036 伯爵子息の覚知
遅くなりました。
今日は、伯爵兄弟のお話です!
「やぁ!ラスいらっしゃい」
課題をする為にルードリッヒに連れられて、テイラー侯爵邸の応接室に通されていたニコラスにエーレンフリートは声をかける。
「ルーは?」
「あっ。今、夫人に呼ばれて・・・」
「あぁ。何かやらかしたんだね。だから、君の相手を私にしてほしいと言いに来たのか」
エーレンフリートは、ニコラスの向かいに座るとエーレンフリートの侍従が音もなくお茶を差し出す。ゆっくりと口を付けるとニコラスに微笑みかける。
「最近は、大丈夫かい?」
「はい。最近は僕も学園があり昼は出ていますし。夕方にはメルヴァン兄上が帰宅してくれますので特に何かされることも、あの人に連れまわされることもありません」
「そうか」
「情報を得る為には、あの人と一緒にいたほうがいいでしょうか?」
「いやっわざわざはいいよ。必要な事には付き合わされるだろうから、無理に君が情報収取する必要はないよ」
エーレンフリートはにっこりと微笑むとクッキーをつまむ。エーレンフリート自体はそんなにお菓子を必要としていないが、エーレンフリートが口をつけないとニコラスが遠慮するので付き合ってくれている。
「いいなぁ」
「ん?なにがだい?」
「リート様が、ルーのお客の相手をするなんて仲良しですよね」
「あはは。兄に弟の友人の相手をさせるのは酷いと思わないかい?」
「ふふっ。正直酷いですが、リート様は相手をしてくださってるではないですか」
「まぁ。ニコラスだしね」
「?」
「話しやすい」
エーレンフリートの率直な言葉に、ニコラスは陶磁のように白い肌を赤らめる。尊敬する年の離れた兄のような人に話し安いと言われるのはなんだか大人として認められているようで面映ゆい。
「けれど、うちもずっと仲が良かったわけでも喧嘩をしないわけでもないのですよ。ほら、私たちは全然性格が違うからね。私は、『笑顔の裏に冷血で腹黒を隠してる』と呼ばれているし、ベティは『おっとり慈愛の人』かな。ルーは「快活で裏表のない子』かな?」
「ご自身で腹黒と言うのですか?」
「ラスも自分の事そう思って無いかい?」
「え?」
「ニコラスと私は似てないかい?」
エーレンフリートの金の瞳は楽し気にニコラスの紫紺色の目を見つめる。この人にはいろいろとバレているのだとニコラスは思った。
「ルーに近づいた事を怒ってますか?」
「いやっ?ルーの友人はルーが決めることだ」
「ですが、僕はルーを・・・」
「別に貶める気はなかっただろう?そして、友人になった。違うかい?」
「はい!ルーやコリーを危険に巻き込むことはありません!それに、友人になったのはルーとコリーはいいやつだから・・・」
「コリーも面白いよね。エヴァンス3兄弟もなかなか面白い人物だよね。なんで、あんなに色々と理解するのに擦れてないというか純粋というか。・・・好ましいよね?」
「はい!」
「やはり、私たちは似ているよ。気が合うんだ。仕事や話をしていると何の障りもなく話せる。そして、清いままに色々なことへ立ち向かえるルーやエヴァンス兄弟やハーシェみたいな人間を好ましいと思うんだよ」
「第一王子殿下は?」
「あぁ。イヴは・・・・同族だな。きっとラスとも仲良くなれるよ」
あははと笑いながら、イーヴォイェレミアス第一王子殿下も腹黒というエーレンフリートの言葉に苦笑しつつも仲良くなれたらいいなとニコラスは思った。
「それで、先ほどからの憂い顔はどうしたんだい?」
「リート様に相談するのもおかしいのですが・・・」
「私たちは同族同盟だよ?」
「ふふっ。・・・・・・姉の。フランチェスカの事です」
「うん」
「ずっと、嫌な人だと思ってて」
「あぁ」
「でも、姉がリート様と婚約白紙になった件から、あの女が姉上を見なくなったんです。なんか、それが凄く理不尽で。姉上がああいう風なのはあの女のせいなのに。っと思ってしまったんです」
「そうか。ラスはフランチェスカ嬢を嫌いではないのか?」
「まぁ。散々八つ当たりみたいなこともされましたけど、リート様のお茶会に呼んでくれたり、お土産を買ってきてくれたり、機嫌がいい日は優しくされたりしたんです。犬や猫を気まぐれに可愛がるみたいに。それでも、やっぱりうれしくて。お父様・・・父上に似てるんです1番。そんな姉に優しくされるのはなんだか特別で・・・僕、変ですかね?」
「大丈夫。変じゃないよ」
「だから、最近・・・塞いでる姉上が心配で・・・」
「うん。ずっと一緒に暮らしているんだ。それに優しい時もあるんだろう?私と出かけても結構フランチェスカ嬢は弟たちの話をしていたよ。まぁそれしか共通の話題がないということもあったがお互いの兄弟の話をすることは多かったね。誰が何が好きだとか、誰がすきな本の新刊が出ているとか、お土産を買おうってのも多かったかな」
「リート様は、姉上を疎ましく思っているのでは?」
「いやっ。最近の彼女は少々話が噛み合わないなとは思っていたが疎ましくは思ってないよ。合う合わないはあるだろう?」
「そうですね。姉上お勉強苦手ですし・・・」
「それで、ニコラスはどうしたいの?」
「僕は、姉上に元気になってほしいです!」
「そうだね。私も元気になってほしいと思うよ。ニコラスが話をするのはどうだい?」
「話しですか?」
「今、彼女は色々な事が急変していると思うんだ。仮面舞踏会への参加が王族にバレれ心証を悪くしている。侯爵家との縁談もなくなった。その原因である母親に素っ気なくされている。結構辛いことじゃないかな?」
「そうですね。ご自身の行いで今の状況だから自業自得と思ってました」
「まぁ。自業自得ではあるけど、ニコラ夫人の誘導に見えるよ。私には」
「そうですね。そこまで追い込まれている姉上に元気を出してと言ったところで怒られそうですけどね」
「まぁ元気を出せと言われれば怒るかもしれないね。でも、話を聞いてあげることは?今は、この状況だけどフランチェスカ嬢が今からどうしたいのか聞いてあげる事は君にできる事じゃないかな?アドレスは特にいらないと思う。寄り添って、今の整理をする彼女の今後について聞いて、そうなるにはどうしたらいいか一緒に悩んであげれば救われるんじゃないかな?」
エーレンフリートのアドバイスに、ニコラスは紫紺色の瞳を煌めかせてコクコクと頷く。すると、時間を図ったかのようにルードリッヒが戻り、今からふたりで課題をしますと言って図書室へと向かった。
◇◇◇
最近のメルヴァン・ブラウンは忙しい。第一王子殿下より殿下の側近で父であるパトリック・ブラウン伯爵の補佐をしてほしいと指令が下り、司法庁としても司法庁の人員を回すことに上層部が懸念を示した。
しかし、テイラ-侯爵が裁判官でも検察官でもない司法庁の事務方が出向するのであれば良いのではないかと発言し、メルヴァンが次期王である第一王子と面識を持つのであれば、今後の日程調整役を司法庁の上層部が行う必要はなくなるのでは?と言う提案に上層部も手の平を返したように承認した。
たかが日程調整ではあるが相手は王族である。下っ端に行かせるわけにはいかないし、司法庁の上層部が行う事になっている。最近では司法庁の長であるテイラー侯爵の嫡男が新人として入ってきていたので行っていたが、彼が本格的にテイラー侯爵の後を継ぐのであればその雑事は、上層部の誰かに回ってくる仕事になる。
貴族の裁判であるからこそ、難しい。色々な情報と家々の繋がりを調査しなくてはならない。そんな中、緊張を強いられる王族に拝謁し裁判の日の日程を調整するのは正直誰もやりたがらない。だからこそ、今は殿下たちの従兄であるエーレンフリートに回ってくる。
折角なので、日程調整の仕方も教えたいとエーレンフリートが提案すれば、司法庁の総務課に否は無い。まだ、22歳ではあるが伯爵の嫡男であるメルヴァンをあからさまに憎悪を向けられることは無いだろうが、司法庁の長であるテイラー侯爵家の嫡男とも懇意にしているとなればメルヴァンの不利益をもたらさないようなことにはならないだろうという配慮もあった。勤務時間内に打合せの時間をエーレンフリートは取った。
業務の手順や内容の確認も終わり、一息つこうかというエーレンフリートの提案でお茶が出されると仕事中には出ない緊張がメルヴァンから見て取れた。
「メルヴァン様。その様に緊張しないで下さい。私が虐めている気になります・・・」
「あぁ!すみません」
慌てて謝るメルヴァンに、エーレンフリートも眉尻を下げる。一つ深呼吸をしたメルヴァンはお茶に口を付ける。ホッとする味に気分がほぐれるが、最近の悩みが顔に出てしまったようだった。
「メルヴァン様。何かありましたか?後ほど、色々あの件での打合せはしますが、何か気になる事があれば何でも相談ください」
「あっ。いえいえ。なんと言いますか・・・エーレンフリート様達は仲が良くて羨ましいです」
「はい?」
「兄妹仲です。私は、ずっと弟妹と離れて暮らしていました。最近では、ニコラスと良く話す様になりましたし、ニコラスはこんな私を慕ってくれているので嬉しいのですが・・・」
「フランチェスカ嬢とナルツェル殿ですか?」
「はい。私が彼らと仲が良ければ、もっと情報を貰えたのではと思います。エーレンフリート様たちの様に仲が良ければと・・・それに、フランチェスカの処遇を父上は私に話し合いの相手を命じまして・・・彼女が何を考えているのか・・・あぁ!すみません!エーレンフリート様にするお話では無かったですね」
元婚約者に何の話をしているのかと慌てるメルヴァンをよそに、エーレンフリートは顔を両手で隠し小刻みに揺れている。
「エーレンフリート様?」
「いやっ・・・。ふふっ。すっすまない・・・あはは。無理だ。はぁ~」
ふーふーと笑いを抑え呼吸を整えるエーレンフリートに、メルヴァンはニコラスと同じ紫紺色の瞳に困惑を浮かべる。
「はぁ~。すまない。昨日、ラスと同じような話をしたんだ。ふふっ兄弟だね」
「え?はい。え?ニコラスが?」
「あぁ。姉が今までしてきたことはアレだが元気がないのは気になるようだ」
「あぁ。ラスは良い子ですからね」
「あぁ。貴方もいい人だ」
エーレンフリートにふいに褒められて、照れるメルヴァンにまたもエーレンフリートの腹筋は試練を課された。
「ラスにも、言いましたが。話を何回でも聞いてみるのはどうですか?ん~でも、メルヴァン様は待っていてもいいかもしれませんね。ラスが話した後に。貴方と話したいとフランチェスカ嬢が言ってきた時にでも話を聞いてあげたらどうでしょう?」
「・・・彼女の話を聞ける自身が無くて・・・」
「彼女は・・・まぁ勉強はあまり好きでは無かったようですが、地頭は悪くないと思います。ラスと話して何かつかめたら貴方と話をしたいと来ると思いますよ」
「そうですか・・・。分かりました。今はあのことに集中しつつ。彼女の事は待ってみることにします」
「そうですね。では、あの件の打合せもしましょうか」
エーレンフリートとの話で、少し先送りではあるがフランチェスカの事を待つことに決めたメルヴァンは今の1番の懸念の打合せに集中することにした。
拝読ありがとうございます。
~登場人物~
メルヴァン・ブラウン伯爵令息(22)
ブラウン伯爵令嬢一子(長男)*髪:オレンジ色、ストレート、ボブ*瞳:紫紺色
【愛称:ラス】ニコラス・ブラウン伯爵令嬢(13)
ブラウン伯爵令嬢四子(三男)*髪:銀、ストレート、ボブ*瞳:紫紺色
【愛称:リート】エーレンフリート・テイラー侯爵子息(18)
テイラー侯爵長子長男*髪:水色、肩までの長髪、ストレート*瞳:金




