第十六話 復讐
悪夢のせいで眠れない。
ここまでひどい状態になるのは久しぶりだった。
ずっと後悔している。
あのとき、どうすればよかったのだろう。そんな考えが頭の中をぐるぐると回っていた。
水でも飲もう。
そう思って、ベッドの横に置かれた水差しからコップに水を注いだ。
そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「リサ、大丈夫かい?」
お兄様だった。
私は慌てて鍵を開け、お兄様を出迎えた。
「起きていたんですか?」
できる限り自分のことから話題を遠ざけようとして、そう尋ねた。
「うん。ちょっと本を読んでいてさ。思ったより遅くなっちゃって、そろそろ寝ようかなと思っていたんだけど、リサがうなされている声が聞こえたから」
「うなされていた? 私が?」
「うん。悪い夢でも見たのかな。いつもなら起きている時間なのに寝ていたから、きっと疲れているんだろうと思って、そっとしておきたかったんだけどね。あまりにも苦しそうだったから、つい声をかけてしまったよ」
それほどひどくうなされていたのだろうか。
改めて指摘されると、恥ずかしくなって顔が赤くなった。
私はどうして、いつもお兄様に甘えてしまうんだろう。
「これ、お茶を淹れてきたよ。一口飲めば、少しは落ち着くかなと思って」
「ありがとうございます」
私はお兄様からカップを受け取った。
「最近、頑張りすぎじゃないの? リサ」
お兄様は心配そうに私を見つめていた。その瞳はわずかに潤んでいるようにも見えて、私は申し訳なさを感じた。
「やっぱり学校が始まると、どうしても頑張りたいことが多くなるんです。それに、次期聖女としてのお仕事もありますから……」
「うん。でも、あまり無理をしすぎてはいけないよ。リサが倒れたら、僕が一番悲しいからね」
そう言って、お兄様は私の頭を優しく撫でてくれた。頭のてっぺんから伝わってくる温もり。その優しさが心地よくて、思わず体が震えてしまう。小さな頃から、私はずっとこうしてお兄様に心配され続けていた。
恥ずかしい。
その気持ちを隠すために、私はわずかに目をそらした。
けれど、お兄様はそんな私の様子を見ただけで、何を考えているのか察してしまう。本当に、私たちは絆の深い兄妹なのだ。
だからこそ、少しやりづらい。
「リサ、復讐なんて考えないでほしい」
やっぱり、気づいていた。
それでも私は、ごまかすために言い訳をする。
「復讐? 何のことですか?」
虚しい抵抗だとわかっている。
それでも、お兄様にはこう答えなくてはいけなかった。
「そっか。じゃあ、僕の勘違いかな」
お兄様はすべてわかっているはずなのに、そう言って笑った。そして、もう一度私の頭を撫でてくれた。
「僕はね、妹に復讐をさせるために助けたわけじゃないんだ。リサには、自分の人生を楽しんでほしかったから助けたんだよ」
その優しい言葉が、胸に突き刺さった。違う。私が楽しんでいいわけがない。私は苦しまなくてはいけない。
お兄様にすべてを背負わせてしまった責任は、私にあるのだから。楽しんでなどいけないのだ。
そんなことをしたら、贖罪ではなくなってしまう。お兄様は、私に幸せになってほしいと願っている。
でも私は、お兄様のために苦しまなくてはいけないと思っている。
優しい時間が過ぎていく。
それでも、私たちの想いはどこかですれ違っていた。




