第十八話 マモルの苦悩
―マモル視点―
お茶を飲みながら一人で考えた。
どうしてこんな風になってしまったのだろうか、と。
みんなは信じてくれないが、僕が今、一番幸せだということは間違いない。
最高の友人たちと出会い、温かい家族に恵まれ、そして半分とはいえ、とても高い魔法の才能を持っている。
普通であれば、十分に満足できる人生だと言えるだろう。
ただ、僕が元々持っていた才能が、その倍あったというだけなのに。
みんなは失われた才能ばかりを見てしまう。
足が動かないのは、本当に辛い。みんなに迷惑ばかりかけてしまうからだ。
どうしてリハビリがうまくいかなかったのだろうかと、何度も後悔した。
それでも、僕はあの決断が間違っていたとは思っていない。
みんなを助けずに、この才能だけを守っていたら、絶対に後悔していただろう。そんな後悔を抱えながら、この先の人生をずっと生きていくなんて、僕にはできない。
そんなことを選ぶ人間は、僕ではない。
いつも優しいリサがいて、一緒に育ったミランダがいて、優しい両親がいる。
それだけで十分なのに。
どうしてみんなは分かってくれないんだろうか。結局、僕という存在が、すべての人にとって重荷になってしまっている。
僕がいるから、リサはあの事件を忘れることができない。
そして、実の母親への恨みをずっと募らせている。
多分、あのときに感じた痛みよりも、さらに深い憎悪がリサを支配しつつある。政治的な力を徐々に手に入れているからこそ、少しは落ち着くのではないかと思っていた。
でも、そんなことはなかった。
リサの憎悪は、僕が思っていた以上に深く、そして根強い。
その根底にあるのは罪悪感だ。
僕をこんな身体にしてしまったという罪悪感によって、リサの復讐心はどんどん募っていく。
いっそ消えてしまいたいと思うことがある。
僕がいることでリサが苦しむなら、ここから逃げてしまえばいい。
そう思ったこともあった。
でも、今のリサを見ていたら、そんなことはできない。
多分、僕がいなくなったら、彼女の心の均衡は崩壊する。
最悪の場合、彼女自身の命さえ奪いかねない。
だから、僕はこうしてここにいなくてはいけない。もはや共依存の関係だということは分かっている。
でも、その解決策を見つけることはできていなかった。
「どんなに魔法の才能があろうとも、所詮は人間でしかないんだよな」
お茶を一口すすり、次にミランダのことを考えた。
ミランダもそうだ。
彼女はとても素敵な女性だ。
でも、僕に向けている罪悪感が、彼女の今後の人生を阻害してしまっている。
僕にとって、ミランダは幼なじみであり、大切な存在だ。
いや、それ以上の気持ちを持っている。
でも、ミランダは僕のために、自分の人生のすべてを投げ出しかねない。もしかしたら、これは単なる同情心なんじゃないか。
ミランダは僕に向けた同情心を、別の感情だと勘違いしているんじゃないか。
そして、それを否定できる証拠を僕は持っていなかった。
このままいけば、その同情心によって、ミランダは僕の世話を焼き続けるだろう。
たとえ貴族としての立場を失おうとも、僕についてきてくれる気がする。
でも、そんなことをして、彼女は本当に幸せなのだろうか。むしろ、僕という存在が重荷になってしまっているんじゃないか。
ずっと、それが怖かった。
彼女の優しさに触れれば触れるほど、その怖さと後悔は募っていく。
リサのためにここに残るとしても、そうすればミランダからも遠くへ行くことができない。すべてを捨てて、二人をここに残して消えてしまえば、おそらく二人の心は崩壊する。
最後に行き着くのは、邪神教団のことだった。
どうして、こんなことになってまで、僕の大切な人たちを苦しめるんだ。彼らがいなければ、こんなことにはならなかったのに。
いや、違う。
窓の外に浮かぶ月を見て、思わず呟いた。
「……駄目だな」
このままでは、ネガティブな思考の連鎖に陥ってしまう。
気持ちを変えよう。
もうすぐお父さんの誕生日だ。
杖をもらってしまったから、何かお返しをしたい。養父母である二人は、僕のことを本当の息子だと思ってくれている。
リサのことも同じだ。本当の親孝行ができなかった分だけ、僕は二人を幸せにしたい。そのためにも、やはり魔法学校で結果を残す必要がある。
僕はこの足だ。多分、戦う魔導士にはなれないだろう。
でも、研究者という道もある。研究をすれば、たくさんの人命を救い、人々の生活を豊かにすることができるはずだ。
僕はそう信じている。そして、それが今の僕の才能を生かせる、最もふさわしい場所だとも思う。
シルバの魔法を見て思った。あれが本当の才能なのだと。
僕の戦う技法は、あくまでもごまかしに過ぎない。
本当の戦場に出れば、僕ほど動きが鈍く、砲台のような働きしかできない人間は、間違いなく真っ先に狙われる。
それは、みんなに迷惑をかけることを意味する。
本当に情けないと思う。
せめて、こんな身体になる前に、あのケルベロスを倒すことができていたら。ありもしない未来を、つい想像してしまう。
僕はどうして、こんな風になってしまったんだろう。
もっとみんなを幸せにするために、あそこで戦っていたはずなのに。
どうして、みんなの後悔を深めてしまうんだろう。
すべてを投げ出して、どこかに消えてしまうことだってできるはずなのに。
いくつもの言い訳を見つけながら、結局、僕はここにとどまっている。
今の幸せを壊したくないからだ。
これが、かつて天才と呼ばれるほどの才能を持っていた人間なのだろうか。神童も大人になれば、ただの人になるという。
僕は、まさにそうなのかもしれない。
いや、僕は最初から神童なんかじゃなかったのかもしれない。
あの自己犠牲の決断が、みんなの人生を壊してしまったんじゃないか。
そう思うと、とても怖かった。
僕はただ、一人で震えていた。




