表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高貴なる者の義務と放埓  作者: 島城笑美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/55

001 侯爵子息の失態

以前に出したことがある作品ですが、後半部分に違和感があり進められなかったのできちんと設定を整理して再スタートしました。


楽しんで貰えたら幸いです。

「君を愛するつもりはない。期待しないで頂きたい」


仲の良い母親同士は互いの連れの挨拶を済ませた後、私たちはお茶をするので後で2人でお話なさいと女学生の様に部屋を出ていった。その途端、凍るように低い美声が見合いの場にふさわしくない言葉を響かせた。


つい先ほど淹れられた紅茶のカップからは柔らかい湯気の上がる。カップに目を落とし、ベアトリクスを見ることなく目の前の男アーデルベルト・エヴァンス侯爵令息は、ベアトリクス・テイラー侯爵令嬢に言い放った。


「存じております。エヴァンス侯爵令息」


お見合いの場で突然、似つかわしくない言葉を投げかけられたにも関わらずにっこりと微笑みベアトリクスは、ゆったり落ち着いた声で一言返す。アーデルベルトは腰まで伸ばされた美しい黄金色の髪を僅かに揺らし顔を上げ、ゆっくりと碧眼の目を少し見開きベアトリスを直視する。


(まぁ。初めて目が合いましたわ)


アーデルベルトは一瞬で表情を整えると、にっこりと微笑みの形に顔を整えた。高身長ではあるが中性的な美しさを持つ男性である。


「話がわかる方で助かったよ。ベアトリクス嬢は聡い女性のようだ。だから、僕の婚約者候補に選ばれたのですね。

ベアトリクス嬢にとっては残念な事なのだが、僕には想う人がいましてね。しかし、父も母も君がいいと言って聞かないのだよ」


はぁ。と大きな色っぽい溜息を落としキラキラと黄金色の髪を左右に揺らす。


(そうね。エヴァンス現侯爵と父は学生時代からの気の合う親友。お母様同士も仲が良くなったと伺ったものの、特に政治的婚姻が必要ないのだからより気心の知れた家と縁づかせたいのでしょうね)


中規模なお茶会を開催する広さがあるコンサバトリーの中、二人から向かって北側が全面ガラス張りになっており、日差しは差し込まないが柔らかい光だけが入る。そこから見える庭は冬と春の間のこの季節、春の花が咲き、昨夜少しだけ降った雪がちらほらと見え何とも変わった雪景色が目を楽しませてくれた。


ベアトリクスの背後には少しばかり離れた所に部屋を仕切る豪奢な衝立がある。そこには、アーデルベルトとベアトリクスが対面している2対の長椅子と低く品よく飾りの細工があるテーブルのセットと同じ物がある。その衝立の向こうからミシッと音が漏れた。


婚姻前の男女を2人きりは外聞がよくないので、お見合いでお二人で会話をとなっても衝立や解放された扉の続き間などに使用人や身内が必ず待機しているものであり、アーデルベルトもそれはご存じのはずだとベアトリクスは少し首を傾ける。


(あらあら。エヴァンス侯爵子息様は、侍女がいると思っているのかしら?お姉様の心証が悪くなりますわ。早く、話を進めなくては)


ベアトリクスは思考の中から、会話に転じようとしたが、アーデルベルトの話は更に続く。大人しく聞いてくれるベアトリクスのお陰で興が乗ってしまった様だった。


「僕は、ベアトリクス嬢の様な暗い配色は好まなくてね。僕の隣に合うのは、そうだな。太陽のように明るい方が合うと思うんだよ」


(そうですねぇ。私は紺色の髪色でお姉様は輝くオレンジ色ですしねぇ)


「更にベアトリクスは、面白味のない真っ直ぐだろう?私もだがね。男はともかく女性はやはり、ふんわりとウェーブがかかっている方が愛らしい」


(あらまぁ、またミシッと音がしましたわ。お姉様の扇子が心配ですわ!ですがこの方、大丈夫かしら?伺っていたのと違いますわ)


「あぁ。すまなかったね。侮辱したわけではないのだよ。それとも、初めに伝えた事が心を痛めてしまっているのかな?だが、真摯に本音を伝えたいと思ってね」


(でしたら、おっしゃらなければいいのに・・・どうしましょう。この方、耳があまり宜しくないのでしょうか?このミシミシという音が・・・聞こえないのでしょうか?)


アーデルベルトは、綺麗に整ったお顔を最大限に活かし眉尻を下げて、私の顔色を窺う様に覗き込んだ時。衝立の向こうからバキッと大きな音がいたしました。


(これは、完全に折れているのでしょうね。今度、新しい扇子を買いに一緒にお買い物にお誘い参りましょう)


「大丈夫ですわ。エヴァンス侯爵令息様のお話をきちんと伺っておりますの」


にっこりと、淑女のえみを浮かべ返事をすると更に上機嫌になった。


「まあ、ベアトリクス嬢も美しい方だし、聡い方だ。話し相手にどうしてもと言うのなら何度かお茶を交わしてもいいと思っている」


彼が話し終えると同時に衝立が倒され、奥に待機していた2人が怒気を孕みながら優雅に歩み寄ってくる。その後ろに控える使用人たちの顔は真っ青である。それはそうだ、あの衝立は結構な重量があるのだか。


(お姉様が倒されたのですか!?口元は辛うじて隠れていますが、半分の扇子では目がまったく隠れておりませんね・・・)


「なっ!なっ・・・・」


アーデルベルトは、出てきた2人の顔を交互に見ながら目を見開き驚愕している。


「まぁ、驚愕しても顔の造形はお美しいままなのですね!素晴らしいです。私も、見習いたいものですわ!」


「・・・ベアトリクス嬢・・・それは今言うことかい?」


衝立の向こうから出てきた2人のうちの男性、アーデルベルトの実弟のクレメンス・エヴァンス侯爵令息が先ほどまでの怒りを収め、呆れたように問いかける。


「な・・・なぜ!?そんなに親しげなんだ!そっ、それに、何故!ディオティマ様がなぜ?ここに!?」


「其方に、名を呼ぶ事を許してはいない」


ピシャッと扇子を閉じながら、衝立の奥から現れたもう1人、ディオティマ・アンダーソン公爵令嬢はアーデルベルトを一瞥すると、優雅に、ベアトリクスの隣に腰を降ろし、手を包むように握り込む。真っ直ぐとベアトリクスの金色の瞳を心配そうに見つめる。


そんな二人を見てアーデルベルトは、口が半開きになり顔からは血の気を失っている。


「ベティ。どうして何も言い返さないの?こんな無礼者に!」


「べ?ベティ?ど???ど?無礼?・・・なっ・・・なっ・・なぜ????」


アーデルベルトは壊れたようにがくがくと何とか声をだしているが放置である。


「ごめんなさい。ディーお姉様。話をする隙がなくて・・・」


ベアトリクスの言葉に、ふふっと声を出したクレメンスが擁護するように発言と許可ディオティマに取る。ディオティマが許すと状況を説明する。


「アンダーソン公爵令嬢。ベアトリクス嬢はおっとりとした性格ですので、あのように捲し立てられたら話す事が難しいでしょう。兄に代わって謝罪申し上げます」


弟のクレメンスの言葉に、アーデルベルトは先ほどまったく血の気を失っていた顔をかっと真っ赤にし、クレメンスとベアトリクスを責め立てた。


「なっ!クレメンス!兄に対してなんて言い草だ!ベアトリクス嬢!なぜ!ディオティマ様がいらっしゃるのか?私に婚約を断られた腹いせか!」


「其方に、名を呼ぶ事を許してはいない!そして、私の可愛いベティの名も呼ぶことも許していない!」


目を細めアーデルベルトを睨むディオティマがベアトリクスに向けた声とまったく違う低く冷たい声で言葉で言い放つ。そうなるのも致し方ない。


ディオティマは心優しい人間だが、公爵令嬢という立場からすり寄る人間は多い。一定以上の友人関係を結ぶことは難しく、一つしか変わらない従妹のベアトリクスをそれはもう可愛がっていた。


「大変驚かせてしまったようで、申し訳ございま・・・」


「そうだ!なぜ!」


ぐっと黙りこんだアーデルベルトにベアトリクスは向き直りおっとりとした口調で話し始めたが、アーデルベルトがベアトリクスを罵倒するように声を荒げ、クレメンスの「兄上!」と咎める声でやっと、はっとする。


ディオティマは、ベアトリクスに向いていた体を正面のアーデルベルトに向き直し、オレンジの美しいふんわりと波打つ髪を後ろに払い。澄んだ湖のように藍緑色の瞳は常に孤を描き、厚みのある桃色の唇は控えめに笑みを絶やさしていない。


しかし、その目の奥が笑っていないことは誰の目にも明らかでディオティマは本気でアーデルベルトに怒っている、そして威厳を持った声でゆっくりと言葉を紡ぐ。


「わ・た・く・し・の!可愛いベティが話をしておる。其方は今、何をすべきかもわからぬのか?」


自分に敵意を向けている彼女の言葉に冷静になったアーデルベルトは、混乱していた頭がようやく働き始め、やっと気がつき口を噤んだ。


「お話ししてもよろしい?」


ディオティマの威圧的な態度とは、打って変わってベアトリクスはアーデルベルトの傲慢な態度を気にも留めず。サラサラと流れる深い海の様な髪を揺らし、首を傾げておっとりとアーデルベルトに尋ねる。


先ほどのディオティマの威圧で、完全に萎縮したアーデルベルトはコクコクと首を2度ほど縦にふりベアトリクスの声に耳を傾ける。


「大変驚かせてしまったようで、申し訳ございませんでした。えっと、どこから話しましょうか」


と、頬に片手を添えおっとりと首を傾げる。艶やかな藍色の髪ときつく目じりが上がった金色の瞳は、困惑の色を表していた。見目のきつい印象からはほど遠くベアトリクスのしぐさが全てがおっとりと優雅である。


「ベアトリクス嬢。兄上から婚約の不成立を存じ上げていたのかと。なぜ、アンダーソン公爵令嬢がいらっしゃるのかと問われておりますよ」


ベアトリクスのソファの右後ろに従者の様に佇み、事の流れをみていたクレメンスがそっとベアトリクスに近づき声をかける。


「そうね。クレメンス様ありがとう」


にっこりと微笑んでクレメンスに礼をすると、アーデルベルトに向き直りやっと話を始める。


「エヴァンス侯爵令息。私とクレメンス様が同級生という事は存じでございますか?」


「へ?あっはい。存じ上げております」


ディオティマが怖かったのか、大変お行儀がよくなったアーデルベルトが答える。


「あっ!私、一応。エヴァンス侯爵令息との婚約が成立しないということは、先ほどの言葉で、はっきりとわかり、存じ上げてますとお答えしております。成立がしないことではなく、成立させる気がないであろうことを存じておりました」


「あぁ。わたくしの言葉ではっきりと分かったということでございますね」


普通に話しているとアーデルベルトも品のいい侯爵令息である。


「はい。そうです。そして、私・・・先ほどお顔を合わせてお話しするまで、お恥ずかしながら婚約者候補はクレメンス様だと思っておりました。


・・・・・エヴァンス侯爵令息はクレメンス様の付き添いでいらしたと・・・私を心配して来て下さった。ディ姉様のように・・・」


そう話す間にベアトリクスが、両の手を添えた頬はうっすらと紅色をさし、羞恥を隠すように金の目は伏せて視線を落としていた。


「あ・・・あのぉ~申し訳ないのですが、アンダーソン公爵令嬢がこちらにいらっしゃる旨を先にお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「あら?可愛い従妹のお見合いですもの!心配で参りましたの。衝立の奥に待機する役目も私が立候補致しましたのよ!」


「じゅっ・・・従妹でいらっしゃいますか・・・?」


「兄上・・・、存じ上げていないのですか?アンダーソン公爵令嬢の母君は、ベアトリクス嬢の父君はテイラー侯爵の妹君ではありませんか」


「は?そうなのか!母上が、テイラー夫人の事ばかり話すから辺境伯家の繋がりしか聞かされていない・・・」


淑女らしからぬ盛大な溜息を吐き、ディオティマは背後に控えるクレメンスに振り向き問う。


「ねぇ?貴方の兄君、大丈夫?」


「我が兄が、大変失礼を。お詫びの言葉もありません。私と家人は、貴族の繋がりを大事に考えて居ります。故に、テイラー侯爵家のご兄妹が仲睦まじい繋がりを大変尊く考えております」


「そう。弟君は、きちんとしているようね」


「お姉様、続きをお話してもいいかしら?」


「あら?ごめんなさい。お続けなさい」


「どこまでお話したかしら・・・?」


「僕が、貴方の婚約者候補だと思っていたというところまでです」


クレメンスがにっこりと機嫌良く答えるとベアトリクスは両手を合わせて思い出し続きを話始めた。


「あっ!そうですね。私、エヴァンス侯爵家のご令息とだけ伺っておりましたので、学園でも面識のある同じ年のクレメンス様だと勘違いしておりましたの。ですので、衝立の奥の役割をそのお姉様とエヴァンス侯爵家のご兄弟でどうかと・・・提案しまして・・・」


「なぜ?勘違いしていたから、立会人を私と彼が?」


ディオティマが不思議そうにベアトリクスに尋ねる。ベアトリクスは、理由を説明しようと思ったが伝えてもいいものか困った顔で、ディオティマとアーデルベルトを交互に目だけでチラチラと追う、アーデルベルトがはっとベアトリクスに彼の恋心がばれていることに気づき焦り大声で静止する。


「待ってくれ!テイラー侯爵令嬢!」


「あっはい。そうですねぇ」


「なによ?2人でわかり合って!お姉様にも教えなさいベティ?」


「「・・・」」


2人が沈黙を続けていると、思案顔だったクレメンスが突然「あっ」と声を上げ、にっこりとご令嬢2人に微笑みかけ、真っ青になった兄の静止を無視しそのまま話始めた。


「事の顛末は、兄上が烏滸がましくも、アンダーソン公爵令嬢をお慕いしておりまして、心優しいベアトリクス嬢は兄上をアンダーソン公爵令嬢に紹介して差し上げようとお考えになって立会人役をアンダーソン侯爵令嬢と我が兄アーデルベルトにと考え、お話した頂こうとしたところ、お見合い相手が兄上と本日気がついた。紹介の機会を本日失ったのですが、私とお見合いのつもりであったベアトリクス嬢も、アンダーソン公爵令嬢をお慕いしている兄上も婚約を成立させるつもりがないと踏んだベアトリクス嬢はお二人の顔合わせを改めようとしたところ、兄上のベアトリクス嬢に対する数々の暴言をアンダーソン公爵令嬢に聞かれたうえにお怒りを買い。どうしようか途方に暮れている。ということで合っておりますでしょうか?ベアトリクス嬢?」


アーデルベルトは、真っ青になりながら顔を抑え項垂れ、ベアトリクスは眉尻を下げ困ったように頬に手を当てにっこりと微笑み、ディオティマは奥歯で苦虫を嚙んだような顔になった。

拝読ありがとうございます!


時期としては、前作『憧れの人が期間限定の恋人になってくれるそうです。』の3年くらい前のお話です!後ほど、そのエピソードが混ざります。


--------

お次の話は、反省会1です。

帰路のエヴァンス一家の会話になります!


【愛称:ベティ】ベアトリクス・テイラー侯爵令嬢(15)

テイラー侯爵家第二子長女*髪色:桔梗色・腰までの長髪・ストレート*瞳:金


アーデルベルト・エヴァンス侯爵令息(16)

エヴァンス侯爵家長子*髪:腰までの長髪・黄金色・ストレート*瞳:碧


【愛称:ディオ】ディオティマ・アンダーソン公爵令嬢(16)

アンダーソン公爵一人娘*髪:オレンジ色、腰までの長髪、ゆるウェーブがかかった髪質*瞳:青


クレメンス・エヴァンス侯爵令息(15)

エヴァンス侯爵次子*髪:短髪・銀・センターパート・ストレート*瞳:赤

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ