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邪神の化身・ケルベロスを討った天才少年~世界を救った代償に両足の自由を失った彼の笑顔が周囲をくもらせる~  作者: D@5作書籍化


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第二十話 動き始める運命

 ーリサ視点ー


 今日も大聖堂でお仕事を手伝う日。なぜだか今日は慌ただしかった。雑用が多く、それをこなすだけでも少し疲れてしまう。でも、やっとこれで一息つけるというところで、一つの事件が起きた。


「すみません! 聖女様はいらっしゃいますか!」

 一人の青年が女性を抱えて大聖堂へと駆け込んできた。


「どうしたんだ、ステイ?」

 神父様の知り合いらしい。 二人は夫婦なのだろうか。女性を抱きかかえている青年は必死の形相だった。


「神父様! ああ、よかった。実は妻が市場から帰ってきたときに急に倒れてしまって……ひどく苦しんでいるんです。様子がおかしくて……どうか診てください!」

 神父様を含む何人かの神官たちが女性のもとへと向かった。

 どうやら体調が悪くなってしまったらしい。


 ここは病院のような役割も果たしているため、急患が運び込まれることもたまにある。

 本来なら聖女様が赴いて治療すべきなのだろうが、聖女様もご高齢であり、魔力の消耗も激しい。一日に何人もの患者を診ることはできないのが現状だった。


「駄目だ。私たちでは手が出せない。どうして市場でこんなことに……」

 ベテランの神父様たちも思わずそう漏らしてしまうほど、事態は深刻らしい。だって、普通の病気や体調不良であれば、神父様たちなら簡単に治してしまうはずなのに。


 どうしてそれがうまくいかないのだろう?

 通常の体調不良ではないということか。


 私は不思議に思いながら、遠目にその様子を見つめていた。


「では、聖女様にお願いするしか……」


「駄目だ。聖女様は力を使い果たしてしまって、今は動けない。魔力が回復するまでには数日かかってしまう」


「そんな! それでは妻はどうなってしまうんですか!」

 ステイと呼ばれる青年は、神父様の肩を強く握りしめていた。


「落ち着いてくれ、ステイ。新婚の君が奥さんのことを心配する気持ちはよくわかる。僕だってそうだ。君たちの結婚式を取り仕切ったのは僕なのだからね」


「それには感謝しています。でも、こんなことになるなんて……。こんなに苦しんでいるのに、何もできないんですか!」


「非常に強い呪いがかけられているんだ。見たこともないくらい複雑なものだよ。聖女様クラスの魔力がなければ、これを解くことは不可能だろう」

 その話を聞いて、一斉に周囲の人々の視線が私へと集まった。できるのだろうか、私に?


 それでも、やらなければならない。


 神父様たちが匙を投げるくらいの重篤な患者であれば、聖女様が回復するまで持ちこたえることも難しいだろう。


 一刻を争う状況なのだ。


「わかりました。私がやってみます」

 そう言って、患者の前へと進んでいく。近づけば近づくほど、ぞっとするような悪寒が走った。息をすることすら苦しそうだ。


 非常に複雑に組み上げられた呪いだった。


 そして、私はこの呪いをどこかで見たことがあった。


「できるかい、リサ?」

 神父様が私の方を見る。


「時間はかかるかもしれませんが……案はあります」

 その言葉を聞いて、周囲の人々が「おおっ」と感嘆の声を漏らした。

 まだ何もできたわけではないのに、大げさだとすら思う。


 これは三つの呪いが組み合わされて作られている。

 一つ一つの呪いはオーソドックスなものだが、この三つを組み合わせるには非常に高度な技術が必要となる。


 それをわざわざ市場に出かけていた女性に使うなんて、どういうことなのだろう。


「ああ、天にまします神の息吹よ。すべてを包み込む慈悲深きあなたの前に、私はひざまずきます」

 私は祈りの言葉を紡いでいく。


 すべては、この女性を苦しみという地獄から救うために。

 慎重に呪いを解くための詠唱を続ける。

 これは解除する順番を間違えると大変なことになる。


 一つの呪いを解除すると、別の呪いが強化されるような仕組みになっているのだ。

 だから私は、まず大元となっている、ほかの呪いを守る盾の役割を果たしているものから解除していく。


 極めて繊細な技術が必要だった。ほかの呪いに干渉してしまえば、女性の状態はさらに悪化する。連鎖的に呪いの力が増幅されるような仕組みになっているのだから。


 私は額に汗を浮かべながら、慎重に魔力を流し込んでいく。


 一つ目の呪いが解けた。


 続いて二つ目。


 しかし、最後の呪いはそれまでのものとは比べものにならないほど強固だった。少しでも魔力の流れを間違えれば、すべてが台無しになってしまう。


 それでも私は詠唱を続けた。


 一体、何時間経ったのだろうか。


 最後の呪いを解除した瞬間、私は思わず言葉にならない悲鳴を上げた。

 猛烈な勢いで魔力が消耗していく。全身から力が抜け、膝が崩れそうになった。


 それでも、私は成し遂げたのだ。


「すごい……さすが次期聖女だ!」


「まさに現代の聖女とは彼女のことだ!」


 周囲から大げさな感嘆の言葉が聞こえてくる。

 しかし、私は喜ぶことなどできなかった。


 心が激しく震えていた。


 なぜならば、これはあの邪神教団の技術だったからだ。

 そして、それはあいつらが再び動き出したことを意味している。


 私の復讐は、少しずつ始まっていく。

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