第十二話 新しい友達
―庶民出身・アイザ視点―
防御術が終わり、次は変身術の授業となった。
変身術は、補助魔法の中でも特に応用範囲が広い魔法だ。先ほどの防御術では、僕はまだうまく魔法を扱うことができなかった。
先生とマモル君の恐ろしい応酬を見て、やはり気が重くなってしまう。僕があのレベルに到達するには、一体何年かかるんだろう。
いや、一生かかっても到達できないかもしれない。
そう思うと落ち込んでしまうけれど、努力することだけはやめたくないと思った。
「まず、変身術は非常に有用な魔法です。自分の正体を隠したい場合や、何者かに追われているときに逃げる場合など、さまざまな場面で役に立ちます。また、変身術の見破り方を知らなければ、敵の変装に気づかず、不意を突かれて返り討ちに遭うかもしれません。それにいろいろな加工にも役立ちますからね。ですから皆さん、しっかりと学んでください。こちらも防御術と並んで、魔法の基本となるものです」
魔女のモリソン先生は、そう言って微笑んだ。実は僕も、この授業には一番興味があった。変身術は薬草などを加工するときにもよく使われる。
ただの薬草を、より効果の高い薬に変えるためには、この技術を鍛えなければならないんだ。僕の住んでいる村には、医者がほとんどいない。
だから僕は、村の人たちの暮らしを少しでも豊かにするために、医者になりたいと考えていた。
もちろん、治癒魔法を使えれば一番いいのだけれど、治癒魔法だけではすべての病気を治せるわけではない。
病気に効果のある薬を作るためには、魔術師の中でも薬学を専門的に学ばなければならない。そして、その薬学の基本となるのが、この変身術なのだ。僕は必死になって先生の話を聞き、メモを取った。
そして嬉しいことに、今日は憧れのマモル君の隣の席に座ることができた。
「昨日はありがとうね」
僕がそう言うと、彼は優しく笑ってくれた。
「いやいや、大したことはしていないよ。あれから何もないかい?」
「うん。君が守ってくれたおかげだよ」
「それならよかった。もしまたひどい嫌がらせをされたら、いつでも相談してくれ」
そう言ってくれる彼の優しさが、とても嬉しかった。
「あ、そうだ。まだ名前を聞いていなかったね。僕はマモル。君は?」
「僕はアイザ。マモル君のことは、ずいぶん前から知っていたけどね」
「そっか。ありがとう、アイザ。友達になってくれて嬉しいな。自分でも少しわかっているんだけど、僕ってちょっと浮いているんだよね」
彼は少し困ったように笑った。そんなふうに気さくに話してくれる彼に、僕はますます好感を抱いた。
「マモル君は、やっぱり変身術も得意なの?」
ペアを組んで練習することになったとき、僕は何気なくそう尋ねてみた。
「一応、基本は全部覚えているつもりだけど、得意というわけではないね」
「えっ、意外だね。マモル君にできないことなんてないと思っていたよ」
「うーん……もちろん、薬学とか錬金術に応用する分には問題ないんだけどね。自分で使うとなると、ちょっと……」
「どうして?」
彼は少し気まずそうな表情を浮かべた。それが気になって、僕はつい尋ねてしまった。
「いや、僕は足が動かないからね。たとえほかの人に化けたとしても、すぐにわかってしまうんだ。変身術で姿を変えることはできても、この足の不自由さまで変えられるわけじゃないから」
しまった、と思った。一番聞いてはいけないことを聞いてしまったんじゃないだろうか。
「あっ、ご、ごめん!」
僕は慌てて謝った。けれど、彼はそんな僕を見て、逆に慌てたように笑ってくれた。
「いやいや、気にしないで。別に怒っているわけじゃないから」
「でも……」
「本当に大丈夫だよ。それより、アイザ君はどうして変身術を覚えたいと思ったの?」
彼は自然に話題を変えてくれた。僕は少し迷ったあと、さっき考えていた村のことを話した。村には医者がほとんどいないこと。
病気になっても、満足な治療を受けられない人がいること。
だから自分が薬学を学んで、村の人たちを助けたいと思っていること。彼は僕の話を最後まで聞いてくれた。
「そっか。それはすごいな」
「いや、すごくなんかないよ。僕なんて君と比べたら……」
「いや、そうじゃなくてさ」
彼は僕の言葉を優しく遮った。
「君みたいに、明確な目標があることをとても羨ましく思うんだ。今の僕には特に目標もなくて、ただ漫然と魔法を勉強しているだけだから」
そう語る彼は、どこか悲しそうな表情を浮かべていた。かつては、何かの目的があって魔法の習得を目指していたのだろうか。そんな疑問が浮かんだ。聞いてみたいと思ったけれど、さっきの失言もあったし、これ以上踏み込むのは憚られた。
「ねえ、マモル君」
「うん?」
「もしよかったらさ……放課後とかに、暇なときに少しだけでもいいから勉強を教えてくれない?」
言ってしまってから、ずいぶん大胆なお願いをしてしまったと思った。彼はきっと、とても忙しいはずだ。僕なんかのために時間を使わせるべきではないのかもしれない。
けれど、彼は嫌な顔ひとつせずに笑ってくれた。
「もちろんだよ。僕もそういうのに、ちょっと憧れていたんだ」
「えっ、本当にいいの?」
「うん。一緒に頑張ろう」
その笑顔は、どこまでも穏やかだった。圧倒的な実力を持っているのに、決して偉ぶることがない。誰に対しても優しく、僕のような人間の話にも真剣に耳を傾けてくれる。
けれど、ときおり見せる表情には、どこか寂しげな影があった。
その器の大きさと、言葉の端々から感じられる不思議な陰り。僕はマモル君という少年に、少しずつ興味を惹かれていった。




