせる。
ああ、楽しみだ。ついにあの男が手に入るのだから。
十年前に感じた圧倒的な才能は、もう彼からは感じられないだろう。
だが、それでもだ。
器としての彼には、相当な潜在能力が秘められている。問題はグリーンベルクとマモルが手を組んでいることだ。
二人を同時に相手にしようとすれば、こちらも大きな被害を出さざるを得なくなる。いや、被害だけで済めばいいか。
おそらく壊滅的な打撃を受けることになるだろう。だからこそ、この計画を進めてきたのだ。
ケルベロス様を失ったのは本当に痛い。もし、邪神の化身であるケルベロス様がまだいてくださったならば、マモルとグリーンベルクの二人を相手にしても戦うことができただろう。
だが、もうそれはできない。グリーンベルクの魔力は、現在、世界最高だ。そのグリーンベルクがどこまで私たちを警戒しているのか。そして、どのような能力を持っているのか。
間近で観察できたことには、大きな意味があった。
現状で最も警戒すべきなのは、騎士団の最高位にあり、魔法学校の校長を務めるあの男だ。
十年前は奇襲という形でマモルたちに接触することができたが、今回は彼の庇護のもとに二人が育てられている。あのときのようにうまく事を運べるなど、奇跡に等しいだろう。
まったく、厄介な状況になってしまったものだ。
「神の酒を用意しろ」
そう言って部下に命じた。
酒でも飲まなければ思考がまとまらない。
しかし、こちらには十年かけて用意した切り札がある。さあ、どうする、グリーンベルク。
お前の実力がどれほど高かろうが、邪神様の復活は既定事項だ。
せいぜい抗ってみせるがいい。
そして、最後に勝つのは我々だ。もう一つの計画についても思考を巡らせる。
しかし、まだそれは形になっていない。サブプランもあるが、それをいかに用意周到なものにできるかは、これからの準備次第だろう。
すべては信仰のために。
そして、このおかしな世界を破壊するために。
誤った神が支配するこの世界を、再び邪神様の手に取り戻し、あるべき姿へと正す。それこそが、今まで虐げられてきた我々の悲願なのだ。
約束の時間は近い。
たとえこの身が犠牲になろうとも、この計画を止めることはできない。
「大主教様」
グラスを持った部下が、私の目の前にやってきた。
「ありがとう」
そして、ここまでだ。
私は部下の首を切り裂いた。
声にもならない悲鳴を上げて、部下が倒れ込む。
なぜ、とその口が動いたように見えた。
だから、最後に理由を話してやることにした。
「残念ながら、お前の情報を知っている者がグリーンベルクに殺されたのだ」
グリーンベルクならば、死ぬ前に情報を聞き出していたとしてもおかしくない。
「グリーンベルクはすぐにでもお前のもとへやってくるだろう。だから、ここで死んでもらうしかない」
すべては、神の御心のままに。




