051 伯爵令嬢の成長
長くなってしまったので、変なとこで切れてます・・・
フランチェスカが王宮に登城したのは、エーレンフリート様との婚約破棄の時以来だった。メルヴァンと話をしてから、伯爵家の令嬢として遅いながらも家庭教師がついて、勉強に励んでいた。家庭教師の先生はおっとりとした見た目の母親より少し若い妙齢の女性だったが、学園での学業の補足、マナーや会話術などの淑女教育と共に気分転換と合わせて美術、芸術、調度品の見学の為と美術館へと連れ出してくれた。
今日、案内された応接室は以前の部屋よりは幾段も下の格の部屋ではあったが、伯爵家には無い豪華ながらも品がある調度品。重厚な家具で整えられた応接室にフランチェスカは緊張していた。あの時の自分がいかに何も知らず、あの場所に座っていたのかが分かった。蟀谷からじわりと汗がにじむのを感じ、深呼吸をする。
「お待たせしました。本日はご足労ありがとうございます」
コンコンとノックの音と共にジェラルドが入室してきた。慌てて、席を立ちフランチェスカはカーテシーの礼をとる。すぐに頭を下げたのでジェラルドと共に入ってきた人を見ていなかった。
「ジェラルド、ノックと共に入室したらノックの意味が無い」
ビクンと体が固まるが、まだ顔を上げる許可が出ていないので確認をすることをグッと抑えて待つ。
「あぁー。よくレティにも怒られる。あっ!ブラウン伯爵令嬢。姿勢を戻して下さい」
そんな丁寧にあいさつするような相手じゃないですよと言われ、フランチェスカがゆっくりと顔を上げると、護衛騎士の隊服に身を包んだ銀の長い髪の男性と、数年前より頻繁に顔を合わせていた簡易の法衣服を纏った晴れた空のような水色の髪色が目に入る。やっぱりと何故がごちゃませになりながらもフランチェスカは平静を装い次の支持を待つ。
「ブラウン嬢。お座りになってください。私は・・・自己紹介はいいですね。立会人です」
「リート。言葉崩していいんですか?」
「貴方に言われたくありません。ですが、ブラウン嬢が緊張なさってるようですのでもうそのままでいいです。少し崩しましょう。今日は3人になります。ですが、給仕中は少し繕ってください」
「よかったぁ。堅苦しいのは殿下と一緒の時だけでお腹いっぱい」
「貴方、本当によく第一王子の筆頭護衛ですね。フランチェスカ?座りましょう?」
フランチェスカは軽口で言葉を交わす二人を立ったまま呆然と見ていると、エーレンフリートは眉尻を下げて声をかけてくる。昔の呼び方と、優しい声色に頭の中には疑問符を浮かべたままだが丁寧な所作で席に座る。その向かいに、ジェラルドとエーレンフリートも座った。
3人が席に着くと、時間を見計らったメイドたちが音もなく入室してお茶やお茶うけを給仕してお辞儀をして音もなく出て行く。
「メルヴァンから聞いてたけど、随分頑張りましたね」
エーレンフリートの声にハッとして目を向けると、エーレンフリートはにっこりと微笑んでいた。フランチェスカは目を見開き眉間がツンと痛む。瞳に潤みを感じるが眼を見開き水分を散らす。
「はい。メルヴァンお兄様にお願いして家庭教師をつけて頂きました」
「あぁ。ウィル夫人はいい先生でしょう?ベティの教師もして頂いた」
「え?叔母上が?」
フランチェスカが返事をする前にジェラルドの声が遮る。その声に、ジェラルドに頭を向け、フランチェスカも目を見開き驚く。エーレンフリートは呆れた顔になりフランチェスカに問う。
「あぁ。夫人は家名を告げていなかったですか?」
「はい。『私はカレンです」とだけ・・・」
「彼女は、カレン・ウィル侯爵夫人。まぁ最近なったのですが、ジェラルドの叔父であるウィル侯爵の後妻になっています」
「そうなのですね。不勉強で申し訳ございません」
「いいえ。教師本人に意図的に隠された情報は社交に出ない限り得られません。お母上もいらっしゃいませんし、貴方の落ち度ではありませんよ。でも、大変よく学んでいるのだと分かりました。素晴らしい事だと思います」
「今更だとは思いませんか?」
視線を落としておずおずと尋ねるフランチェスカにエーレンフリートはにっこりと微笑む。
「そう思わないわけではありませんが、教育を担うはずの方が貴方に教育を施していなかっただけで、今の貴方が本来の貴方なんでしょう。気に病まず。精進されると良いのではないかと」
「なぁ。リートは、ブラウン伯爵令嬢のなんなの?お兄ちゃんなの?お父さんなの?教師なの?」
「元婚約者ですが?」
「元婚約者ってこんなに過保護なの?嫌だけどこんな小舅」
悪態をついているジェラルドに簡潔に答えその後の言葉に気がつき、ジェラルドを無視してフランチェスカに向き直るエーレンフリートは伝えなければいけないことを伝える。
「フランチェスカ・ブラウン伯爵令嬢。この度の、貴方への処分は撤回されました。貴方の行った事は陰謀を企む大人によって不利益を被った子供のという事で処理されることが決定しました。無罪放免です」
「え・・・あっありがとう存じます」
突然の『無罪放免』の言葉に、どもってしまったがフランチェスカは何とかエーレンフリートに礼を告げるとジェラルドにそっと目を向ける。何故か急に緊張してるジェラルドの顔がそこにはあった。
「それで、君は瑕疵の無い伯爵令嬢となりました。ジェラルドと結婚する必要も無くなりましたが、どうされたいですか?婚約者に望む方はいらっしゃいますか?」
「ジェラルド様の罰も無くなったのですよね?それでは、この様に瑕疵のついている娘ではジェラルド様にとって良くありませんので辞退致します。新しい婚約者はお父様や王太子殿下に不利になる方でなければどなたでもかまいません。家の負担になりたくありませんので・・・」
「凄い変化ですね・・・・・。あっ!一つ!ジェラルドへの罰は無くなっていません」
「え?何故でしょうか?」
フランチェスカの回答に関心するエーレンフリートだったが、フランチェスカはジェラルドの罰の事の方が気になった。
「あぁー任務潜入中にお声かけをしたので・・・私の職務中怠慢に特にブラウン嬢とは関係ないといいますか・・・」
ジェラルドのしどろもどろな説明に、フランチェスカは扇子を握る手に力を入れて少しばかり声を張り上げる。
「ですが、あれは私があのような場所にいて!保護しようとなさって!私が言い寄ってしまったからで!」
「ですが、のったのはジェラルドです」
「はい。俺が乗りました」
ジェラルドは両手を挙げて、降参のポーズをとる。エーレンフリートは呆れたようにジェラルドに見やり、フランチェスカに視線を戻す。
「そこで、ブラウン嬢に相談です。貴方が生理的に受け付けないというわけでは無いのであれば、このまま、ジェラルドと結婚して頂けませんか?」
「え?ですが、ジェラルド様は伯爵令息であり、殿下方のハトコ。最も近しい護衛騎士ではないですか?私では分不相応ですし、足手まといになります」
フランチェスカの言葉に、エーレンフリートは眉を上げる表情になり口元を歪める。
「ブラウン嬢、貴方は法の最高位に代々連なるテイラー侯爵家嫡男の婚約者に選ばれていた事を忘れていませんか?」
「あっ。えっと。でも」
「正直、ジェラルドの罰は別にやればいいとは思うんですが・・・あなたと結婚しても罰ではありませんし」
「おいっ」
「ジェラルドの伴侶と言う立場もなかなか難しいのですよ」
「ですが、私は罪を犯した人も娘です」
「はい。ですが、知っているのは高位貴族の中でも貴族議会の会員のみ。今回の事件は王族が起こした事ですが大事になる前にそれを潰したのも次代の王族。それを大々的に公表して周辺国への弱みを見せるべきでは無いということになりました」
「帝国にはバレてるけど、帝国とは協力関係を築いている。帝国と我が国からの物資に頼っている上に、元王族が迷惑をかけたキャウトィランヴ国は、今後こちらに強く言えない状態になっている。しかも、あの国であほ王子を王太子に近づけるほどの力を持った公爵令嬢が今この国にいるからね」
「おいっ。それは、まだ!」
「おっと、すまん」
「大丈夫です。聞かなかったことにしますので・・・母の罪は公にされないとしても罪を犯しているので罰を受けますでしょう?そこから、気づかれるのではないでしょうか?」
「いやっ!陛下は病気療養という事になる。君の母上は、献身的にそれを支える為に侍女になった。という事になり隔離された」
「え?」
「数日前に移送されています。パトリックの立場の為に、ブラウン夫人自ら王家の役に立つために志願したことになっている。噂好きの貴族たちはそれを聞いたらどうなると思うと思います?」
「えぇ。そうですね・・・」
フランチェスカが深く思案するがジェラルドが喜劇的に話始める。ビクッとしたフランチェスカだがそれを聞いて納得する。
「あぁなんて素敵なんでしょう!『思いあっていた恋人が時を経て余生を穏やかに過ごせるよう、王妃と臣下が身を引いた』という美談になるんでしょ?噂も流すの?」
「あぁ。何人かの伯爵夫人に母と叔母上がここだけの話として流している」
「あの増殖するここだけの話か・・・・」
「そこで、ですね。君は次期国王の教育係で側近の父を持ち、前国王の世話を献身的に支えた母を持つ娘になる。私とも婚約も白紙と言う形になっているので、私が帝国からいらっさっしゃるウルリーケ殿下の側近から伴侶を選べばこのためだったのかと貴族たちは勝手に納得する。完全に第一王子側の優良な伯爵令嬢なんです」
「え・・・」
エーレンフリートの淡々とした説明に、フランチェスカは混乱する。しかし、エーレンフリートは淡々と続きを話続ける。
「それに、お父様を見てお育ちになっているので執務の忙しい上司を持っている事も分かる。侯爵夫人になる予定でマナー講習を受けていたので感情面で伴っていなかったのですが所作は綺麗でした。ウィル夫人の指導もあり磨きがかかっています。ジェラルドは、殿下の筆頭護衛騎士です。叙爵もほとんど約束されている立場で、彼の叔母上である侯爵夫人から直に指導を受けています。
貴方以上に適任のご令嬢はいないのですよ。まぁ。本当に生理的に無理というのであれば断ってくださって下さい。貴方にはジェラルドからの縁談を受けなくてはいけない理由はありません。ジェラルドには合う令嬢が見つかるまで何年でも結婚は待っていただきましょう」
ニコッと微笑むエーレンフリートの隣でジェラルドは真っ青になりながら口をぱくぱくと開閉して悲壮感を漂わせているがここで、ジェラルドが縋ればほとんど命令になる事だと思ってフランチェスカには何も言わないのだろうがエーレンフリートが散々脅しているので今更である。
「あっあの!ジェラルド様は・・・・私で・・・・いいのですか?」
「え?ブラウン嬢と結婚出来れば僕は幸せですよ。あの時に、好ましいと思っておりましたし・・・前回も貴方を落い詰めるのは・・・申し訳なかったです・・・正直嫌でしたよ」
「え?」
「でも、私は殿下の騎士ですので何をとっても殿下を優先します。結婚してもそれは変わりません」
「それは、理解しておりますし、納得できます」
「では、俺っ。私はブラウン嬢がこの縁談を受けて下されば幸いです」
屈託ない笑顔で言い切られてしまっては、フランチェスカに断る理由がなくなる。エーレンフリートから薦められて、ジェラルドから求められている。それは、つまりイーヴォイェレミアス第一王子の意向でもあるだろうとフランチェスカは考えに至る。
断ってしまっては、それこそ王家への忠誠心の足りない臣下として父がみなされないか。兄にも迷惑をかける。兄や弟たちの縁談も今からなのだからとぐるぐると思考が回る。
「フランチェスカ!悪かった。脅しのようになったがこちらの利点を伝えたかったんです!」
「フランチェスカ・・・?」
「あっ!すまない。何回も呼んでも返事がないものだから、つい」
初めてエーレンフリートの焦ってる姿を見たなと考えながらフランチェスカは先ほどエーレンフリートが言っていたことを咀嚼するがそれにジェラルドの声も重なる。
「俺の奥さん。呼び捨てにしないでもらえる?」
「俺の奥さん・・・・?」
「あっすみません。調子に乗りました」
ペコっと頭を下げるジェラルドに混乱しながらも、先ほどから感情の起伏に耐え切れず面白さが出てきてフランチェスカは、ふふっと笑いをこぼす。
「ブラウン嬢。今、パトリック卿がいないのは君に気持ちを知るためなんだ。彼がいたら絶対に婚約を受けることになると思う。ジェラルドが、君の気持をまず確かめたいと言ったのでこの3人で会うことになった。正直に、気持ち悪いから無理と言っても大丈夫だよ?」
「さっきから、俺に切りかかってくるのは何なの?リート。俺が先に結婚するのが許せないの?なんでもかんでも、君らがTOP2を独占してきたんだからそこぐらい俺に譲っても良くない?」
拝読ありがとうございます。
後半、書けたら早めに投稿したいと思います。
~登場人物~
【愛称:フラン】フランチェスカ・ブラウン伯爵令嬢(17)
ブラウン伯爵令嬢二子(長女)女児一人*髪:ミルクティ色、ロング、ゆるウェーブ*瞳:亜麻色
【愛称:イヴ】イーヴォイェレミアス第一王子殿下(19)
王国第一子、第一王子*髪:金、肩下、ウェーブ、一つの三つ編み*瞳:赤紫
【愛称:ジル】ジェラルド・ハリス伯爵子息(19)【イーヴォイェレミアス 又従弟/側近(騎士)】
ハリス伯爵子息二子(次男) 髪:銀、ロング(影武者もできるようにあえて延ばしている) 瞳:紫




