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高貴なる者の義務と放埓  作者: 島城笑美


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007 王子殿下の憂鬱

ベアトリクスたちと離れてからの二人のお話

「よかったのか?」


エーレンフリートは侍従に上着を預けながら、自室に招いたこの国の第二王子であるハーシェルヒルムに問いかけた。彼が気遣わし気に顔を覗き込み、返答を待つのには訳がある。


「あぁ致し方ない。兄上と決めた事だ。少し王宮が荒れると思うが力を貸してくれ」


「もちろん。陛下の最近の素行は伺っている。しかし、何故そうなのだ?私が聞いてもいいなら話してくれないかい?」


「あぁお前には、これから協力してもらう。詳しく話したい。人払いを頼めるか?」


ハーシェルヒルムがそういうと、エーレンフリートは侍従に目くばせをして下がらせる。その際、お茶の準備をしていた侍従は追加用の茶器と菓子のワゴンをエーレンフリートの使いやすいよう配置を替えて下り、侍従の後を追ったオリヴァーはエーレンフリートの私室の扉の前に立つ。


「彼は長いな」


侍従を見て呟くハーシェルヒルムに追加の菓子を雑多にテーブルに並べながらエーレンフリートはふふっと笑う。


「うちの使用人を覚えているのか?相変わらずだな。ハンスはうちの家令イザークの息子だ。子供のころから僕に仕えてくれている。今は余所行きの顔だ」


「まぁ王族を目の前に余所行きの顔できない奴の方がやばいけどな!ブラウン伯爵令嬢は凄かった」


二人は遠い目になる。お茶を一口くちにつけるとハーシェルヒルムは大きな溜息つき一呼吸置くと雰囲気を変え真面目な顔になりエーレンフリートを見つめる。


「今は帝国に嫁いだ叔母上から聞いた話だ。現王陛下である父上は、今のブラウン伯爵夫人と恋仲だったと」


「王太子と恋仲?ブラウン伯爵夫人は元は子爵令嬢では無かったか?」


「あぁそうだ。王太子ともなれば、国内高位貴族と親交を深め国内の結束を高めるか、他国の姫を娶り国交を深めるかの二択になる。彼女との婚姻など認められなかった」


ハーシェルヒルムの説明に深く頷き、エーレンフリートは考えながら口に出る。


「そうだな。だが、聡い女性であれば高位貴族の養女にして・・・・あっフランチェスカの母君の話だったな・・・・」


「そう、もともと没落気味の子爵令嬢であるのは目を瞑ればいい。しかし、没落の原因でもある傲慢な上に怠惰な両親に溺愛されて育った彼女の教養が問題だったんだ。

男爵位のものや、民には傲慢に。上位のものでも伯爵家など歯牙にもかけず。侯爵以上の者たちに自ら話しかけるご令嬢だった」


「は?子爵令嬢が高位貴族に話しかける?高位の者から声かけ頂くまで話しかけてはいけないのは親に連れられて茶会へ参加する6,7歳の子供でも知っている事だろう?」


ここから話される子爵家の醜聞もなかなかなものだった。


ニコラ夫人の父親の子爵は、元々侯爵家の嫡男であった。しかし、親の決めた婚約者に不満を漏らし、学園で出会った庶子の男爵令嬢と恋仲になり令嬢を在学中に未婚のまま孕ませた。


当時の侯爵が激怒し、だが元々貴族としての矜持は無く権利ばかりで何をするのか分からない嫡男を放逐しては何をするか分かったものではないと、自身の持っている子爵位を与え監視し、次男に侯爵位を継がせた。


長男である子爵は侯爵領の領都に近い小さな土地を領地として与えられ、前侯爵が見ている領邸に文官として出仕させ監視をしていた。


子爵自身は、愛しい女性と結婚し可愛らしい娘も出来たことで表面上落ち着き侯爵領の領地経営の文官の仕事を熟し、自身の小さいが豊かな土地の子爵領もそこそこの利益を得ていた。嫌いな婚約者は弟と婚約し、自身は愛する男爵令嬢とも結婚出来、娘のニコラは可愛く育て溺愛していた。


そんな家族を愛し、仕事に打ち込む息子の様子に前侯爵も監視から見守りくらいにはまでに気を緩めていった。そして、初孫であるニコラは可愛く前侯爵も年をとっていた。息子と嫁の、孫娘への溺愛と教育不足に気が付くことが出来なかった。


ニコラが学園で出会った王太子と恋仲であると言うと、子爵夫妻は喜び、流石我が娘と褒め称える。前侯爵はそれは素晴らしいことだと表面上褒めたが、そんなはずはないと、現侯爵である次男に調査を依頼した。


調査の結果。事実、王太子がニコラを気に入っていた。


この国では、婚約者は学生時代に結ばれることが多い。家の利益もあるが、幼いころの政略的婚約はお互いに相性が悪すぎた場合、仲を深めるどころか険悪になることがままあり、時代と共に学園で相性を合わせる事も婚約者選びの一端となった。


もちろん、王家とて例外ではなく国内の有力な高位貴族の令嬢や近隣の姫君の性格や利益について調査を行い選定しつつも婚約者としては確定していなかった。


そこで前侯爵は、次男が継いだ侯爵家には男ばかりの孫しかおらず、ニコラを侯爵家の養子にしてしまえば王太子の婚約者候補となるだろうと考えていた。


ニコラが望まれるのであれば、それは喜ばしいことではあると思ったが、そこで初めて自身の孫娘の教養が男爵令嬢や貴族とつきあいのある商家の娘よりマナーに劣っているということに気が付いた。


前侯爵は大慌てで、厳しい家庭教師をつけたがニコラは嫌がり息子夫婦である子爵夫妻はそんな可哀想だと取り合わない。こんな可愛いニコラをそのまま王太子に愛されたのだと言い教育を怠った。


この時に、ニコラが王太子にふさわしくあるようにと努力ができる娘であれば叔父である侯爵の養女にして婚約者になれることがあったかもしれない。


しかし、ニコラも甘やかされ、父と母がそうであったように怠惰であった。父と母の言い分と同じようにそのままの自身を王太子は愛してるのだと主張し家庭教師を退け『教養のない王太子に愛されているだけの令嬢』となった。


ニコラを取り込むことが出来れば王太子と繋がりを持てるかもしれないが、教養の無さを学園に通う子供達から聞いて知っている高位貴族は何か粗相をして関係が破綻し醜聞に巻き込まれる可能性を捨てきれない。それは叔父である侯爵も同意で養女にすることを拒否した。


前国王陛下も高位の貴族が挙って養女に迎え入れる事を拒否するような彼女を王太子妃にするわけにはいかなかった。その際、北方の隣国からの侵略が強まり、辺境伯との関係の強化に前国王陛下は王命で辺境伯令嬢との婚約が下された。


「父上は、ウォーカー辺境伯家の長子である母上と結婚を命じられ、ニコラ夫人は、前国王の側近である前ブラウン伯爵の嫡男であるパトリック卿が娶ることになった」


「前ブラウン伯爵はともかく、パトリック卿は不憫では?」


「パトリック卿は、書類仕事をさせると素晴らしい方なんだが社交が苦手でね。学園を卒業して3年経っても婚約者を定めることが出来なくてね」


「あぁ。一応、渡りに船なのか?」


あははと二人で乾いた笑いをこぼすとハーシェルヒルムはさらに続ける。


「それに、教育を受けることが出来なかったニコラ夫人を前ブラウン伯爵夫人は不憫に思っていてね。きちんと伯爵夫人にして差し上げるわ!と張り切っておられたそうだ・・・・」


「・・・その気持ちは届かなかったのですね・・・」


そのとおりというように、深くうなずくとそれでだ。改めて話を始める。


「王族としての教育を受けていた父上は、お祖父様の言う通り母上と結婚しきちんと王としての責務を全うしていたが、何も蟠りが無かったわけではなかった。自分の想う人との、結婚を潰された父上の八つ当たりは年の離れた王弟である叔父上に向かったのだ」


祖父に似ていた父上は精悍な顔立ちだったが、叔父は祖母に似て美しくさらに体格は細くはあったが14歳とは思えぬ長身でデビュッタントの際は秋波は凄いものだった。夜会のたびに、令嬢達に囲まれるほどに人気があった。ブラウン伯爵夫人も1度ダンスを踊りたいと陛下に願っていたそうだ。


「八つ当たりとは?」


「父上は叔父上の想い人が王都内にいると勝手に勘違いし、その恋を破綻させようと辺境と関係を深める為にも、心身を鍛えるのには辺境が相応しいと学園1年生の時に遊学として辺境に送ったんだ・・・・」


「・・・・・そこで、ユリアーナ叔母上に・・・・」


「そう!初恋だそうだ。

そもそも、叔父上は幼いながらに茶会の度に陥れ合いばかりの王都の令嬢たちに辟易していて、兄王子である父上に子が産まれたら、自らは結婚自体しなくていいとさえ思っていた」


そこで、遊学として入れられた辺境騎士団に二人の叔母であり、ディオティマの母であるユリアーナ・テイラー侯爵令嬢が同じ年の練生としていた。


テイラー侯爵家は法学を重んじる家系。ウォーカー辺境伯家は国境を守るため武術を重んじる家系でかけ離れているようでお互いの為に代々交流があった。


テイラー侯爵は裁きをする家系で恨みを買うことが多く、隣地である辺境伯家は女児といえ騎士訓練を受ける土地柄であり、奥方になる方も武を重んじる方しか務まらず教養に疎くもあった。


テイラー家の子息子女は皆10歳から頃から成人するまでの間、学園に入ってからは長期休暇のたびに辺境伯領での騎士訓練、ウォーカー家の子息子女は同様に10歳頃からテイラー家に赴き教養やマナーの指南を受けお互いに励んでいた。


「王都の女性とまったく違う可愛らしい容姿なのに勇ましく辺境の訓練に参加していたテイラー侯爵令嬢の叔母上を好ましいと思うのに時間はかからなかったのだろう」


その後、王弟は父親であるは王に大領地で法を司るテイラー家との結びに自らが直談判し、テイラー家が良しとすればと王は承認するとした。


テイラー家は王弟が臣下に下り王族から距離を置き、娘が了承するのであればと答えた。元より兄との関係が良くない王弟はすぐに公爵位を賜りたいと進言したが、王太子も未婚の為、すぐには叶わなかった。


学園では首位をとりながらユリアーナ伯母上にアピールし続け口説き落とし、王太子の子である第一王子が生まれた途端に公爵を賜り臣下に降りてすぐに結婚した。


「そこで、めでたいと終わらないのが父上だ。何故、弟である第二王子は自身の好いた令嬢と結婚出来るのかと憤慨した。自身も好いた女性と添い遂げたいと、すでに二人目の子を身ごもっている妃の横で・・・」


「ひどいな。イーリスティナ伯母上はよく陛下に尽くすことが出来るな」


「あぁ。さらに、ディオティマが難産で産まれその次の子供が望めそうにないと知ると当てつけの様に私を孕ませた。母は結婚後毎年のように出産なさっている。

叔父上と結婚したユリアーナ叔母上は、公爵令嬢で王族に嫁げるほどの教養がある。高位貴族なら誰しも納得する話だが父上は納得されなかった。そこからは、王弟の子に王位継承権が移るなどあってはならないと今まで見向きもしなかった妃へ執拗に子作りを強要した。

側妃をもたずして、三男二女もいるというのは辺境伯で鍛えて健康的に育ってない娘でなかったらもたなかったかもしれない」


伯母上は強いなと悲し気に呟き、エーレンフリートは大きなため息を漏らす。


「昨年のお爺様の葬儀の際、帰国した叔母上が未だに父上が母上に蟠りがあることに気づき、兄上と姉上と私にこの話をしてくださった。叔母上は、王女時代に母上にはお世話になったと母上の事を案じていらっしゃった・・・・同じ年であるしな」


(『私はイーリスティナ様の事が心配なのよ。政略的な婚姻を受け入れただけで、何の落ち度もないのに夫から謂れのない悪意を受け続けているのが、不憫でならないわ。その様な状況下で貴方たちの心を守った彼女の事を私は尊敬しているわ。お兄様・・・陛下が何かしだすようなら貴方たちでお母様をお守りなさい』)


その時、ハーシェルヒルムと第一王子であるイーヴォイェレミアス、第一王女は自分たちがどれだけ母親に守られて育てられたのか気がつかされた。母親の強さに感謝すると共に、今まではどうにか保てたかもしれないが今後どうなるかわからない。これからは、我々が母上を守らなければと兄姉と誓った。


「エーレンフリート、王家の私的に巻き込む事は申し訳ないが力をかしてほしい」


「あぁもちろん。大事な従弟が困っているのだから協力は惜しまないよ」


にっこりと微笑む従兄は、いつでも我々兄妹に寄り添ってくれる。母上は、王弟への当てつけに産ませた子供たちに興味のない父上のことを一切悪く言わなかった。名で呼ぶほどの親しみをみせてはいなかったが私たちに暖かな愛情を見せないのは国王として必要な事なのだと。


(『陛下は、この国の父です。あなた方に厳しいのは国を守る人間になってほしいと期待しているからなのですよ。馴れ合うだけでは、立派な王や国を支える人間にはなれません。陛下が厳しい分、母は愛をあなた達に送ります。あなた達の頑張りを、母はもちろん陛下も存じておりますからね』)


昔から母上に投げかけられた言葉を思い出す。


母上の幸せはどこにあるのだろうか。


現在、公務の比重が兄上に傾いている。父上は頻繁にお忍びで狩りに出掛けていて、今まで狩りに興味が無かった方だった。隠居間近で趣味を見つけたのかと思っていたんだがどうも護衛を巻いていると報告が上がった。


「どうやら、父上はブラウン伯爵夫人と会っていたという疑惑が浮上した。

さらにブラウン伯爵夫人は北方の隣国と繋がりがあるという情報まで入ってきた。父上にそのつもりがなくても、そのまま関係が続けば国を揺るがす不祥事になるかもしれぬ。

兄上が重宝している、ブラウン伯爵の立場も危うくなる。人材は大事なのだ。そうなる前に全貌を確認し、最悪の状態であれば証拠を掴み。画策をつぶしたい。

可能であれば、内々に父上の不祥事について取引を考えている。穏便に兄上へ王位継承を進めたいと思っている・・・・。

・・・・お前にはすまないと思っているが・・・ブラウン伯爵令嬢の事は内々に済ませることも可能であった。しかし、刑罰で済むあの不祥事を牽制のつもりで多少は大事(おおごと)にするしかなかった・・・・」


王家のいざこざに、従兄の婚約者を巻き込んでしまったと落ち込むハーシェルヒルムにエーレンフリートは外向きの笑顔ではなく、慈しむように微笑む。


「大丈夫だ。気に病むな。以前からブラウン伯爵令嬢との会話の噛み合わなさに困っていた。

だが、貴族の婚姻なんてそんなものだろう?ゆくゆくは心穏やかに想い合えるかと願ってはいたが、私も彼女に歩み寄っていたわけではないようだ。婚約者の行動をきちんと把握していなかった私の落ち度でもあるよ。

それに、彼女があのような行動をしなければ処罰を受けるような事は無かった。君らのせいでも、巻き込まれたわけでもない。彼女の選択と我が家の選択だ」


決して、父上は愚王では無い。政治的観点から見ると民を想い、国民を想う賢王と言ってもいい。恋心一つで家族をないがしろにし、国に不利益をもたらすなんて・・・


「恋とは恐ろしいものだな・・・」

「そうだな・・・」

拝読ありがとうございます!


【愛称:リート】エーレンフリート・テイラー侯爵子息(18)

テイラー侯爵長子長男*髪:水色、肩までの長髪、ストレート*目:金

【愛称:ハーシュ】ハーシェルヒルム第二王子殿下(16)

 王国第三子第二王子*髪:銀髪、腰まのロング、ストレート(ポニーテール)*目:青紫

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