002 侯爵夫人の嘆き
反省会1です。
新たに2人新登場人物が!
「なんてことを・・・・」
先ほどまで、憧れの元ウォーカー辺境伯次女、現テイラー侯爵夫人とのひと時が殊の外楽しく、機嫌よく帰路の馬車に乗り込んだ黄金色の艶やかな髪を複雑に編み込み結い上げた頭をかかえたご婦人の低く冷ややかな声は馬車に静寂をもたらした。
使用人も後続の馬車にて付いてきているので、息子しかいない空間は完全に私的の場に、普段は垂れ目がちな目を見開き赤褐色の目は自分の息子クレメンスに注がれている。
しかし、それはクレメンスを咎めているわけではない。憧れのテイラー侯爵夫人の愛娘ベアトリクスとお見合いをした嫡男アーデルベルトの失態を聞かされたからである。そんなアーデルベルトはクレメンスの隣で、呆然と遠い目をして壁と背もたれ小石を踏む度に頭や肩を馬車内に打ち続ける事も気にせず全身を預けていた。
「あっ・・・貴方は・・・なんて・・・事を・・・・」
「うっ・・・あっ・・・」
幼少の頃、1度言葉を交わして以来に、お会いすることが出来たディオティマに、侮蔑の眼差しで見られて瀕死のアーデルベルトはいつも整えられた髪が乱れているのも気にせず、端正な顔からは色を失い、エメラルドのような美しいはずの碧色の目は虚ろに反論することさえ出来ずにいた。そんな兄に憐憫のまなざしを向けたクレメンスは母親を咎める。
「母上・・・・。母上も良くないのでは無いですか?兄さんの意向も聞かず、ベアトリクス嬢にもきちんと伝えていなかったのではないですか?ベアトリクス嬢は僕とのお見合いだと思っていたと仰っておりましたよ」
「だって!あなた!テイラー家の御息女よ!何に不満があると言うの!!ヘルミーナ様の愛娘よ!」
「だから、それは母上のお気持ちでしょう?兄上には想い人がいたようですよ。ご存知でしたか?」
クレメンスは呆れたように、自身の魂の抜けた兄をまた一瞥して母親を見つめる。母親も思うところがあったのかぐっと形の良い唇を軽く噛み歪ませる。
「僕では適任では無いのですか?テイラー家と縁を結ぶのであれば良かったのではないですか?同じ年で、生徒会でも仲良くして頂いてると話をしていたはずですが?」
蟀谷に力の入った笑顔でにっこりと微笑むクレメンスに咎められた母親は先ほどとは打って変わって少女の様に言い訳を始める。
「だって!貴方、次男じゃ無い?貴方と結婚したら我が家を出る事になるでしょう?一緒に住めないじゃない?一緒に住みたいのよ・・・」
「はぁ〜。また自分本位な・・・」
「ほらっ!それに貴方!爵位は賜るとしてもうちで所持しているのは、伯爵位じゃない???ベアトリクス様は、公爵に近い侯爵なのよ!それでは、不釣り合いではなくて?息子しかいなかったから娘がほしかったのよ!それも、ヘルミーナ様の娘なんて素敵じゃない!?」
「あぁ、本当に自分本位な・・・それを言うのであれば、彼女は王家、もしくは皇国の皇族にでも嫁げる身分をお持ちですよ。我が家も侯爵とはいえ中位ではないですか。つり合いが取れないのでは?」
クレメンスも溜息を隠せない。そんな、息子にさらに焦った様に言い募る。優雅さも微塵もなくなっている母親の姿に溜息しか出ない。
「そっ!それは!ほら!テイラー侯爵も、ほら!うちの夫、フレデリックと懇意にして・・・ヘルミーナ様もベアトリクス様のお気持ち次第と!ほら、アーデルベルトは身内贔屓を外しても人気があるのでしょう?だから、お会いしたらベアトリクス様も気に入っていただけるのかと思ったのよ!それに、お見合い自体ベアトリクス様が了承したのよ!」
今まで呆然と母と弟の会話を聞いていたアーデルベルトが母親の言い分を聞いて突然悲痛な声を上げる。
「待ってください!ベアトリクス嬢は、私のこと何とも思ってないのですか?母上、彼女が願ったと言っていたではありませんか!?見合いを了承したのと、気に入ってるのでは話が違いますよ!」
「・・・・そっ・・・そのうちね・・」
「「母上!」」
「だって、ヘルミーナ様とご縁を頂けるのよ!アードは優秀だし、優しいじゃない?ほら!見た目もいいと評判だもの!だから、ベアトリクス様も気に入って頂けると思ったのよ!」
「母上が・・・ベアトリクス嬢たってのお見合いって言うから・・・恥を忍んであんな事を言ったのに・・・私から断るわけにはいかないから・・・・苦肉の策だったのに・・・」
幼児の様な言葉使いになってしまっているアーデルベルトは綺麗な黄金色の髪が乱れるのも気にせず頭をガシガシと両手で搔きむしり、そのまま抱え首を垂れる。アーデルベルトを哀れに思いながらクレメンスは更に追い討ちをかける。
「兄上・・・。だから、兄上らしく無かったのですね・・・・・・しかし・・・いくら相手方に断って欲しいからと言ってあの物言いは・・・・無いです。
正直に話されたら、話を聞いてくれる方ですよ。まぁ・・・話をしたら、したらで告白になってましたけど・・・・。
そして、母上、お気づきですか?ベアトリクス嬢は僕とのお見合いだから了承した可能性が出てきましたよ?そこのところどう思いで?」
「・・・・・・・そんなこと・・言われても・・・・・」
「はぁ~母上の自分勝手な行動で息子2人の未来を潰したとは考えませんか?」
「「えっ?」」
エヴァンス侯爵夫人とアーデルベルトは同じ顔でクレメンスを見上げる。本当に、そっくりな二人だなと苦笑しながらクレメンスは一つの可能性を述べ始める。
「まぁ理想ですよ!妄想とも言うかもしれませんが。ベアトリクス様と僕がお見合いをし、うまくいけばベアトリクス様を介してディオティマ嬢に兄上を紹介できたかもしれないという事です」
「貴方なら、うまくいったというの?」
「まぁ、ベアトリクス嬢はあの見た目ですので勝気にみられる事が多々あります。しかし、生徒会を共にしている友人関係になると分かるのですよ。
まぁ〜高位の令嬢ですので弱い方ではないのですが、基本おっとりとした平和主義者です」
「そうだな。あんなにおっとりとした方だとは思わなかった。最初の一言で憤慨して出ていくかと思っていたのだが・・・」
アーデルベルトはクレメンスに同意し、また己の恥ずかしい所業を思い出し頭を抱える。
「ですが、王家に近しい侯爵令嬢という立場では利用しようと近づく者も多く警戒心はきちんとあります。なので、信頼出来る人はそんなに多くありません。
おっとりとした部分を隠さずに接して貰える者は少ないんです。特に男性は殿下とブラウン伯爵子息と僕とくらいで、友人として信頼して頂いてると自負しておりますよ?
殿下は従兄弟ですし、ブラウン伯爵子息はベアトリクス嬢の兄上の婚約者フランチェスカ嬢の弟君です。家族枠以外で考えると私には心を開いて頂いてると・・・・・・まぁあのような、暴言を吐く兄上よりは確実に僕の方が気に入って頂けたと思います」
「うぅ!」
「あぁ・・・・今からでもどうにかならないかしら?」
「・・・・・・・難しいのでは?本日の事の顛末をアンダーソン公爵令嬢がテイラー夫人に報告していると思いますし・・・」
深い溜息を零しながら、唸っている母と兄を横目にクレメンスは窓の外へ目線を移し遠い目になり、アーデルベルトは頭を抱え丸くなり、侯爵夫人は泣き崩れた。
しばらくすると、馬車がゆっくりととまるとエヴァンス家の邸宅の玄関前にゆっくりと止まった。そんな、馬車を待っていたかのように13歳になったばかりの少年がクレメント同じ銀の髪をふわふわと揺らし走り出したい気持ちを抑えゆったりと歩み寄り少し弾んだ声を上げる。
「お母様!お兄様!おかえりなさいませ!」
クレメンスは澄ましてはいるが、好奇心を隠せていない顔でにこにこと笑みを見せる弟の頭を馬車を降り撫でると母親へと手を貸す。正直言って兄であるアーデルベルトは今使い物にならない。
着替えする間も許さず、さぁさぁと急かす様に応接室に連れて行かれ、お茶を飲みほっとするとコンラーディンは母親に話をねだるように問いかける。
「どうでしたか?母上!レメ兄上とベアトリクス姉様のお見合いはうまくいきましたか?」
一人だけ華やかな声を上げる末弟に、ビクッと3人の視線が向かう。1番に正気を取り戻したクレメンスが問いかける。
「コディー。なぜ、僕とベアトリス嬢のお見合いだと思った?ん?ベアトリクス姉様とは?」
末弟のコンラーディンは、アーデルベルトと同じエメラルドの様な碧の瞳を瞬かせ答える。
「え?違うのですか?ルードリッヒがレメ兄上が婿に来てくれたら嬉しいと・・・・あれ?あれは、ルーの願望?」
「どういうこと?テイラー家は婿が欲しいの?ベアトリクス嬢には兄君も弟君もいらっしゃるでしょう?」
母親の質問、コンラーディンはう~んと唇の下に指をあて悩むとテイラー家の総意では無く、もしかしたら友人でベアトリクスの弟の願望かもしれないと言い添えてからコンラーディンは説明する。
「テイラー家は代々、法の番人の家門です。ですが、領地も東の帝国や海にも隣接している商業都市として発展しています。なので、代々嫡男は法務局へ出仕して次男以下は家門から出ず、嫁をとり領地経営をするのですよ。法務局は誰にでも勤められる様なところではないので次男も侯爵を名乗ることを国から認められているんです。ですが、今代は現ジークフリート様の姉君は他国へお嫁に行かれ、妹君は王弟殿下に見初められたのでルードリッヒの祖父母が領地経営をなさってるそうです」
「それは、知ってるがお前と同じ年の次男がいるんだろう?何故、ベアトリクス嬢が婿をとるんだい?」
やっと少し復活したアーデルベルトがコンラーディンに尋ねると、コンラーディンは最後まで聞いてくださいよと少し頬を膨らませ話を続ける。
「ルーは。あっルードリッヒは騎士になりたいんです。家門から出て騎士伯をとりたいと言っていました。
来年には僕らも学科を選別して通わなくてはいけないですし、この時期にベアトリクス姉様にお見合いの話が来たので妄想と願望を僕に垂れ流したのかも?と思っています。
エーレンフリート兄様も学生時代は休みのたびに領地に戻り祖父母の手伝いをしていたようなのですが、今年から成人して法務局へ入局されたじゃないですか。
我が家は3人も息子がいるので婿も出せるし、ベアトリクス姉様とクレメンス兄上は仲が良いではないですか!
テイラー家に遊びに行くと時間が合うとベアトリクス姉様は一緒にお茶をしてお話しして下さいますよ。僕もあのような素敵なお姉様がほしいです!
あっ!ちゃんと姉様と呼んでいいかは了承をとりましたからね!」
そこは、ちゃんとしてますよ。と少し胸を突き出し自慢げに話す弟が可愛くもあり、テイラー家によくお邪魔してるのかとクレメンスは羨ましくもあった。末の弟が一番テイラー侯爵家と懇意にしてることが発覚した。
拝読ありがとうございます!
次回は、侯爵家でのベアトリクス・ディオティマsideです。
登場人物が多いので、1話ごとあとがきで出てくる人を書こうかと思います。
~登場人物~
【愛称:レメ】クレメンス・エヴァンス侯爵令息(15)
エヴァンス侯爵次子*髪:短髪・銀・センターパート・ストレート*目:赤
【愛称:アード】アーデルベルト・エヴァンス侯爵令息(16)
エヴァンス侯爵家長子*髪:腰までの長髪・黄金色・ストレート*目の色:碧
リーセロッテ・エヴァンス侯爵夫人(35)
エヴァンス侯爵夫人*髪:黄金色・ストレート* 目:赤
【愛称:コディー】コンラーディン・エヴァンス侯爵令息(13)
エヴァンス侯爵三子*髪:銀髪・ボブ・ウェーブ*目:碧




