048 王妃殿下の閉幕
会は閉まりますが、お話は続きます。
「これまででございます」
全ての事を、王妃の座に座りながらただただ沈黙に徹していたイーリスティナ王妃が口を開く。それは、静かではあったがきちんと会場中にとおる澄んだ声だった。
イーリスティナ王妃は、ヘルムフリート陛下を一瞥するとブラウン伯爵夫人ニコラに目を向け捉えなさいと騎士へ短く指示をする。すでに、逃げようとしていたニコラ夫人は息子であるメルヴァンとニコラスに拘束されておりそのまま騎士が引き受ける形になった。
絞り出す様に「母をお願いします」と呟くメルヴァンにニコラ夫人は目を見開き、自身を憎悪の目で睨みつけるずっと可愛がっていたはずのニコラスの顔に驚愕し、寂しそうな悲しい目のパトリックの顔にホッとしているが壁際へと引きずられるように連れて行かれる。
「何をする、イーリスティナ!ニコラを離せ!」
「陛下。ニコラ様が拘束される様になさったのは貴方様です」
自身の藤色の髪に合わせたドレスは美しく、碧の瞳は感情を表さない。無表情に近いイーリスティナの声は、決して揺れてはいないが悲痛な色を纏っていた。騎士に後ろから抑え込まれながらイーリスティナに向くが彼女はいつもの無表情で更に言葉を続ける。
「これ以上の醜態は、今後のイーヴォイェレミアスの治世にかかわります。黙してくださいまし。王太后様も存じて心を痛めております」
「・・・母上が・・知っているのか・・・」
愕然とした顔になった後に急に力を抜いたヘルムフリートを騎士たちは拘束しながら支え立たせた。もう、抵抗はしないようだが警戒を緩めることは無い。イーリスティナが更におもむろに凛とした紅い口を開く。
「ニコラ夫人を塔へ。他の者は貴族牢へ」
イーリスティナ王妃の采配にヘルムフリートは悲痛な顔となるがヘルムフリートを拘束している騎士たち以外は動き始め、今迄壁際に拘束されていた貴族たちもそれぞれの家格に合う貴族牢へと連行された。
「皆さま。お疲れのところ申し訳ありませんが・・・ここまで、イーヴォイェレミアスが準備を手配しましたので問うておきましょう。ジークフリート様、前へ。イーヴォイェレミアスはこちらへ」
イーリスティナ王妃は中央である自身の目の間にジークフリートを立たせた。原告側にイーヴォイェレミアスを呼び被告側に騎士に拘束されている陛下を目くばせだけで呼んだ。
「テイラー裁判長。お願い致します」
イーリスティナに裁判の進行と採決をお願いされたジークフリートは王妃に向き一礼すると振り返り徐に重々しく口を開く。
「此度の証拠は全て詳らかに開示されました。
国王陛下の進退に関わる事案になります。
よって、貴族院会員によります陪審員裁判となります。
着座が出来ませんので起立で決を摂ることが叶いません。
イーヴォイェレミアス第一王子殿下の訴えに倣い、ヘルムフリート国王陛下の退位を是とするものは私を中心としイーヴォイェレミアスの方へ集まり頂きたい。
明確にするため、票にはなりませんが家族も共に動きください」
貴族たちの無言の布が擦れる音だけが会場を包みこむ。幾ばくかの時間の後に音がやむ。
「満場一致で、ヘルムフリート国王陛下の退位が可決されました」
「陛下を塔にお連れして、ニコラ夫人とは別階です」
ジークフリートが静かに、静かに重々しく告げると、一縷の望みを持って貴族たちを眺めていたヘルムフリートは頭を垂れイーリスティナがジークフリートの隣に立ちながら陛下へと向かって指示を出し、更に言葉を続ける。
「それでは、継続して貴族院会議を続けます」
動揺する会場に、ジークフリートの静粛合図の手打ちの拍が響く。静粛の中、イーリスティナは続ける。
「心労の中ごめんなさい。王太子も決まっていないのは流石に今後困るのです」
イーリスティナの言葉に、先ほど動揺していた貴族たちは納得の表情になり頷く。ここに残る貴族たちは、宰相たちに声をかけられない様な堅物か、もしくは偏屈な人間ではあるが国に忠義の厚い者ばかりであることが幸いした。
「王太子、次期国王をイーヴォイェレミアス。宰相を王弟であるオーランドとしたいと思います。異論のあるものは前へ。ない者は後方へ移動願います」
その言葉に、貴族たちは一度礼をとると後方へと動きを見せた。前へ出る者は1人もいなかった。それは、今迄の働きと今日の立ち回りに不随するものだろうとイーリスティナは内心安堵する。
「満場一致でございますね。イーヴォイェレミアス。立太子おめでとうございます」
イーリスティナの言葉に貴族たちより拍手が起こる。拍手が治まると今迄全ての成り行きを静かに見ていたテオフィル殿下がリシュエンヌをエスコートしながら前に進み口を開く。
「リーヴバレンティ帝国第三皇子テオフィルの名の元に、その承認を帝国としても承認致します」
帝国の次期王太子の承認に、貴族たちは更に盛り上がり拍手の音を大きくなった。イーリスティナが手を掲げるとその音はピタッと止まる。再び訪れた静寂の中でイーリスティナは静かに言葉を紡ぐ。
「皆さまには、ハーシェルヒルムの誕生の夜会で多大なる心労をかけました。今宵は閉会と致します」
貴族たちがぞろぞろと優雅に、会場を出ていく中イーリスティナはハーシェルヒルムに近づき頬に手を添える。
「ごめんなさいね。貴方の誕生の祝いを今から家族で食事を行いたいのだけど・・・」
「大丈夫です。母上。また、後日一緒に食事をして下さい」
先ほどまでの無表情から、いつものハーシェルヒルムのニカッと笑顔にその場に残っていた兄弟や側近、友人たちがホッとする。
拝読ありがとうございます。
~登場人物~
イーリスティナ王妃殿下(40)
ウォーカー辺境伯長女*髪:藤色、ロングストレート*瞳:碧
ヘルムフリート国王陛下(42)
髪:銀髪、腰まのロング、ウェーブ*瞳:青紫
【愛称:イヴ】イーヴォイェレミアス第一王子殿下(19)
王国第一子、第一王子*髪:金、肩下、ウェーブ、一つの三つ編み*瞳:赤紫
【愛称:ハーシュ】ハーシェルヒルム第二王子殿下(16)
王国第三子第二王子*髪:銀髪、腰まのロング、ストレート(ポニーテール)*瞳:青紫
【愛称:ジーク】ジークフリート・テイラー侯爵(45)
現テイラー侯爵*髪:水色、ショートオールバック、ストレート*瞳:金
テオフィル・リーヴバレンティ(16)
帝国皇太子 髪:オリエンタルブリー 瞳:シルバー




