052 伯爵令嬢の婚約
長くなりました。お兄ちゃんがお喋りで・・・
部屋中に充満するのでは無いかと思われるほどのエーレンフリートの大きく長い溜息が響き渡る。なんで、こんなのが次期国王の筆頭護衛なんだとブツブツと言いながら何とか立て直してエーレンフリートはフランチェスカに向き直る。
「ブラウン嬢。本当に断ってもいいんだよ。コイツ、見た目は殿下方に似て麗しいですけ中身こんなもんですよ?」
「仲がよろしいのですね」
「良くないです」
「良くないよ」
「ふふっ。息ぴったり」
「長年一緒におりますから」
「俺は殿下のハトコ、リートは殿下のイトコで同じ年ですからね。この二人と同じ年なのが俺の不幸です」
「華やかですね」
「「?」」
「イーヴォイェレミアス殿下と、エーレンフリート様にジェラルド様。ご一緒されていたんでしょう?華やかな学年ですね」
「分かってますか?ひとつ上のあなたの兄上メルヴァン様が高学年になってからご卒業まで生徒会長なのを?」
メルヴァンも、祖母に似ている容貌は美しく更に学業は秀でており、何より誰にでも分け隔てなく優しく気安い分、王族であるイーヴォイェレミアス達よりも人気があった。所詮、学生時代の人気ではあるが男女ともに好かれているのは事実であった。
「お兄様は学園寮にお住まいで接点がありませんでしたので・・・」
「そうでしたね。今はどうですか?」
「最近お忙しいようですが、お休みの日には私や弟たちともお茶をする時間をとってくれます。兄弟と離れていたのに、お兄様は世話好きなんですよ。領地で領民や使用人の子たちとの交流があったそうです」
「よかったですね」
ほっこりと微笑み合うエーレンフリートとフランチェスカを眺めジェラルドは少し拗ねたように口を挟む。
「だから、リートはどんな立ち位置なの?」
「まぁ。兄の様な?気持ちかな?」
「出来の悪い妹でしたね」
「大分、成長したようで喜ばしいよ。・・・・・さて、心苦しいが本題を進めようか?」
エーレンフリートが少し真面目な顔になり、フランチェスカも背筋を戻しコクリと頷く。
「君とジルが、婚姻してほしいのは複数のこちらの思惑もある。言わずとも進むのであれば教えるつもりは無かったが、君の成長をここまで感じるのであれば包み隠さず伝えたほうがいいと判断した」
「はい」
「今、陛下の失態でイーヴォイェレミアスが立太子してそのまま戴冠するように動いているのは知っているね?」
「はい。最近カレン先生とお茶会で出るようになりましたので、事情をお兄様より伺い迂闊な発言をしないようにとカレン先生から会話術を学んでおります」
「うん。頑張っていますね。ですが、それを知っているのは貴族院に所属している高位貴族の実ですが、今残っている貴族院の中から王弟派を確立しようとしている貴族がいます」
「イヴは腹黒だし、怪しいとされたらとことん追い詰めていくからね。今回の、陛下の追い詰め方もなかなか罠を張っている感じがあったしね!しっかり陛下の片棒を担いでいなくても甘い蜜を吸っていた貴族は残っているんだよ。そんな貴族たちは、温厚に見えるオーランド様の方が操りやすいと考えているんだろうね」
「オーランド叔父上が温厚。何処見てるんだろうね?」
「本当だよね?あんなに国王陛下に嫌われているのに大領地の公爵位を賜った人を、温厚で優しく御しやすいって!」
「あぁ。そうだな。どこを見てるんだろうな・・・。怒ると父上よりも怖いのに・・・。
オーランド叔父上は、そもそも王へなりたいとも思っていない上に、自分を慕ってくれている甥姪を可愛がっている。イーヴォイェレミアスの手助けはすることはあっても敵対することは無い。
そして、陛下と一緒に捉えられて貴族がいる現状で数ある婚約が破棄されている。捕まった貴族たちと婚約をしていた貴族の子息令嬢たちの婚約が宙に浮いてしまった」
「そう!今からは婚活ラッシュだよねぇ~」
ジェラルドがパタパタと両手を上に持ち上げ、お手上げのポーズをして茶化すがエーレンフリートはそのまま真面目に話を続ける。実際、言っていることは間違ってはいないのだから。
「そこで、次期陛下の事務方のもっとも近しい側近であるパトリック・ブラウン伯爵の子がどなたも婚約者がいない」
エーレンフリートの話に、フランチェスカは少しだけ青ざめる。扇子をぎゅと握って浅くなっている呼吸を整える為に深く息を吐く。
「分かっているね。パトリックとメルヴァンは今多忙で城に詰めている。そして、ニコラ夫人は不在。君へ直接君や弟たちの婚約の打診が、多数来る可能性がある。まだ学園生活も数か月残っているからね」
「・・・・はい。そうですね・・・」
「君にも名ばかりだとしても、王弟派の派閥とつながってほしくない」
「もちろんです」
「でも、姑息な貴族と言うものは何をするのか・・・」
「えぇ。大体は分かります。カレン先生からも色々聞いております。自衛についても・・・」
フランチェスカの声に、エーレンフリートも一瞬驚くが納得した顔になり、ジェラルドは下を出して叔母に恐れ慄く。
「伯母上、えげつない・・・」
「ウィル夫人は、聡い人だから必要だと思ったんだろう。
ジルと君が、婚約すればもちろんジルの婚約者という立場が君を守る事もできるし、ハリス伯爵家を始めハリス伯爵の兄であるウィルソン公爵家、ウィル侯爵家も君を守るだろう。ウィル夫人が家庭教師としてではなく、伯母として君を守れるんだ」
「あー。リート。少し、休憩しないか?」
エーレンフリートは懸命に説明している中、ジェラルドが突然の休憩を所望する。瞳を丸くして驚くフランチェスカと怪訝な顔で反論するエーレンフリートにジェラルドは話を続ける。
「なんだ?いきなり」
「こんなにたくさんの情報を伝えられたら普通の令嬢は、混乱する。下手したら気絶する」
「そんなわけないだろう?」
「リートの周りが強い女性ばかりだから分からないかもしれないが、普通の令嬢はそうだ。顔色を見ないのはお前らしくないぞ。
一旦休憩する。ブラウン嬢少し、庭を回ってきましょう。折角、王城にいらしたのに部屋に籠って庭を見ないで帰るのはもったいない」
今は丸くしている亜麻色の瞳は毅然とようと力が入っているが、顔色は青みを帯びた白で、どう見ても自分の状況に困惑している。フランチェスカは、一度エーレンフリートの顔を見ると、エーレンフリートも納得したように頷く。それを見たフランチェスカはホッとしたように頷きジェラルドに返事をする。
「はい」
ジェラルドに差し出された手に、自身の手をかけて立ち上がらせて貰う。そのままエスコートされて、応接室からそのまま中庭に出ていける扉に向かう。中庭には、エーレンフリートはついてこなかった。
少しばかり、無言で庭を歩くと外の空気を吸えたからだろうか強張っていた身体から力が抜ける。深く呼吸をついたところでジェラルドが話しかけてくる。
「すみません。たくさんの聞かされて驚きましたよね」
「えぇ。でも、知っておくべきことです」
ジェラルドは殿下たちに似ている紫の瞳を見開き柔らかく微笑む。
「本当に、別人の様ですね。あの頃の無邪気なブラウン嬢も可愛らしかったでしたが、今ご自身のご意思で色々な事に立ち向かう貴方も美しいですね」
ジェラルドの声に、フランチェスカはボッと顔を赤くする。ジェラルドは、絶句して訝し気にフランチェスカの顔を覗き込む。
「言われ慣れていらっしゃるでしょう?」
「えっと。以前の私は自分の事を美しいと思っていましたし。貴族の男性が褒めるのは社交辞令の様なものでしょう?それに、お慕いしている方に言われるのは、意味合いがちがっ・・・」
フランチェスカは、急に言葉を止めてそろそろと口に手を充て視線が地面へと落ちる。先ほど、熱くなった顔からは熱を急激に失う。口に充てた手が体温を失って冷たくなってきたころに、隣のジェラルドが無言な事に気がつきゆっくりと恐る恐るジェラルドを視線だけで盗み見る。
そこには、先ほどのフランチェスカの様に顔を真っ赤にさせたジェラルドは口を手で隠し固まっていた。
「あの・・・・。・・・忘れて下さいまし」
「嫌ですよ!」
「え?あっ・・・あのっ」
「ブラウン嬢は、俺を多少成りに憎からず思って頂けるという事ですよね?俺!聞こえました。あれ?幻聴?いやいや!ねっ!」
「あっ。はい・・・えっ・・・と・・・お慕いしております・・・・」
「おぉ!ありがとうございます!えっ?でも。何故?」
「えっ?あっ・・・・えぇ~」
「教えて下さい!こんなの死んでも死にきれないんで!」
「死なないで下さいまし!」
「では、死なないので教えてください!」
ジェラルドの勢いに負けて、フランチェスカは目を左右にさ迷わせるが何とか羞恥心を押さえて答える。
「えぇ~と。あの出会った日もずっとお優しく私を気遣って頂いておりましたし、殿下から叱責を受けました時も、心配そうに私を見ていたでしょう?
・・・今日も、とても気遣って下さっているのです・・・お慕いしないわけがありません・・・」
「え?でも、貴方にお優しい人はいたでしょう?」
フランチェスカは少し困った顔になり、恥ずかしそうに頬を染める。なんだ、この恥ずかしい尋問はとは思ったがジェラルドが引く気配が全く感じず自棄になって早口で答える。
「以前の私は我儘だったでしょう?婚約者も侯爵家の人気のあるエーレンフリート様で同級生に傲慢に映っていたと思います。なので、可愛いと言ってくださる方は数人おりましたがそれもテイラー家、ブラウン家と繋がりを持ちたい方々でしょう。
エーレンフリート様は、今ではアレは彼なりの優しさであったと理解出来るのですが不出来な妹を窘める様な、不真面目な生徒を諭すような感じで・・・
私自身にお優しく気遣ってくださる方は、ハリス卿が・・・」
その瞬間、フランチェスカは温かさと圧迫感を感じた。混乱して上を向くとジェラルドに抱きこまれている状態に気がつき、さらに混乱した。
「あのっ」
「ヤバい。もう無理。可愛すぎる。はぁ~」
ジェラルドのつぶやきが耳の上の方から振ってきて。フランチェスカは更に体温を上げて固まる。フランチェスカの身体が硬直した事に気がついたジェラルドはガバリと離れると2、3歩後ずさり、そのまま深々と頭を下げた。
「申し訳ございません。急に!あのような!」
「あっ・・・いえっ・・・・」
「「・・・・・・・」」
体感では長いのか短かったのか分から無い沈黙が落ち、ジェラルドは急にフランチェスカの前に跪くとずっと俯いていたフランチェスカの顔の前に白いものが視界に入る。いつ詰んだのか分からない庭の花であろう一輪のアスターをジェラルドは差し出した。
「フランチェスカ・ブラウン嬢。私たちの始まりはあまり褒められたものではありません。情勢や環境をこの際置いておいて、私に貴方の隣にたつ名誉を頂けないでしょうか?」
「・・・・・私の・・・・隣が・・・・・名誉に・・・・なりますか?」
ジェラルドは、下げていた顔を上げフランチェスカと目を合わせるとニカッと笑い。僕にはなりますと答えた。
拝読ありがとうございます。
後、数話。回収していきます。お付き合い頂ければ幸いです。
~登場人物~
【愛称:フラン】フランチェスカ・ブラウン伯爵令嬢(17)
ブラウン伯爵令嬢二子(長女)女児一人*髪:ミルクティ色、ロング、ゆるウェーブ*瞳:亜麻色
【愛称:ジル】ジェラルド・ハリス伯爵子息(19)【イーヴォイェレミアス 又従弟/側近(騎士)】
ハリス伯爵子息二子(次男) 髪:銀、ロング(影武者もできるようにあえて延ばしている) 瞳:紫
【愛称:リート】エーレンフリート・テイラー侯爵子息(18)
テイラー侯爵長子長男*髪:水色、肩までの長髪、ストレート*瞳:金




