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高貴なる者の義務と放埓  作者: 島城笑美


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041 第王一子の報恩

1日空いてしまい失礼しました!

イーヴォイェレミアスは、夏に近づき涼し気な青や白の花を咲かせる遊歩道を歩いていた。初夏である今の時期は、バラも見頃ではあるがリシュエンヌは、小さな花はたくさん咲く花が好きなのだと今朝すれ違ったナサニエルに聞いた。乳兄弟であるナサニエルには何もかもが見透かされている。少し怖いが頼りになる。


「リシュエンヌ。今、手隙かい?」


イーヴォイェレミアスは、敢えて王族専用の庭を散歩中のリシュエンヌに話しかけにきたのだ。


「あら。お兄様、珍しい」


ふふっ。と母である王妃に似た碧の瞳を細めて微笑んでいるが圧が怖い。何か、無理な要求をされるのだろうと踏んでいるのか・・・ベアトリクスからでも先に聞いてそれで怒っているのか・・・まぁ。怒っているが気を見ることのできる妹は断ることが無いだろう信頼しているイーヴォイェレミアスは言葉を続ける。


「あぁ。少し悩んでいてね。気分転換に散歩に出たらリシュが見えたから相談に乗ってくれないか?」


「まぁ。お兄様を悩ますなんてなんですの?」


「あぁ。最近、お忙しそうな父上にお茶を贈りたいと思っていたんだが最近趣味が変わったと聞いてな。リシュは知っているかい?」


「あら?そうなの?最近が他国の茶葉も良く入っているから、何かお気に入りが出来たのかしら・・・そうね」


リシュエンヌは、悩まし気に頬に手を添える。そして今気がついたように扇子をパチンと閉じると侍女長であるマリアに振り向いた。


「ねぇ。マリア!マリアは知らない?お父様の好みのお茶の事」


言外に、貴方は陛下のお気に入りなんだから知っているでしょう?と問うているのだが普通の令嬢であれば青ざめるところマリアはニンマリと微笑み。自慢げに顎を少し上向きに逸らして答える。


「えぇ。私は存じておりますよ。最近は、北から入る茶葉が甘味が強く陛下のお気に入りでございます」


「おぉ!そうなのかい?ホール嬢(マリア)!手配をお願い出来るかい?リズはこういう事に疎いんだ」


陛下に似てその上に若い顔立ちのイーヴォイェレミアスに懇願されて、マリアはポッと頬を染める。だが、一応自身の主はリシュエンヌだという事は覚えていた様だった。


「それは、私では回答致しかねます。イーヴォイェレミアス殿下の侍女はそのような事も出来ないのですか。お可哀想に。ご不便でしょう?」


イーヴォイェレミアスの唯一の侍女。リズ・モール子爵令嬢を気遣わし気な言葉で貶すことも忘れない。マリアは伯爵令嬢なのに第二子であるリシュエンヌ王女の側近であるのにも関わらず、第一王子の側近に子爵家の娘がいることをあからさまに妬んでいた。


さらに、リズはこの様に主の身の回りや客の好みのお土産を手配することが不得手なのでそこに矜持を持っているマリアには無能の家格の下の娘が第一王子の側近をしていると憤ていた。リズは違う能力をかわれてイーヴォイェレミアスの側近入りしたのだが、それは敢えてマリアには伏せられていた。


優し気に王子様スマイルを前面に出したイーヴォイェレミアスにリシュエンヌは呆れた顔になりそうになるのを抑えながらマリアに向かって微笑む。


「あぁ。そうなんだ。早速で申し訳ないがホール嬢(マリア)。頼めるかい?」


「え?えぇ。リシュエンヌ殿下。よろしいでしょうか?」


「えぇ。お兄様がお困りなんだもの。マリア。よろしくお願いしますね」


「それでは、承ります。午前を失礼します」


ニコリとイーヴォイェレミアスに向かい微笑むマリアにイーヴォイェレミアスは感謝を伝えて早速頼むというと、二人の前から離れた。


「なんて、操りやすい・・・」


「そうなのよね。だから、お父様も使ってるんじゃないかしら?でも、私にも扱い安いのではあれば間諜としては全く役に立たないのよ」


マリアがある程度、離れたところで二人は呆れたように呟く。今、二人が近くに引き連れている側近たちは信用できる者たちだけにしてあるから言葉も辛辣に響く。


「まぁ。父上がつけているお目付け役は皆分かりやすいからな・・・うちのもそうだ」


「ふふっそうね」


「しかし、何故あんな分かりやすい人間を付けているのかわからん。だから、他にもいるんじゃないかと信用できるものが少なくなる。他の間諜のカモフラージュだったりするのだろうか?」


「一応、その線も捨てないで警戒することは大事ですけど・・・。たぶん・・・」


「たぶん?」


「陛下は自分以外は馬鹿だと思っているんだと思うわ!」


「・・・・・」


「冷遇されても文句も言えない妃。仕事を押し付けられている事にも気がつかない第一王子。間諜を侍女長に任命した間抜けな第一王女。ふらふらと遊びまわったいる第二王子。まぁテオとシアは、子供だからと侮ってるだけかしら?」


リシュエンヌは苦し気に眉を顰め、自身も兄弟をも侮辱する言葉を紡ぎながら手に持つ扇子に力が入る。その手を、イーヴォイェレミアスはそっと片手で包む。


「リシュ・・・」


「私だって、気がつきたくなかったわ。お母様に言われた通り為政者の父を尊敬していたのよ。でも今回の件であんなに杜撰な動きをして、なぜ叔父様たちが気がつかないと思っているのか信じられなかったわ!・・・・それは、全て侮っているからよ」


「まぁ。何かに浮れているんだろうね」


そのまま、手をエスコートのかたをとりポンポンと優しく叩きながら手入れの行き届いた庭を歩き始める。遊歩道の両サイドに並ぶ青や白の小さな花をつけたアパガンサスは、香りが少なくそのままお茶をする為の広めのガゼボまで続く。


イーヴォイェレミアスの体温とポンポンと言う手のリズム、涼し気なアパガンサスの慎ましやかな小さな花々はリシュエンヌの心を落ち着かせた。


「お兄様ごめんなさい」


「妹をなだめるのは兄の役目だよ」


「でも、私たちは1つしか変わらないわ」


「何を言っている。リシュは18になったばかりで、私はそろそろ20だ。それに1つだろうが、2つだろうが兄は兄だぞ?」


言葉を崩し、ニヤリと悪戯っぽく笑う兄に、リシュエンヌは苦笑いをする。近年イーヴォイェレミアスは執務が、リシュエンヌは夜会やお茶会などの公務が増え、ハーシェルヒルムは留学に出ていた。


ここ数年、兄妹の交流が減っていたが最近、あの件で密に連絡をとったりわざわざ顔を合わせたりする。兄弟のお茶会も弟妹の為に開催しているが、多忙なイーヴォイェレミアスは不在がちであったので下の二人とリシュエンヌでの3人で開催されることが多かった。最近は、打合せが無くともイーヴォイェレミアスも参加しておりハーシェルヒルムも帰ってきて賑やかになっている。


ガゼボに着くと、幼い頃の様に二人は並んで座り少し離れた所に大きく育った白雲木を眺める。今は、丁度初夏で花の季節であるため、小さな鈴なりの白い花が慎ましやかに咲いている。少しだけ甘く爽やかな芳香はお茶に合いそうにかすかに香る。


「皮肉ね」


「どうした?」


「あの人のせいで、兄弟仲が良くなっているわ」


ふふっと泣きそうな顔で微笑むリシュエンヌの頭をイーヴォイェレミアスは片手で抱き撫でる。辛辣な物言いをしているが、祖母に似ているリシュエンヌと父に似ているハーシェルヒルムは陛下は、普段は無関心であったが会ったときは可愛がっていた。妹が心を痛めていることに共感できない自分に気落ちする。


今、思うとブラウン伯爵夫人への当てつけにも感じてしまうが、リシュエンヌとハーシェルヒルムは公の場で可愛がられていた。祖父である前国王に色彩も面立ちも似ているイーヴォイェレミアスは幼少のころから父の冷たさを感じていた。祖父に似ているという事は、父にも似ているのだが金の髪が祖父を彷彿とさせるのだろう。


そんな、自分には長男という事もあり叱責が多く。今思えば八つ当たりでは無いか?という事も地味にチクチクをされていた。幸いなことに、母には愛情を、教育係にはきちんとした教育と評価を貰い。能力も高い方であったイーヴォイェレミアスを貶める言葉は成長と共に段々と減った。


その代わりか、そんなに優秀なら仕事をさせてみようと周囲の人間を誘導し仕事の比重を段々とイーヴォイェレミアスに傾けた。学園と執務は多忙を極めたがそれに対応する能力と勤勉な側近。優秀で信頼できる同じ年の従兄弟や乳兄弟の助けによってこなすことが出来た。


自分はすでに、父親に見切りをつけていたんだと感傷に浸り、リシュエンヌの傷心には同じ気持ちでそれが無い事を申し訳なく思ってた。


少しの間、頭を撫でられていたリシュエンヌも、気持ちを切り替えたようにその手を掴みイーヴォイェレミアスに戻すと向き直った。


「それで、お兄様!私に何か御用があったのでは?」


先ほどまでの妹の顔はキッチリとしまい込んで王女の顔で問うリシュエンヌを誇らしく思い、イーヴォイェレミアスは告げる。


「来週の夜会にリーヴバレンティ帝国第三皇子が、ハーシェルヒルムの友人として参加なさることが決まった。其方にエスコート相手を頼みたい」


イーヴォイェレミアスの言葉に覚悟を決めていたはずのリシュエンヌは淑女の笑顔で固まる。流石にベアトリクスも、帝国の第三皇子の件をリシュエンヌに報告することは憚ったのだろうと苦笑いが漏れる。やっと動き出したリシュエンヌはボソボソとイーヴォイェレミアスの言葉を繰り返す。


「リーヴバレンティ帝国の?第三皇子?テオフィル殿下が?あの立太子目前の?皇子のエスコート役ですか?」


「あぁ。其方以外にふさわしい女性はいないだろう?」


「え?そうですか?でも、彼の方は・・・」


「ちょっと変わってる?」


「え?そんな不敬な!」


「私に悋気を起こされるより、アーデルベルトに嫌われる方が嫌で謝ってたぞ」


「・・・・・えぇ。変わってますね・・・。お兄様!貸し一つでよろしくて?」


「な?どこでそんな言葉を!」


イーヴォイェレミアスは驚きながら、乳兄弟でありリシュエンヌの護衛騎士ジャネットを睨む。ジャネットはナサニエルと同じ笑顔で涼やかにもう一人護衛騎士である男性騎士を指さした。指名されや男性騎士は青い顔をして頭を垂れている。


騎士は、いくら高位貴族の子息だろうと軽口をたたくことが多い。大きなため息をついてイーヴォイェレミアスは、自重しろとだけ告げるとリシュエンヌに向き直る。


「わかった。リシュエンヌの我儘を1つ可能な限り最大限に叶える約束をする」


「えぇ。よろしくお願いします!」


にっこりとご機嫌になったリシュエンヌに肩をすくめるが、悲壮な顔で父親の所業を憤るよりは次期皇太子の相手に少しばかり悩んでる方がいいかとイーヴォイェレミアスは苦笑いしか出なかった。


「それで、皇子は皇子として入場なさるの?」


「いやっ、ハーシェルヒルの学友として皆と来場なさる。一度、歓待の離宮に来ていただく手はずになっているので其方には離宮から会場への案内と、必要な時のエスコートを頼みたい。入場は皆と静かにすると言っていた」


「何故、離宮へ?」


「入場はまぎれるつもりではあるが、皇子らしい格好はすべきだろうという事で離宮でお着替えなさる」


「衣装は?」


「ベアトリクスが先に離宮へ整えとくと言っていた。アーデルベルトがあちらの様式の皇子の正装に地味なマントで隠して入ると言っていた。目立たないといいのだが・・・」


「帝国は正装にマントが入りますので、マントだけ質をあわせるのでは?」


「そうか。後、友人をふたりお連れなさる。離宮で私も顔を合わせる」


「畏まりました。とうとう、来るのですね」


「あぁ。陛下が何も起こさなければなにも無い事で進めようと叔父上が言っていたが・・・」


「陛下は行うでしょうね」


そうだなとつぶやきながらイーヴォイェレミアスとリシュエンヌの二人は陛下の居住区へ目を向ける。

拝読ありがとうございます!


 ~登場人物~

【愛称:イヴ】イーヴォイェレミアス第一王子殿下(19)

王国第一子、第一王子*髪:金、肩下、ウェーブ、一つの三つ編み*瞳:赤紫


【愛称:リシュ】リシュエンヌ第一王女殿下(18)

王国第二子、第一王女*髪:金、腰下、ウェーブ*瞳:碧


マリア・ホール伯爵令嬢(21)【リシュエンヌ 側近(侍女長)】

国王陛下のお気に入り 髪:モスグリーン 目:菫色


【愛称:ジェーン】ジャネット・イーストン子爵(17)【リシュエンヌ 側近(騎士)】

ナサニエルの双子の姉 イーストン家第二子(長女) 髪:ピンク 目:赤

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