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高貴なる者の義務と放埓  作者: 島城笑美


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003 侯爵子息の哀愁

今回はディオティマ・ベアトリクスサイドの反省会かと思い気や。

ベアトリクスとディオティマは、クレメンスに引きずられるように馬車に押し込まれたアーデルベルトとエヴァンス侯爵夫人の御三方をテイラー侯爵夫人と馬車付きにて見送り、ベアトリクスの母であるテイラー侯爵夫人への報告を軽くディオティマがサラサラと済ませてしまう。


2人はその後、ディオティマの提案でまだまだ肌寒いこの時期でも温度を保たれている温室のティーテーブルへと向かった。ベアトリクスは手早く侍女達に、お茶と軽食の準備をお願いするが、きっと今日の反省会だと思い少しの不安が心に重くする。


「まったく、あの男は何を考えているのかしら?見た目と成績はよくても、人間性が駄目だとあんなに残念な仕上がりになるのね」


ディオティマのあまりの物言いに、アーデルベルトのあの話を早く止める事が出来なくて申し訳なさを感じるベアトリクスは弁解が口につく。


「ディー姉様・・・。エヴァンス侯爵子息にも何かご事情があったのかと思います。あの一面だけでお決めになるのはお可哀想ですし。お母様方のお話もなんだか怪しかったです。エヴァンス侯爵子息にも何か思惑があったのでは?と私は思いますわ」


母親から聞いた話を自身の勘違いをしており、クレメンスから聞いてたアーデルベルト様像とはかなり異なっているので、アーデルベルトも何か勘違いをして、あのような話になったのでは無いかとベアトリクスは擁護する。


「何を言っているのベティ!何の事情があるのかは、知らないけれど!私の可愛いベティにあのっ!あの様なぁ~!」


ミシミシ(あぁお貸しした扇子が・・・)


「落ち着いて下さいませ、お姉様!」


「ここにいたんだね。ベティ。ディーも久しぶりだね。元気かい?」


ディオティマを宥める事に、意識をディオティマに注視していたベアトリクスは声の主の入室に気が付かず声の方へ振り向き瞳をパチパチと瞬く。


そこには、本日は登城すると外出したはずの兄であるエーレンフリートがにこやかに手をふり入室していた。


穏やかな優しい声色と表情とは裏腹に顔色が悪い。少し疲れをみせるエーレンフリートは侍従に目くばせをして椅子の用意を促しテーブルにつく。


「リート兄様。今日は、フランチェスカ様とお会いになるのではなかったですか?」


「あぁ会ってきたよ。私もここいいかな?妹に癒されに来たら、ディーもいるなら2倍癒されるかな」


エーレンフリーとは、ベアトリクスと同じ金の瞳を少し伏せ苦笑しながらも、強引に席に着く。肩で揃えられた、シアン色の髪をかき揚げ、ため息をつく仕草は疲労を隠せない。ここまでは繕った顔で帰って来たようだが、妹と従妹の前では隠す気もない様子にベアトリクスは心配になった。


すでに座っているし、遠慮してもらうこともないので2人で歓迎すると。合わせたように連れ立って来た侍従がサッとお茶を差し出す。口を付けてホッとすると、体を少し椅子に預けた。少し無作法な仕草にディオティマが気づかわし気に少し顔を覗き込み声をかける。


「お加減が良くないのではないですか?エーレンフリート様?」


「嫌だなぁディー。他人行儀すぎるよ。昔の様にリートって読んでくれないのかい?」


気遣ってくれる従妹に、顔を緩めたエーレンフリートは軽口を叩くと、ディオティマは顔を朱に染めて苦言を呈する。


「なっ!なっ!何を仰っているのですか!?いくら従兄妹同士でも、婚約者のいらっしゃる方を家族でもないわたくしが愛称で呼ぶなんて!婚約者様がいい顔なさいませんわ!」


先ほどアーデルベルトに相手にしていた女王の様な姿と一転してディオティマは成人前の少女らしく頬を赤く染め狼狽える。ベアトリクスは昔からディオティマはエーレンフリートに弱いのでいつも通り仲良しさんだわと微笑む。


体をおこしたエーレンフリートは更に疲れ切った様に視線を落とし、出されたお茶をまた一口飲み、一つため息をつくと姿勢をいつもの凛々しい様子に戻し貴族的なにっこりとした笑顔で驚愕の言葉を落とした。


「いい顔しない婚約者がいなくなったし、かまわないよ!」


「「!!」」


「どういうことですか?お兄様?」


「ベティの婚約を結ぶ日にすまないね」


「「それは、成立しないので、大丈夫です」」


仲良し従姉妹は声もぴったりに答える。金の瞳を見開きエーレンフリートが驚くがベアトリクスは兄に詰め寄る。


「私の話も後ほど聞いて頂きます。でも、今はお兄様の婚約者がいなくなった事はどういう事ですの?フラン姉様に何かあったのでございますか?このように悠長にお茶を頂いてもよろしいのですか!?」


「あぁ。ブラウン伯爵令嬢は至って健康だよ。元気すぎたというか。なんと言うか・・・」


「「健康?元気?すぎ?」」


「ははっ2人は相変わらず、仲がいいな。こんなに発言が同調するものかい?」


「お兄様!そんな事はどうでもいいのです!ご健康なら問題無いのではないですか!来年にフラン姉様の学院ご卒業後すぐに婚姻の運びではなかったのですか?」


「ん~2人には・・・まだ、早い話というか・・・」


「なんですの!?フランチェスカ様は17歳で私の2つ上で、ディ姉様とは1つしか変わらないのではないですか!?子ども扱いはあんまりですわ」


ベアトリクスの憤慨に、エーレンフリートは目を伏せるが少し考え込むと再度話始めた。


「そうだよな。婚約白紙は話さないといけないから理由も話さないといけない・・・かなぁ?」


さらに煮え切らないエーレンフリートの発言に、いつもと様子が違う事には気がつかず苛立ちを覚えたベアトリクスは少し興奮気味に兄を再度責め立てる。


「なんですの?往生際が悪いですわ!」


「ベティ。少し落ち着きなさい。エヴァンス侯爵令息にはあんな事言われても騒ぎ立てないのに、ご自分のお兄様には厳しいですわよ。エーレンフリート様、どうしてもお話しできない事なのですか?」


「あんなこと?」


婚約が無くなった事に混乱し呆然としていたディオティマは、2人の言い合いにやっと我に返ってきた。ディオティマがベアトリクスを優しく諭し、エーレンフリートの態度をみて気遣わし気に尋ねるが、今度はエーレンフリートの眉が少し歪められ何があったのかと問うてくる。


ベアトリクスは苦笑いをしながら大したことでは無いと答えるしかできなかった。本当に婚約が破棄なのか、白紙なのか詳細を聞けてないが婚約が無くなったことに比べれば本当に大したことでは無いのだから。


「あぁ、あまり気持ちのいい話ではないのだけど・・・いずれ理由も含めて説明しなくてはいけない事ではあるしな」


「俺が話そうか?」


腰まで伸びた銀髪を肩の後ろで細工の施された髪留めでくくり、青紫の目は弧を描き楽し気な麗人がまたも突如、現れた。今度は近くに来るまで気がつかなかったベアトリクスは焦りながら、小さな音をたて席から立ち上がり口上を述べようとするが阻まれる。


「我らが・・・」


「よいよい!堅苦しい口上はいい!ベティ!我々も従兄妹だろう?城でもあるまし!叔母上の家に遊びに来た従兄様(にいさま)だろ?ほら見ろ、ディーもリートも立ち上がるどころが茶を啜っておるぞ?」


ディオティマはカップから口を離しソーサに戻すと、突然現れたハーシェルヒルムに向かって貴族的な微笑みをにっこりと返し、ビシッとした姿勢で挨拶を述べる。


「ごきげんよう。ハーシェルヒルム第二王子殿下。私のことはどうぞアンダーソン公爵令嬢とお呼びくださいませ。殿下のような高貴な方がお供もつけず、侯爵邸に侵入しましてはご迷惑でしてよ。門はあちらの方向でございますわ」


「ディー・・・。其方、リートと私への対応違いすぎないか?しかも、慇懃なのか無礼なのか・・・」


はぁ〜と溜息をつきながら、エーレンフリートの侍従が音を立てず準備した椅子に腰をかけ、淹れたての茶に口をつけていると、エーレンフリートがハーシェルヒルムに尋ねる。


「オリヴァーはどうした?」


「あぁ。そなたの母君に捕まっておる。25歳もすぎるのに婚約者どころか恋人すらいないアイツが悪い」


「あぁ〜見合い話か。母上はお好きだからな。息子と娘の婚約がなくなっても変わらないのだな」


「まぁそう言うな。愛する息子が傷心であろうから、他者で楽しんでるのではないか?ん?娘?ベティにも何かあったのか?っ聞いてないぞ!」


そんなハーシェルヒルムにベアトリクスとディオティマは曖昧に笑いかける。


「そうか。オリヴァー殿には我々の為に犠牲になっていただこう。すぐに次の婚約者の話など聞きたくない。面倒だ」


エーレンフリートの発言に、違いない。とハーシェルヒルムはケラケラと王子様らしからぬ笑い声を上げた。そんな二人の会話にベアトリクスは不思議に思い、先ほどから誤魔化されている事を聞いた。


「オリヴァー様・・・でも、悪い話ではないと思いますけど・・・お兄様の婚約が無くなったというのはどういう事ですか?理由を教えてくださらないの?」


ベアトリクスが困ったように眉尻を下げ尋ねると、思案顔のエーレンフリートをよそにハーシェルヒルムが口を開き、ディオティマも続く。


「相変わらず、ベティは愛らしいな。あぁ~気持ちのいい話では無いからな。リートが口が重くなるのも致し方ないだろう。俺から話そうか?」


「殿下にしては、歯切れの悪い話し方ですわね。本当に何があったんですの?」


茶を啜り、深いため息をついてエーレンフリートがハーシェルヒルムに目線をやると、ハーシェルヒルムは両肩を竦ませた。しかしそれとは別に、先程から気になるディオティマの発言に突っかかる。


「ディー、殿下は辞めろ!これは従兄弟同士の私的なお茶会だろう!」


「はいはい。殿下。そんなことよりリートお兄様の婚約の件です!」


「くっ!あえて、リートだけ・・・・・。仕方ない。傷心のリートに代わり私が話そう!だから、殿下呼びを辞めろ!」


「我が国の第二王子が何を言ってらっしゃるのかしら?」


「叔父上を王弟殿下と呼んでやる」


「なんで、お父様が出てくるのよ!」


「叔父上だって、甥である私に王弟殿下と呼ばれると悲しい顔するぞ!私も従妹に殿下呼びされたら悲しいと愚痴ってやる」


「わっわかったわよ。ハーシュ!もう!しつこいんだから」


ハーシェルヒルムの泣き落としに屈して、ディオティマは家族間の愛称を呼ぶと満面の笑みになったハーシェルヒルムが話を戻した。


「さて脱線したが、今日、我々がどこにいたか、聞いているか?」


脱線させた本人が問うと、二人のやり取りに苦笑しながらベアトリクスが答える。


「本日は・・・お兄様とお父様は、登城するようにとイーヴェイレェミアス第一王子殿下から招待頂いたと伺っております。そちらで、フランチェスカ様ともお会いになると伺いました。婚約の準備のお話かと思ってたのですが・・・。ですので、今日はお母様と二人でエヴァンス家の方々をお迎え入れましたの」


「だから、わたくしも参りましたのよ。ヘルミーナ伯母様とベティだけでは心配でしたの!叔母様って見目はキリッとされているけど少し抜けているでしょう?」


ディオティマがベアトリクスの手をそっと握り微笑み、ベアトリクスもそれに応えにっこりと笑みを返す。


「相変わらず仲がいいのだなぁ。俺も入れてくれよ!」


「冗談はいいのです。お話を!」


「いや、ディーが話の腰を折ったのだろう!」


茶化すように甘えるハーシェルヒルムにディオティマはスンッとした顔で話の続きを促す。ハーシェルヒルムが反論すると更に冷たい言葉が返ってきた。


「はいはい。大変失礼致しました。お話を!」


「お前。俺の扱い損在すぎないかぁ?・・・まぁいいか。ディーだしな」


ハーシェルヒルムは肩をすくめディオティマへの苦言を呈するのを諦めた。ベアトリクスに向き直り、話を続けた。


「そうなんだ。ブラウン伯爵令嬢関連で厄介な事があってね。兄上と私で対応していたのだよ。捜査の裏付けが出来たので本日の集まりというわけさ。婚約者である以上、エーレンフリートも関係する案件だったんだよ」


「まぁ。捜査?裏付け?事件ですの?私たち伺ってもよろしくて?」


ディオティマは、美しく整った青い瞳を瞬かせ問うと、今度はハーシェルヒルムの歯切れが悪くなった。あぁだの、ん〜だの言い始めたので、エーレンフリートが口を挟む。


「ハーシュ・・・今気が付いたか?事件については身内にのみ口外は禁止されていないが、其方の評判に関わるって事に・・・事件・・・といか、諸事情というか・・・」


「まぁ話そう・・・この事は、終わっているのか怪しい。二人にも注意喚起が必要だ」


二人が巻き込まれたら大変だから、自衛するようにと言い含めてハーシェルヒルムが口を開く。

拝読ありがとうございます!


次回は、エーレンフリートの婚約者のお話。舞台はお城に飛びます☆


今回も二人増えました。

 ~登場人物~

【愛称:ベティ】ベアトリクス・テイラー侯爵令嬢(15)

テイラー侯爵家第二子長女*髪色:桔梗色・腰までの長髪・ストレート*目:金


【愛称:リート】エーレンフリート・テイラー侯爵子息(18)

テイラー侯爵長子長男*髪:水色、肩までの長髪、ストレート*目:金


【愛称:ディー】ディオティマ・アンダーソン公爵令嬢(16)

アンダーソン公爵一人娘*髪:オレンジ色、腰までの長髪、ゆるウェーブがかかった髪質*目:青


【愛称:ハーシュ】ハーシェルヒルム第二王子殿下(16)

王国第三子第二王子*髪:銀髪、腰まのロング、ストレート(ポニーテール)*目:青紫

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