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高貴なる者の義務と放埓  作者: 島城笑美


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006 公爵令嬢の憂慮

回想から戻ってきました。ベアトリスとディオティマのお茶会に第二王子とお兄様の参加のお話。

「というわけだ」


ブラウン伯爵令嬢との話し合いの様子を掻い摘んで説明したハーシェルヒルムはふぅと息をつき新しく淹れられたお茶に口をつける。


温室を温める為にある火鉢の炭が爆ぜる小さな音が響く。衝撃的な話である上に、彼女たちには理解し難いブラウン伯爵令嬢の行いにディオティマもベアトリクスも言葉を失い沈黙が広がる。


「ごめんなぁ。ベティ。お義姉様が出来ると喜んでいたのに・・・・」


エーレンフリートの美しく涼やかな薄い青の眉を下げ、ベアトリスへ詫びる。元気のない声に、ベアトリクスはビクッと正気を取り戻し髪が乱れそうなほどふるふると頭を左右にふり兄の謝罪を止める。我に返ったディオティマもそれに続き気遣いの言葉をかける。


「大変でしたね。リート様は・・・・大丈夫ですか?」


「あぁーんー。まぁーな・・・」


ディオティマの優しい言葉にエーレンフリートは憂いの無い曖昧な言葉を返す。その反応に3人は、パチクリと目を瞬き不思議そうに見つめ返す。


エーレンフリーとベアトリクスの父とディオティマの母が兄妹。

ハーシェルヒルムの父とディオティマの父が兄弟。

ハーシェルヒルムの母とベアトリクスの母が姉妹。


繋がりは違えど、其々がいとこ同士なのでどうしても似る部分があり、キョトンとした顔があまりに似ていて笑みをこぼした。エーレンフリートは、同じ表情をする3人に観念したように苦笑を漏らしつつ言葉を続けた。


「状況としては、まぁ。侯爵家嫡男であり、成人したばかりの私の婚約がなくなるという事は良くないとは思う。

だが・・・まぁ。婚姻が流れたのは正直ほっとしている。婚約当初はフランっ・・・ブラウン伯爵令嬢は13歳だった。学園に通う前であったし、無邪気なお嬢さんだなと思うくらいだったんだが、ここ数年・・・成長を・・・感じなくてね。いつまでも、少女のようで・・・

彼女の兄であるメルヴァン様は2学年上で優秀な人だと良く存じ上げている。父君であるパトリック卿とは私が仕事を始めて、良くお会いしていたから、彼女も追々とは思っていた。

しかし、会話をしていてもかみ合わないのだよ。婚姻を結んでも大丈夫かという不安はあり、我が家で教育をという話もあったんだよ」


ディオティマとベアトリスは目を瞬き、わずかにポカンと口を開いた。ブラウン伯爵令嬢の話を聞いてから何度気をとられただろうか、再びはっとしたディオティマは心配そうにエーレンフリートを労わると、エーレンフリートは嬉しそうに優しく微笑む。


「左様でございますか?大変憔悴していたように見受けられましたが、お心は痛むのではないですか?」


「ディオは優しいね。憔悴していたのは・・・」


「あの女の言い訳が酷かったからだ!」


「あの女とは、失礼ですよ!ハーシュのせいかもしれないのに!無責任じゃない!?」


「ハーシュも被害者だよ。謂れのない噂を、流されているからね。私の管理不行き届きだ。真に申し訳ない」


ディオティマが憤ると、エーレンフリートはハーシェルヒルムを擁護しながら謝る。


「いいや。あれは、リートのせいではないよ。あのご令嬢の独断だ。噂も高位の者達は私が留学中の話だから不自然に思い信じていない上に聞いても広げてもいない。

しかし、爵位が下位の学生は留学出発の夜会に呼ばれていないからな。信じているものがいて広がったとしても致し方ない。多方面から噂が流れると貴族というものは自分に不利益で無い限り面白がって傍観するものだろう?」


「・・・・・」


ハーシェルヒルムは軽くブラウン伯爵令嬢の罪であり、エーレンフリートには関係ないと擁護してくれるがエーレンフリートは、自身の不甲斐なさに顔を顰めることしかできなかった。そんな、エーレンフリートをディオティマが労う。


「リート様?無理はなさいませんように・・・」


「なぁ〜なぁ〜何で、ディーはそんなに俺とリートへの態度がこんなに違うのぉ?おんなじ従兄じゃん?寂しいんですけどぉ~俺も被害者だよぉ~慰めてよぉ~」


重たい空気にハーシェルヒルムが王族らしくない言葉使いでディオティマに突っかかると、ベアトリクスがクスクスと笑う。続いてエーレンフリートもディオティマもふっと笑ってしまい重たい空気は払拭された。


「お兄様が落ち込んでないのでしたら私たちも何も言いませんわ。お話合いお疲れ様でした」


「あぁ。落ち込んでは無いよ。彼女の本性に少し疲れただけだよ。まぁ正直、そのままテイラー家に入る事がなくなってむしろほっとしたかもしれない」


あららと目を瞬く3人の顔を見てにっこりと微笑むエーレンフリートはハーシェルヒルムに向き直る。


「さてハーシュ。私に用があってきたのだろう?自室でいいかい?」


「あぁ。そろそろオリヴァーも回収しないといけないしな。行くか」


「2人共、邪魔したね。楽しんで!ディー。晩餐までいるかい?」


「はい。本日はお泊め頂く予定になっております」


「そうか。では、晩餐で」


にっこりと微笑むエーレンフリートの横から、ハーシェルヒルムは顔を出し自身も晩餐に参加しよう!と言う。するとすかさず、今の時間から人数変更は招待する家にとって迷惑だとディオティマが咎めるように返したが、ヘルミーナ叔母上に伺ってくると軽い足取りで本邸に戻って行った。


「あははっ久しく会えていなかったからな。よほど従兄妹達と会いたかったのだな。ハーシュもなかなか大変な立場なんだ。ディー大目に見てあげてくれないかい?」


エーレンフリートが声を上げて笑ったことに、二人は目を見開き目を合わせ、元気が出たようでよかったなと微笑む。ディオティマはエーレンフリートの言葉にコクリと頷いた。


そんな二人に微笑みまた晩餐でねと声をかけ、エーレンフリートは急ぎ足だが優雅にハーシェルヒルムを追いかけるように本邸に戻った。


「「・・・・・・はぁ」」


今日は色々な事が起きすぎた。二人は思わずため息が重なり目を合わせ苦笑いを交わす。


「凄いお話でしたね。まさかフラン姉様が・・・いけませんわ。ブラウン伯爵令嬢でしたわ!気を付けなくては!」


「本当に気をつけなさいよ。今後、関わらないようにしなくてはいけないわ」


「そんなにですか?」


「えぇ。彼女の願望だった第二王子である、ハーシュとの未来は絶たれたわ。ハーシュに纏わる醜聞を持った彼女を第一王子殿下の婚約者になることはないわね。テオはまだ10歳なのだし」


「そうですね。王家と王家に連なる高位貴族との婚約は難しいですね」


「えぇ。そうなると元々の縁に戻ろうとするのではないかしら?」


はぁと溜息を付きながらディオティマは頬に手を当て眉間に力が入る。そんな、ディオティマにベアトリクスは不思議そうな顔になり尋ねる。


「でも、婚約解消したばかりの相手と元に戻すのは難しいのではないでしょうか?」


「そうね。この婚約が解消や破棄ならどの口が言うのと周りからも冷めた目で見られるのでしょうけど、伯父様が『白紙』にしてしまったのよ。伯父様もリートお兄様もお顔立ちが涼し気で厳しいくみられがちですが本当にお優しいから・・・・・貴方もよ!ベティ!ほだされては駄目よ!」


ディオティマも強い口調にコクリと息を飲むと、桔梗色のキリリとした眉がだんだんと情けなくも下がり困った様にベアトリクスは答える。


「・・・ですが、お話してしまうと・・・力になりたくなりそうで・・・」


「そうなのよね。ベティも優しすぎるものね。

ブラウン家とは、関わりを持ってはいけないわ!夜会では必ず、私かリート様といるのよ?・・・・・でも、学園は困るわねぇ。

私とは、学年が違うものね。ブラウン伯爵令嬢はそろそろ卒業なのよね?お咎めがあるとしても、軽めの不敬罪よね。卒業くらいはさせるのでしょうね」


「軽めの不敬罪ですか?」


ベアトリクスは、目を瞬かせて驚き何故そのような事に?と聞く。そんなベアトリクスに対してディオティマは状況の推論よといいながら説明をし始める。


「そうよ。この国の第二王子と逢瀬を重ねたと虚偽の噂を自ら(・・)流した事がバレているのですもの。

でも、噂を流しただけで重罪にしては貴族達が王家を横暴だと目の敵にしてしまうでしょう?伯爵令嬢で高位のご令嬢ですし、しかも噂は下位貴族にしか伝わっていない。

けれども、今回は本人が流しているし。確認が取れている・・・放置するにしても王族の権威に傷がつきます。釘を刺す程度の刑罰となると自宅謹慎かしら?

軽くとも彼女は17歳でしょう?卒業と共に成人ですもの。醜聞が消えるまでには・・・婚期を逃すでしょうけど・・・・重いか。軽いかは分からないわね」


軽い罰だと短期間の自由の無い謹慎もしくは少し自由のある奉仕活動などになるのではないか。学園にも通う自由がある場合、学園で一緒のベアトリクスに接触してエーレンフリートと取りなして再婚約を狙うかもしれない。心優しいこの兄妹をディオティマは心配していた。


「ねぇ?先ほどの痴人(・・)の弟とは同級生だったかしら?」


突然のディオティマの暴言にベアトリスはぱちくりと目を瞬き、顔を顰めてディオティマを窘める。


「そんな・・・痴人・・・なんて、お姉様もう一度エヴァンス小侯爵とお会いすることは難しいですか?」


「どうして?私が会うの?」


不思議そうに首をかしげるディオティマに、ベアトリスは頬に手を当て悩まし気に言葉をつなぐ。


「クレメンス様は、私の数少ない友人で、尊敬できる方なんです。・・・その彼がお兄様は優秀であると、大変尊敬していらっしゃいます。どのようにしてあのような態度だったのか・・・理由があると思うのです。私は大変気になりますの。何かご事情があるのではと・・・・」


ベアトリクスは、クレメンスの兄であるアーデルベルトが悪い人では無いと思い弁解出来る機会を儲けたいと思っていた。


「う〜ん。・・・・・・・わかったわ!ベティがそこまで言うなら、私も弟の方に頼みたい事があるの。2人を招待するのであれば会いましょう。そうね・・・明後日もしくは・・・・4日後なら空いてるわ!」


「よろしいのですか!?」


意外にもすぐにディオティマの了承を得たベアトリクスは、晩餐の準備の為にディオティマがいつも泊まる客間に送り届けると、自室に戻り早速クレメンスに手紙を書き早めに届けるように使用人に事付けして渡した。

読んで頂きありがとうございます!




回想から戻ってきたので、第3話と同じ人物になります。




 ~登場人物~


【愛称:ベティ】ベアトリクス・テイラー侯爵令嬢(15)

テイラー侯爵家第二子長女*髪色:桔梗色・腰までの長髪・ストレート*目:金

【愛称:リート】エーレンフリート・テイラー侯爵子息(18)

テイラー侯爵長子長男*髪:水色、肩までの長髪、ストレート*目:金

【愛称:ディー】ディオティマ・アンダーソン公爵令嬢(16)

アンダーソン公爵一人娘*髪:オレンジ色、腰までの長髪、ゆるウェーブがかかった髪質*目:青

【愛称:ハーシュ】ハーシェルヒルム第二王子殿下(16)

王国第三子第二王子*髪:銀髪、腰まのロング、ストレート(ポニーテール)*目:青紫

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