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高貴なる者の義務と放埓  作者: 島城笑美


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044 第一王子の嘆息

1人称と言っていいのでしょうか。イーヴォイェレミアス側の目線になります。

ハーシェルヒルムの誕生の宴は恙なく始まった。300人程度のこじんまりとした会と言うことで入場のファンファーレは王族だけとハーシェルヒルムが決め王にも認められた。そのおかげで、第三皇子たちも無事に入場したとイーヴォイェレミアスに連絡が入った。側近たちはせわしなく情報収集を行っている。


主賓ではあるが弟妹であるハーシェルヒルムとリシュエンヌが先に入場し、その後をイーヴォイェレミアスはディオティマをエスコートして入る。それに続き、国王と王妃も会場に入った。


ブラウン伯爵夫妻とメルヴァンと共に、通常であればいるはずのないニコラスも帯同している。ブラウン伯爵とメルヴァンが仕事で先に城に向かっていたのでエスコート役として入場したと報告があった。それなら、もう15歳になってデビュッタントを済ませたナルツェルを帯同させるのが普通であろうにあちら側は大分気を抜いている気がする。


前国王が亡くなり、最上位であることが続く中で父である陛下は今こそ全てが自分の思い通りになると思って疑わないのがありありとわかる。宰相と同じ派閥の貴族たちは仲間に引き入れているのだろうが他の貴族たちへの根回しが済んでるとは考えにくい。


国王陛下の口上と、ハーシェルヒルムとリシュエンヌのファーストダンスが終わり、続いてイーヴォイェレミアスとディオティマやアンダーソン公爵夫妻と続き高位の貴族たちからのダンスが順々に進む。


ある程度の貴族たちのダンスが終わると国王と王妃を残し主賓のハーシェルヒルムと共に兄妹で会場に降りて社交となる。このまま、何事もなく会が終わればいいと思っていた。そんな、イーヴォイェレミアスとオーランドの視界に玉座から国王ヘルムフリートが立ち上がるのが目に入る。


イーヴォイェレミアス達は動くわけには行かないが、アーデルベルトやクレメンス、エーレンフリートやベアトリクス。メルヴァン達がテオフィル第三皇子を隠しつつも近づいてくるのが分かる。


オーランドはすぐ近くで表情を崩さないように落胆の細い溜息をしている。ハーシェルヒルムはオーランドの隣に立っている。ヘルムフリートはゆったり立ち上がると、低くも響く声で話し始める。


「今宵は、ハーシェルヒルムの誕生の日を祝う為に、客が訪れてくれた。紹介しよう」


王族の入場が行われる扉から、背の高い身体を鍛えられたレモンイエローの淡い金の髪でワインレッドの少し釣り上がった勝気な瞳をしている青年が入ってきた。年の頃はイーヴォイェレミアスより少し下に見える。テオフィル第三皇子のいる方向で少し、ざわついているが何をしてるんだろうか。


「ハーシェルヒルム殿下、お誕生の日にお祝いを申し上げます。キャウトィランヴ国第二王子ヨリック・アンドリース・キャウトィランヴと申します」


青年はにこやかに微笑みながら、上段からこちらの第二王子にキャウトィランヴ国の第二王子だと自己紹介した。驚く様子もなく拍手を贈る貴族たちと、少しの動揺を感じさせる貴族たちに別れる。驚く様子のない貴族たちはキャウトィランヴ国の第二王子へ挨拶をしに行くように玉座の元に集まる。


その流れに沿うようにフィンセントもイーヴォイェレミアスに話しかけるように近づいてくる。自身の周辺を味方で周囲を固めることを確認出来たヘルムフリートは、更に口を開いた。


「キャウトィランヴ国の第二王子は、ハーシェルヒルムの祝いの為にこちらの国に赴いて下さる際に、思いがけない事に出会ったと告白してくれた」


一度、言葉を区切り、オーランドとフィンセントの位置を宰相に耳打ちされたヘルムフリートはゆっくりと向き直り。悲壮な顔を作り大仰に口を開く。役者だなと冷めた目になるのは許してほしい。


「キャウトィランヴ国の第二王子は、遊学の為に2ヶ月ほど前から入国している。これは、私が許可しており宰相であるノアベルトも承知の事だと皆にまず伝えておこう。彼は、ウォーカー辺境領から入国してアンダーソン公爵領を通り王都へと向かっていたところ、思いがけない密会に遭遇することとなった」


イーヴォイェレミアスは心がどんどんと冷えるのを感じた。リシュエンヌもしっかりと父親を見据えており、ハーシェルヒルムも毅然とした態度で父親を見つめている。エーレンフリートは背後に来たのだろう。顔に気をつけろと小さな小さな囁きが耳に入る。厳しい従弟だ。


イーヴォイェレミアスの隣に立ってた大柄なフィンセントを目の端で見上げると、王妃(母上)を見つめている。顔に感情を表してはいないが王妃(母上)の護衛騎士では無い人間ばかりが彼女を囲んでるのを見ると王妃(母上)は知らなかったのだと安堵がこみ上げる。イーヴォイェレミアスはフィンセントに、小声でいつもの護衛騎士たちがいませんと端的に伝えると、フィンセントの顔のこわばりが少し緩む。


「我が弟である、オーランド・アンダーソンが浅はかな事に余の地位を求め。王妃の弟であるフィンセント・ウォーカーを唆し王権の簒奪の計画を立てているという密会に、運悪くヨリック・アンドリース殿が出くわし、自身の危険も顧みず、以前から交流があった宰相であるノアベルトへと告発して下さった!」


大きな会場に響き渡るが声を荒げることもなく威風堂々と話す様は、さすが国王という威厳に満ちていた。会場は、3分の1ほどの貴族がほくそ笑んでいるし、その他の貴族たちは少し白けた雰囲気になり始めていることに気がついていない。しかし、興に乗っているヘルムフリートは止まらなかった。


「国外の人間が、我が国の公爵や辺境伯と言う高位の人間の告発をするのは自身が疑われる可能性があるのにも関わらず打ち明けて下さった第二王子には感謝の念に堪えん!


オーランド!貴様を投獄する!フィンセントもだ!捉えろ!


残念だ。実の弟と義理の弟がこのような事になるとはな!」


「私もです。兄上・・・・・。そのような、事実無根の罪を企てて投獄したいと思うほど・・・私は貴方に何をしたのでしょう・・・」


ヘルムフリートの作り物めいた悲壮感ではないオーランドの悲痛な声がシンッとした会場にじんわりと広がる。


「事実無根だと?私がヨリック・アンドリース殿の言葉だけで断罪したと思っておるのか?証拠は数多ある。これより、一つづつ問いただしてくれよう!お前の態度によっては、ディオティマはイーヴォイェレミアスの婚約者でいられぬぞ」


ディオティマを人質に考えて、婚約の許可を出した事は気がついていたがこの様な明らかに脅しで名を出すのかと兄弟と従兄弟たちの雰囲気も温度が下がる。背後からの殺気は。エーレンフリートか。アーデルベルトか。苦笑しそうな顔を取り繕い、戸惑いながら近づいてくる兵たちに手を上げ制止を促し一歩前に出る。


「お待ち下さい!」


イーヴォイェレミアスが反論することは予測していたのであろう。ヘルムフリートの顔に変化は無い。イーヴォイェレミアスはゆっくりと問う。


「何故、この様な場でこの様な事をなさったのでしょう?」


反論こそ予測はしていたようだが、「叔父上はそんなことはしません」などという擁護する言葉だと思っていたのだろう。質問と質問の意図が分からなかったヘルムフリートは少しの揺らぎを見せた。しかし、口を閉ざし堂々とイーヴォイェレミアスを見据える。


「何故、王族である叔父上の王権簒奪などという醜聞をこの様な多くの貴族がいる。ましてや、息子の誕生の祝いの場でやる必要があったのでしょうか?」


理由は分かっている。たとえ、証拠が不十分であったとしても王弟である叔父上へ不信感を貴族たちに与え、潔白の確定が出来ない王族を無罪にするべきでは無いと誘導し、幽閉するつもりだったんだろう。長い沈黙が続く。これだけ、雁首を揃えてこの様な場合の解答も考えていなかったのかと呆れ果てる。待っていても埒が明かない。


「お答え願え無いのでしょうか?私が当てましょうか?」


フィンセント叔父上とは反対の方に、ディオティマを後方に誘導したエーレンフリートが立つ。小声で性格が悪いと私にだけ聞こえることで言う。何てことだろうか。今言う事か?と思わずエーレンフリートを睨み話を続ける。


「まぁ。それは後ほどお伺いしましょう。さて、ここで断罪を行ったのです。折角ですので証拠と言う物も皆さんに開示されてはいかがでしょう?

ハーシュ。お前の誕生の祝いが裁判になるが構わないか?」


「はい。兄上。私もお祝いに茶々を入れられたのです。きちんと皆で精査したいと思っておりました」


ハーシェルヒルムが少し離れた位置から一歩前に出る。ハーシェルヒルムもイーヴォイェレミアスに賛同したのに宰相たちは驚いた様子を見せた。その間は致命的であった。反論する前に、法の番人であるジークフリート・テイラーが言葉をはさむ。


「始めたのは陛下です。私も、王子殿下方に賛同します。皆さまはどうでしょうか?」


普段、最高裁判所で裁判長を担う人間の声もまた国王陛下と共に威厳漂う。更に説得力のある声は同意を促しやすい。国王側に立つ以外の貴族たちも急に始まった王族の茶番を見守ることが出来るのであれば最後まで見届けたい気持ちもある。口々に賛同の意を表し始めた。


ハーシェルヒルムは、隙あらば城から抜け出し自由に過ごしているように見せていた。執務に謀殺されているイーヴォイェレミアスがハーシェルヒルムに意見を問うとも、ハーシェルヒルムが、お茶会の度に注意をするイーヴォイェレミアスに賛同するとはその場の誰も考えていなかったのだろう。畳みかけるように、テイラー侯爵がそれに賛同する。これが情報操作と段取りというものだと気がついてほしい。まぁ今更遅いのだが。


それではと言葉をひとつ告げると宰相が証拠というものを一つ一つ読み上げて言った。それは。あちらの派閥の人間が、オーランドとフィンセントの密会の証言や。ウィーカー辺境伯騎士団がアンダーソン侯爵領の王領に近い場所へ集結しているなどの裏づけをわざと取っていない様な証拠ばかりだった。


折角なので、イーヴォイェレミアスは彼らが密会を見たという1つのある日時について、オーランドとフィンセントに質問することにした。


「オーランド叔父上、フィンセント叔父上。その様な事実はありますか?」


「無い。その日にはすでに王領にいてテイラー侯爵家の世話になっていた。その時間であればジークフリート兄上と一緒では無いだろうか?」


「あぁ。共にエヴァンス侯爵家と晩餐の後、酒を交わしている日だ」


「はい。私も記憶にあります。その日は大変お酒を召されておりましたのでその後の外出も無理でしょう」


オーランドの同意を求める問いに、テイラー侯爵家当主とエヴァンス侯爵家当主がアリバイの証言をする。


「俺も、その日はストゥワート公爵領にて合同演習に赴いていた」


「そうだな。儂も参加していたので記憶にある。最終日であったから夜は宴会だったのう!酒を交わしながら力比べ大会が始まってのう。儂とフィンセントの一騎打ちだったな」


フィンセントの回答には、スチュワート前公爵が応答し、がはがはと豪快に笑いながら夜の状況まで説明した。何故、よりにもよってそんな日を証拠の日にしたのかと宰相たちは青い顔になる。結局は、証拠などでっち上げであったため、適当な日を当てがわれていた。


貴族牢での尋問であれば、まずは陛下からの尋問になる。証言者の記憶違いだと訂正を入れ、ディオティマの処遇で脅しながら、証拠は裁判で覆せない方向へ修正していくつもりだったのだろう。オーランドは、兄に落胆しディオティマの行く末を人質に、フィンセントは王妃に迷惑をかけぬまいととりあえず大人しく貴族牢へ入ると算段が仇となった。


宰相たち気がついていないが、イーヴォイェレミアスが叔父二人の最近の予定を全て把握しており、宰相たちが適当に当てた日付から絶対的なアリバイになりそうな人物たちと会っている日をわざと質問したのだがそんな奇天烈な事が出来るわけがないと思うので思いつきもしない。


「そのような、証言のみでは証拠を覆すことは難しい!」


しびれを切らした国王陛下の言い分に、イーヴォイェレミアスは白けた目を繕う事が出来なかった。そのままの冷たい顔で言葉を返す。


「それでは、そちらの証拠も裏づけ不十分という事で証拠不能でよろしいでしょうか?」


国王を止めようとしていた宰相の顔は真っ青になった。近くにいた貴族たちも他の人間は青くなり、少なからず状況を理解できていない者もいた。まさか、王子たちが反論し会場の貴族が証拠を開示するように動くとは思っていなかった。その行動は、リシュエンヌが言っていた通り侮っていたのであろうことがありありと見えた。

拝読ありがとうございます。

山場なんですが・・ヒリヒリ感が無くてすみません。


 ~登場人物~

たくさんいますので、たくさん話してる方で☆

ヘルムフリート国王陛下(42)

髪:銀髪、腰まのロング、ウェーブ*瞳:青紫

【愛称:イヴ】イーヴォイェレミアス第一王子殿下(19)

王国第一子、第一王子*髪:金、肩下、ウェーブ、一つの三つ編み*瞳:赤紫

【愛称:リシュ】リシュエンヌ第一王女殿下(18)

王国第二子、第一王女*髪:金、腰下、ウェーブ*瞳:碧

【愛称:ハーシュ】ハーシェルヒルム第二王子殿下(16)

王国第三子第二王子*髪:銀髪、腰まのロング、ストレート(ポニーテール)*瞳:青紫


オーランド・アンダーソン公爵(35)

アンダーソン公爵、王弟*髪:金、肩までの胃くせ毛*瞳:青紫

【愛称:フィン】フィンセント・ウォーカー辺境伯(24)

辺境伯現当主、王妃・テイラー夫人の弟 髪:黒 瞳:青


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