029 王子殿下の知謀
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「皆、急ながらの招集に応えて貰い感謝する」
陛下に呼ばれてから三日後、大会議室に皆を招集したイーヴォイェレミアスは集まった面々の顔を見ながら声をかける。
イーヴォイェレミアスとハーシェルヒルムとリシュエンヌと其々の側近に加え、ディオティマ、エーレンフリートとベアトリスのその弟のルードリッヒ、アーデルベルトとクレメンスとその弟のコンラーディン、メルヴァンとニコラスのブラウン伯爵兄弟になった。
殿下方の側近たちは厳選されているとはいえ、リシュエンヌ王女殿下の離宮の中で最も広い部屋にお茶会用の円卓をさらに大きな円として並べた席が準備されるほどの大人数となった。
陛下と宰相に、城の他の者は忙しいのでと歓待の席の采配をイーヴォイェレミアスに任されたのは、イーヴォイェレミアスにとっても好都合だった。彼らが抱えている問題も国の重要な事であるにも関わらず、この若い面々で動かなくてはならない。
イーヴォイェレミアスの相手は、父である国王陛下。あちらの陣営の貴族はだいたい把握してきたが完全に絞り込めてるとも言えない今、出来るだけ信用のおける者のみで情報を集めたいと考えていた。
大人たちで事情を知っているのは、首謀者に仕立て上げらている王弟殿下、若き辺境伯に加え、エーレンフリート達の父であり法の番人であるジークフリート・テイラー侯爵、クレメンス達の父であり、テイラー侯爵と親しい外交官のエヴァンス侯爵と母方の祖父である前ストゥワート公爵。イーヴォイェレミアスの補助官吏を努めているメルヴァンとニコラスの父、ブラウン伯爵と限られている。
しかし、今どのように陛下が動いているか完全に掌握出来ていない中、大人達は表立って集まることが出来ない。子供達経由で情報の交換と密かな伝手を使いそれぞれが情報収集と証拠片眼に力を注いでいる。
イーヴォイェレミアスは、集まった面々に向かい国王陛下からの勅命と宰相の説明を丁寧に説明した。そして、陛下たちの思惑の決行はハーシェルヒルムの誕生会ではないかという予測まで言い終えると、会場は重い沈黙が広がる。リシュエンヌとエーレンフリートは其々にこめかみを抑えたり、眉間を延ばした。深い深い溜息が零れる。
「まさか、自分の欲の舞台に息子の誕生会を使おうと考えるなんて・・・信じられない人だわ・・・」
「まったく頭が痛い。ハーシュが留学から無事に帰って来た祝いも込めて行う会だろう!」
リシュエンヌは可愛い弟を蔑ろにされた怒りと悲しみを、エーレンフリートは仲の良い従弟を軽んじる陛下の行動に怒りを顕わにする。そんな二人を当事者であるハーシェルヒルムが窘める。
「しょうがないよ。今回、陛下の50周年の祝いが迫っているから私の誕生会は侯爵以上と主要な役職に着く伯爵家の高位貴族のみの限られた招待となってるんだ。犯意を断罪するのに都合が良かったんだろう」
「下位貴族の子息が騎士になっている場合。多くが辺境伯に着任している。・・・からでしょうか?」
アーデルベルトの問いに、イーヴォイェレミアスはその通りだと答える。更に言葉を続ける。
「更に、高位貴族は国王派が大体を締める。宰相周辺の貴族だな。王弟殿下を慕う者もいるが陛下の手前表立っては公表していない。きっと、高位貴族は全てが国王派だけなんだろうと陛下は考えているだろう」
「高位貴族こそ、思惑を悟らせないよう立ちまわるのに長けているのにね」
やれやれ、いつもの陛下なら気が付いて警戒しているはずなのに恋という物は怖いね!とハーシェルヒルム派茶すように付け加えた。
イーヴォイェレミアスは、陛下に勅命を受けた他国の歓待の件。その日程により、女性陣へと目を向けて真摯に助力を請う。
「そこでだ。リシュ、ディー、ベティ其方ら三人には、離宮の部屋の手配をしてほしい。私たちが他で動くことはもちろんの事、部屋などを整える事が不得手な我々が行うよりも有能な君たちが離宮を整えてくれる方が滞りなく準備を早急に終えることが出来ると思う。ベティには私の女性側近を付けよう。テイラー夫人にも御助力頂けるか?」
「はい。殿下。母は喜んで行うと思います」
ベアトリクスは臣下の礼を尽くし柔らかく微笑み答えた。そんなベアトリクスにイーヴォイェレミアスは茶化したように呼び方に言及するとディオティマが反論する。
「ベティー、イヴ兄様では?」
「イーヴォイェレミアス第一王子殿下!婚約者が確定しているのです!従妹であっても公の場で愛称呼びを求めるとは、おやめ下さいませ!」
「では、ディーがイヴと呼んでくれるかい?」
「いい加減になさいませ!私も、公の場では愛称でお呼びしません!」
「ほう。私的な場では呼んでくれるのか」
「うっ・・・・」
イーヴォイェレミアスとディオティマのいとこ同士とも婚約者ともとれない気安い掛け合いを見て。先ほどまで、緊張で強張っていたルードリッヒ、コンラーディン、ニコラスまでも、クスクスと笑いを堪える様に体を揺らした。学園に入学したばかり13歳の子らにはやっと気安く見えた。
そんな、3人に青紫の瞳を細め眺めていたイーヴォイェレミアスは一瞬優しく微笑み。真面目な顔に戻す。今度は3人へと話し始める。ルードリッヒたちは背筋を延ばしビシッと音が聞こえそうなほど姿勢を正した。
「今回、学園に入学したばかりの君たちまで招集したのには理由がある。危険な事かもしれないが三人でお互いの屋敷を遊び尋ね伝令役を願いたい。こうやって、招集をかけることは叶ったが頻繁に行う事は出来ない。そこで君たちに活躍してもらいたい。
これは兄弟が動く君たちの安全を考慮している。必ず、2人か3人で行動するようにしてもらいたい。君らの家の御者も入れ替える。私たちの近衛から御者へ扮し護衛に当たりたいと考えている。これは念のためだ。
陛下は今、君らの様な学園に入学したばかりの子まで警戒はしていないだろう。更に、ニコラスが入ればその警戒は更に緩むと思われる」
最後の方は、ニコラスを気遣いながらもどうしても声が固くなってしまった。そんな、イーヴォイェレミアスへ「発言をお許しください」とニコラスが口を開く。イーヴォイェレミアスが許すと答えるとニコラスは話を続ける。
「その役目、謹んでお受けいたします。元より一人でも殿下方のお手伝いが出来ればとエーレンフリート様へ進言していた次第にございます」
「もちろん。イヴ兄様の手伝いなら俺もやるよ!」
「若輩の身ですのでお役に立てるか分かりかねますが、精一杯努めさせて頂きます」
従弟であるルードリッヒが軽い口調で、なぜ僕がここに?と疑問を持ちながらアーデルベルトとクレメンスという自身の兄たちがしっかり巻き込まれているのを理解したコンラーディンに至っては初対面の高位貴族を前に驚くほど堅苦しくニコラスに追従した。
そんな3人に微笑むイーヴォイェレミアスは、緊張してお茶も飲めない二人の為に別室で休む様ルードリッヒに頼むと、ルードリッヒはテイラー兄姉にそっくりの金の瞳をキラキラさせて承りましたと元気よく退室した。
「さて、リシュ。離宮の手配も頼むがこれからの話も一緒に聞いてくれるか?」
「あら?お兄様仲間外れは駄目よ。あの子たちに知らせないのはあの子たちを守る為でしょうけど、私たちがうまく立ち回るにはお兄様たちの同行をしらなくてはいけないわ」
「ありがとう」
イーヴォイェレミアスの投げかけに答える妹に感謝しかできなかった。父親と相対するイーヴォイェレミアスにとって弟妹が自身の味方になってくれることを何よりも心強いと思っている事をこの弟妹はどれだけ知っているのかと感慨深くなった。そんな、イーヴォイェレミアスに同じ年の従兄弟に言葉は辛らつに刺さる。
「感動してないで、さっさと話しを続けるよ。時間は有限なんだから」
「うぐっ。リート冷たい」
「そういうのは、子供らが退室したんでもうよろしいです。報告と役割を決めていきましょう」
「・・・・分かった」
どっちが立場が上なのだろうか?と疑問になるやりとりをすませるとイーヴォイェレミアスは顔を引き締めて続きを話し始めた。
「こちらとしては、ナサニエルやクレメンスが持ってきた証拠が有力だが、その証拠固めと北のキャウトィランヴ国の侵攻を抑えたい。後、陛下側の人間も洗い出しておきたい。何かいい案はあるか?」
「兄上、私は証拠集めの方に参ります。城を良く出ている私の方が不自然では無いでしょう。しかし、私の護衛騎士は、宰相の寄子の人間が多いです。市井に行くときはオリヴァーとナサニエルを連れ立ちますが、腕が立って機転の利くエヴァンス兄弟どちらかを同行させたいと思っております。いかがでしょうか?」
「では、クレメンスを同行させて下さい」
「何故だ?リート。クレメンスはお前と同行した方がいいのではないか?」
「一つはクレメンスは、ベティーの婚約者なので我が家に出入りが出来ます。なので、ハーシュとの情報交換の為にもクレメンスとハーシュが一緒にいるのは都合がいい。
二つ目に、ナサニエルがハーシュの側近にクレメンスがほしいと明言してますから勧誘中とでも言えばいいでしょう。
三つ目に、私は辺境伯と北のキャウトィランヴ国への対策をしたい。可能であれば主要人物を捉えたいと思っております。ですのでアーデルベルトは、私と同行してもらいたい」
「・・・リート、お前、今不審な事、言わなかったか・・・?」
「不審?捉えたいですか?すでに、前ストゥワート公爵にも辺境の叔父上とも計画を立てておりますよ。アーデルベルトの帝国との繋がりがあればさらに円滑に確実に行われると思いますよ」
エーレンフリートは、にこやかな笑顔をイーヴォイェレミアスに向けるが周囲はベアトリクス以外、青い顔になった。
「お前、誰を捕まえるつもりだ・・・・?」
「ふふっそれは、おいおい罠にハマったらお教えしますよ。私、負ける戦はしない主義ですので」
魔王のような綺麗な顔の微笑みに、皆が一斉に目をそらした。そんな中、一人だけ慣れているベアトリクスはエーレンフリートに注意する。
「お兄様!無理は駄目ですよ!アーデルベルト様はもちろんお兄様も怪我などなさいませんよう気を付けて下さいまし!」
「あぁ。わかったよ。ベティが悲しむような事は絶対に起こらないから安心して」
先ほどまでとは打って変わって、柔らかい声色になったエーレンフリートはベアトリクスに人が変わった?という程優しい眼差しを向ける。
「わかった。クレメンスがハーシュと、アーデルベルトはリートに同行してもらいたい。かまわないか?」
「「はっ!御意に」」
次々と皆の配置が決まっていくなか、居心地が悪そうにメルヴァン・ブラウンはゆっくりと手を上げた。周囲の視線が一斉にメルヴァンに向かうとヒッと小さく声を上げたメルヴァンは上げていた手をシュッと下す。
「あぁ。メルヴァン。其方にも頼みがある。聞いてもらえるか?」
「はいっ!」
突然の声かけに立ち上がり返事をするメルヴァンにイーヴォイェレミアスは苦笑し、着席するようにと促す。
「其方には、集まった情報を書類にまとめてほしい。基本的にパトリックと登城してパトリックと他の執務をしながらこの件の情報をまとめる事になる。司法庁の叔父上には話を通りてる。事務作業向上の為、短期で父親の補佐をするという事でな」
学園を卒業し、色々な部署へ研修を終えたメルヴァンは現在、司法庁の事務局で働いている。言わばテイラー侯爵の部下である。ブラウン伯爵はイーヴォイェレミアス殿下付きの官吏になるのでイーヴォイェレミアスの近くで仕事をすることになった。通常業務の延長の様な仕事に落ち着きをとり戻しためメルヴァンはイーヴォイェレミアスへ冷静に確認の質問を返す。
「はい。つまり、今までとあまり変わらず、父に着くという事でよろしいでしょうか?」
「そうだ。だが、執務室は味方だけではないかもしれない。パトリックと連携し上手く執務をこなしながらの書類の作成になる。手間をかけさせるがこれは、文書作成を得意をする其方らにしか頼めぬ。不備があってはどこをつかれるかわからぬからな」
イーヴォイェレミアスの頼みに、ホッとしたような顔になったメルヴァンは気合を入れなおし真っすぐにイーヴォイェレミアスを見据えにっこりと微笑みを浮かべ答える。
「得意分野でございます。拝命承ります」
「リシュ。其方から要望があるか?本来ならここにいる全員で取り掛かるべきことを其方たちに回すことになるが・・・」
「リズもユリアーナ叔母様もいるのでしょう?むしろ、人数が多いと纏まる話も纏まらなくなるわ。問題はマリアよね」
「リシュの侍女長か、どこかに動かしても良いがアレは陛下の間者だろう?動かせば、新たな間者を立たされないか?」
「ハニートラップでもかける?」
呻く二人に、ハーシェルヒルムが楽し気に答える。二人は一旦、エーレンフリート、アーデルベルト、メルヴァンに目線を投げて二人で目を合わせ同時に二人で首を横に振る。
「マリアはかなり打算的なの」
「高位貴族の嫡男にしか愛想がよくない」
「高位貴族の嫡男は、ハニートラップには向かなそうだわ」
拝読ありがとうございます!
~登場人物~
【愛称:イヴ】イーヴォイェレミアス第一王子殿下(19)
王国第一子、第一王子*髪:金、肩下、ウェーブ、一つの三つ編み*瞳:赤紫
【愛称:リシュ】リシュエンヌ第一王女殿下(18)
王国第二子、第一王女*髪:金、腰下、ウェーブ*瞳:碧
【愛称:ハーシュ】ハーシェルヒルム第二王子殿下(16)
王国第三子第二王子*髪:銀髪、腰まのロング、ストレート(ポニーテール)*瞳:青紫
【愛称:ディー】ディオティマ・アンダーソン公爵令嬢(16)
アンダーソン公爵一人娘*髪:オレンジ色、腰までの長髪、ゆるウェーブがかかった髪質*瞳:青
【愛称:リート】エーレンフリート・テイラー侯爵子息(18)
テイラー侯爵長子長男*髪:水色、肩までの長髪、ストレート*瞳:金
【愛称:ベティ】ベアトリクス・テイラー侯爵令嬢(15)
テイラー侯爵家第二子長女*髪色:桔梗色・腰までの長髪・ストレート*瞳:金
【愛称:ルー】ルードリッヒ・テイラー侯爵子息侯爵子息(13)
テイラー侯爵長子長男*髪:薄紫、短髪 ストレート*瞳:青
【愛称:レメ】クレメンス・エヴァンス侯爵令息(15)
エヴァンス侯爵次子*髪:短髪・銀・センターパート・ストレート*瞳:赤
【愛称:アード】アーデルベルト・エヴァンス侯爵令息(16)
エヴァンス侯爵家長子*髪:腰までの長髪・黄金色・ストレート*瞳:碧
メルヴァン・ブラウン伯爵令息(22)
ブラウン伯爵令嬢一子(長男)*髪:オレンジ色、ストレート、ボブ*瞳:紫紺色
【愛称:ラス】ニコラス・ブラウン伯爵令嬢(13)
ブラウン伯爵令嬢四子(三男)*髪:銀、ストレート、ボブ*瞳:紫紺色




