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高貴なる者の義務と放埓  作者: 島城笑美


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034 公爵令嬢の懇親

甘酸っぱくはならない・・・

ディオティマはリシュエンヌの離宮から退室して、ベアトリクスと馬車乗り場まで向かう。ベアトリクスは、エーレンフリートが昼食時間を自宅に帰るという事で迎えに来ていた。エーレンフリートの言葉に甘えてディオティマは、第一王子であるイーヴォイェレミアスの離宮の前に降ろしてもらう。


ディオティマが、馬車から降りるとジェラルドが手を差し出してくれる。傍にはイーヴォイェレミアスの侍女であるリズも控えていた。ジェラルドの手を借りて馬車から降りるとディオティマはジェラルドに礼を述べると、馬車の中に向かって従兄妹にも礼を述べる。


「アンダーソン侯爵令嬢。こちらでございます」


リズの先導でディオティマはイーヴォイェレミアスの離宮へと入っていく。王族の離宮は成人と共に与えられる。自室はもちろんの事、離宮や使用人の管理、私的な集まりや、小さな社交場としても使われる。


ディオティマは、自身の父親と国王陛下の仲が良くない為に城へはあまり来たことがない。殿下方とは自宅やテイラー家での交流が主だった。リシュエンヌの離宮は花々が所狭しと植えられており華やかな庭園に、調度品は良質のものが品よく数少なく置かれていた。


イーヴォイェレミアスの離宮は、執務も熟す第一王子の為か豪華な仕様になっていた。贈り物が多いのだろう。コンセプトの違う調度品が喧嘩しないように配置されて纏まっていた。玄関ホールの奥の煌びやかな大ホールを横切り奥のガラス張りも廊下を通り温室へと案内された。


そこには、真っ白いタイルの上に色鮮やかなタイルで天板を誂えられたティーテーブルが鎮座しており、椅子には柔らかそうなクッションが準備されていた。ジェラルドに席を引かれリズに着席を促される。


ディオティマが、緊張しながらも優雅に席に着くと、マスカットの果肉が入ったガラス製のポットに細かな葉とお湯が注がれる。1分程、ポットの中で茶葉が踊ると、お湯で温められたカップへ丁寧に茶葉を濾しながら淹れられる。傍には温められたミルクが添えられる。


同じポットから、別のシンプルなカップに少しだけお茶が注がれ同じ鍋よりミルクがそそがれるとそれをリズが飲み干し、ディオティマに向かい微笑む。


「頂きます」


ディオティマは優雅に微笑むと、リズに入れて貰ったお茶に口をつける。細かいはで濃ゆく出されたお茶はミルクでまろやかになり、最初に入っていたマスカットの甘味と香りがほっと心に染み渡った。


「ディー。待たせたね」


招待主の第一王子が温室に入ると、ディオティマは席を立ち優雅にカーテシーを行い口上を述べる。と最後に招待の礼を述べる。


「ご招待下さりありがとう存じます」


ニコリと微笑むディオティマはす向かいにイーヴォイェレミアスが腰をお付けるとディオティマを見つめる。少しの間を置き口を開く。


「緊張している?」


その揶揄いの混じった声に、ディオティマは頬を赤らめて睨むように不満顔を表現してイーヴォイェレミアスに目線を向ける。


「当たり前ではないですか。婚約者も、イーヴォイェレミアス殿下の離宮も初めてでございます」


ディオティマの拗ねた様な物言いに、イーヴォイェレミアスはくすくすと笑う。ごめんね。と返す。リズへ合図をする。


「昼食に付き合ってくれてありがとう」


「いえっお忙しいでしょう?お邪魔してもかまいませんでしたか?」


「ディーが、つきあってくれないとオジサンばかりと昼食だよ。この日は婚約者との約束がありますのでと断れて助かるよ」


「私で良ければお使い下さい」


「そうだね。食後の散歩までつきあってくれるかい?」


イーヴォイェレミアスの言葉に、ディオティマは1瞬間瞬くがゆったりと微笑み了承する。すると、イーヴォイェレミアスはディオティマに学園の事を質問する。


「学園では、どうだい?」


「最近は、ハーシェルヒルム殿下がお戻りになったので賑やかになっております。殿下の周囲は騒がしいので、最近はエヴァンス小侯爵とご一緒することが増えましたわね。エーレンフリート様のお手伝いをなさらないときは私の傍にとイーヴォイェレミアス殿下がお話されたとか」


「あぁ。アーデルベルトは腕がたつからね。ベアトリクスにはクレメンスがついているし、ベアトリクスの方はブラウン侯爵家の次男も最近は近づいてきてないそうだよ」


イーヴォイェレミアスがディオティマの安全面に安堵していると、食事を嚥下したディオティマがふふっと思い出し笑いをする。


「どうしたのかい?」


「いえっ大したことでは無いのですが・・・アー・・エヴァンス小侯爵は面白い方だなと思い出していたのです」


「へぇ?どの様に?」


楽し気に思い出し笑いをしたディオティマに水尻を下げて微笑みながらイーヴォイェレミアスが話の続きを促す。


「本当に大したことじゃないんですよ!」


「でも、面白かったんだろう?」


「なんというか、腕は立つのは存じているのですよ。テイラー邸でオリヴァー卿と手合わせをして勝利している姿も見てますし、昨日の会議でもきちんと殿下方のお話について行ってましたのでハーシュより頭も切れる方でしょう?」


「あぁ。そうだね。父君が外交官で彼自身もハーシュと共に留学経験もある。しかも、帝国の王太子に気に入られるのはただ少し勉強が出来るだけでは無理だろうな。エヴァンス侯爵家はクレメンスも下の弟君も含め賢そうだ」


「そうなの。見目も殿下方に劣らず美しいので令嬢方にも人気があるみたいですの」


「確かに、我々の曾祖母様とエヴァンス兄弟の曾祖母様は従姉妹でそっくりだったそうだ。影武者の意味も込めて一緒にこちらにいらした様だよ。母君もスチュワート公の娘だ。王家の血筋を強く持っているな。本人たちに自覚は無いが」


「えぇ。そうね。その曾祖母様を娶ったからエヴァンス前々侯爵は、伯爵から叙爵したのですよね?だから本人たちは大した功績も無い下位の侯爵家だとおもっていらっしゃるわ」


「そうだね。エヴァンス前々侯爵もその時外交官補佐で曾祖母様の輿入れのお迎えに出た際に、曾祖母様の従妹の強い希望で婚姻されたとか聞いたぞ。伯母上はそういうお話が好きだからな。それで、何故思い出し笑いを?」


「えぇ。評判は凄いのに本人はお話されるとすごく素朴で・・・・・そして純情しすぎますわね・・・」


「あぁ。君の前ではポンコツだと?」


イーヴォイェレミアスの直接的な表現に、ディオティマは目を見開きくすくすと笑いながら非難する。


「まぁ!酷い!どなたがそのようなことを?」


「クレメンスだよ。『兄上は色々と凄い人なのにディオティマ様が絡むと残念な仕上がりになるんです』と言っていたよ」


「弟君でしたら、何も反論が出来ませんわね」


くすくすと笑うディオティマは心の底から楽しそうで、イーヴォイェレミアスはにまにまと微笑む。ゆっくりとアーデルベルトの残念な話に花を咲かせながら昼食を済ませ、お茶を貰うと少し間を置き庭園を散策する。


「お手を」


ディオティマは、イーヴォイェレミアスに差し出された手をじっと見つめる。ハッとしてゆったりと手を添えると、席を立たせられる。しっかりとエスコートされて花より緑の多い中庭に出ました。


大きな声を出さなければ声が聞こえない範囲に護衛たちを少し遠ざけるとイーヴォイェレミアスはディオティマに優し気に微笑みながら問いかける。遠目には婚約者同士のささやきのようで未婚の護衛騎士たちの目は少しばかり羨まし気である。


「何か、報告があるのかい?」


ディオティマも、微笑みつつも少し照れる素振りで扇子で口元を隠しゆったりと言葉を返す。


「えぇ。リシュ姉様から。ニコラス様がお茶会デビューの頃に宰相はニコラス様の存在に気がついたようです。宰相の娘様は10歳でテオ殿下と同じ年です」


「あぁ。そうかい」


「後、馬車でベティが思い出したのですが、宰相の嫡男が15歳でベティ達と同じ年ですわ。警戒するようにクレメンスと共有するよう伝えてあります」


「うん。君たちは安全面を必ず優先するんだよ」


にこにこと微笑みながら婚約者の話を楽し気に聞く顔をしつつイーヴォイェレミアスは考える。少しの間を置き口を開く。


「ディー。アーデルベルトがリートに同行する日にリシュに今回の準備の手伝いで登城するように調整しなさい。学園に行くときはアーデルベルトを傍に置いて」


「そうですね。最初はハーシェルヒルム殿下と一緒にいらっしゃったので、私の友人の令嬢たちも最近ではエヴァンス小侯爵が一緒のことに違和感が無くなっています。他の護衛よりは自然かもしれません」


「あぁ。リートにも話しておこう」

拝読ありがとうございます。


 ~登場人物~

【愛称:ディー】ディオティマ・アンダーソン公爵令嬢(16)

アンダーソン公爵一人娘*髪:オレンジ色、腰までの長髪、ゆるウェーブがかかった髪質*瞳:青

【愛称:イヴ】イーヴォイェレミアス第一王子殿下(19)

王国第一子、第一王子*髪:金、肩下、ウェーブ、一つの三つ編み*瞳:赤紫

【愛称:ジル】ジェラルド・ハリス伯爵子息(19)【イーヴォイェレミアス 又従弟/側近(騎士)】

ハリス伯爵子息二子(次男) 髪:銀、ロング(影武者もできるようにあえて延ばしている) 瞳:紫

リズ・モール子爵令嬢(18)【イーヴォイェレミアス 側近(侍女)】

モール子爵家一子(長女)5人兄弟長女 髪:赤茶 目:瑠璃色

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