027 第一王子の艶笑
人間臭い人間が好きです。
良くも悪くも。
「はぁ~~~~」
「殿下。はしたないです」
先ほどまでディオティマの座っていた向かいのソファーを眺めながら長い足を放り出し、煌めく金のふわふわとした髪をかき上げ、長く重いため息をつくイーヴォイェレミアスに、苦笑いをしつつ婚約式の要項とディオティマと話し合った資料をまとめながらハイムンドは、苦言を呈する。
ここ数日のイーヴォイェレミアスの苦悩を間近で見ている側近たちは少なくとも弟や婚約者と対立する事が無くなって皆がホッと安堵を共有していた。トビアスはイーヴォイェレミアスの背後の定位置に立ちながら感慨深く言葉をこぼす。
「私は、安心しました」
「何がだ?」
「殿下も人間だったのですねと」
「ん?何がだ?」
「あれだけ、執務を裁く殿下は何か得体の知れないものかもしれないと疑いは初めて居たところでした」
「私は人間だ!弟と従妹の幸せを応援することもできない。無力な人間だ」
今度は、前に項垂れるイーヴォイェレミアスもを見て、側近たちは揃って苦笑する。本当にこの人は公私が全くの別人ではないかと疑えるほどはっきりとしている。
「私はそんな殿下に今までよりも仕えていきたいと思いましたよ」
「そうですよ。ハーシェルヒルム殿下も素晴らしい方です。己で幸せを掴めるでしょうし、アンダーソン公爵令嬢は殿下が、今から良い関係を築いて行けば良いのではないですか?」
「恋が成就したとしても、幸せになるかは分かりませんよ・・・・・」
ジェラルドだけ、重苦しい雰囲気になっていた。ブラウン伯爵令嬢との今後の見通しが立たない為、何とも言えない立場なのだろう。一時は想った人だが今はしっかりと幻滅している。しかし、殿下からの罰でブラウン伯爵令嬢が望むのなら結婚をせよと言われている。彼女が何を選ぶのか。選んだ後にどんな振る舞いをするのかはわからない。皆の憐憫な視線がジェラルドに向かう。その時、執務室のドアをノックする音が聞こえる。
「イーヴォイェレミアス第一王子殿下。陛下がお呼びです」
陛下の侍従が端的にさっと入室し要件を伝え、礼の形を取り、返事を待っている。否は出来ないが待つ意味は何なのだと思いながらイーヴォイェレミアスは答える。
「あぁ。分かった。向かおう」
◇◇◇◇◇◇
「お待たせ致しました。お呼びでしょうか?イーヴォイェレミアスです」
国王陛下の執務室に隣接されている豪奢な装飾品や家具で彩られた応接室へと通された。入室したイーヴォイェレミアスは臣下の礼をとると先に席についている面々を目の端に治め父親の顔を見据える。
「あぁ。其方は忙しいからな。大して待ってもおらぬ。座れ」
「はい」
執務を丸投げしている自覚はあるのか妙に寛容だと思いながらい国王陛下の向かいに腰を下ろすイーヴォイェレミアスの隣には席にハーシェルヒルムが座っており、側面の最も入口に近い末席の一人掛けのソファーにはリシュエンヌが座っていた。
「本日は、仕事を任せようと思って呼び立てた。説明せよ」
国王陛下が口火を切り短く要件を伝えると、宰相の方に片手を上げ説明を促す。すると宰相は、陛下の生誕祭までの日程を説明し始めた。
帝国の王太子殿下が、妹姫とハーシェルヒルムの交流をさせたいと書簡が送られて来たことから始まり、断れることではないので対応する旨。その際、5ヶ月後に控えている陛下の43歳の生誕祭の手配で陛下や宰相たちは忙しく、イーヴォイェレミアス王太子、ハーシェルヒルム王子、リシュエンヌ王女様方のお手をお借りしたいということだった。
帝国一団は陛下の生誕祭にも参加するが、少しの期間交流を図りたいので生誕祭より1ヶ月後ほど早めにに来訪。陛下の生誕祭への参列し1週間後に帰国をする日程だと告げられる。
それに差し当たり、帝国だけ招くのでは亀裂を生みかねない為、他の国々の方々も陛下の生誕祭へ参列のご招待状を送った。北国のキャウトィランヴ国の方は、生誕祭の2週間前から立太子する予定の第三王子殿下が滞在し、海の向こうの西の国メイシースペル国は、生誕祭の前後1週間にあちらの国王陛下がいらっしゃるとご回答頂いているという。
各国の滞在先に其々離宮のご準備をお願いしたいので、お部屋のご準備、滞在時のおもてなしの催事などの手配をイーヴォイェレミアスで行い、第一王女と第二王子にはお手伝いをして貰いたいいう内容だった。
「申し訳ございませんが、陛下の誕生祭の準備も御座いますので、早急に準備を整えて下さるようお願い致します。そうですね。ひと月をめどにお願いしたいと思っております」
「それはまた短い期間でございますね。来訪までに4ヶ月あるのに早くはございませんか?」
宰相の日程の不条理に美麗な顔をゆがめ金の眉を顰めながらイーヴォイェレミアスは発言すると、宰相は少し狼狽し、弁解をする。
「はい。大変短い期間で申し訳ございません。ですが、陛下の戴冠15周年の節目の祝いをぜひとも成功させたいと存じますので、来賓のお部屋の準備にそれほど時間はとれません。他にもお仕事がございますでしょう?つきまして、皆さまでご協力いただきたく懇願致します。
帝国の対応を婚約者であります、ハーシェルヒルム殿下。年齢的につり合いがとれますように、北のキャウトィランヴ国をリシュエンヌ王女殿下、西のメイシースペル国を王妃殿下で対応して頂きたく。統括をイーヴォイェレミアス王太子殿下にお願いしたいと思います」
「そういうことだ。其々不備が無いようによろしく頼む」
国王陛下は反論は許さないというように、一言だけつけ加えると席をゆっくりと立ち、執務室へと戻って行く。その様子に内心苦虫を噛みしめるような顔を想うが表の表情には一切出さない美麗な作り笑顔をし優雅に立ち上がった三人は執務室の部屋が閉まる前に礼をとり返事をすることが間に合った。
「「「承りました」」」
そこに残っている宰相へ退室を伝えると、イーヴォイェレミアスは弟妹二人を連れ国王陛下の区域から出て自身の執務室へ着いて来るよう促した。
◇◇◇◇◇
「なんなんだ!アレは!」
ハイムントやラファエルがお茶の準備をする中、執務室に入ってそうそうハーシェルヒルムは苛立ちを露にソファーへとドカッと座り込む。いつもなら、はしたないと苦言を述べるリシュエンヌは静かにハーシェルヒルムの横に腰を下した。
他の侍従に紙とインクの準備をしておくよう手配したイーヴォイェレミアスはハーシェルヒルム達の側面に配置された執務机に座ると先ほど、宰相が説明した事を手早く書き記す。
先ほどから何も言わず、書き物を始めたイーヴォイェレミアスの前にソファーから立ちあがったハーシェルヒルムは憤り、机バシンッと両手を付き怒鳴る。
「兄上は!何も思わないのですか!?」
「あぁいい情報と状況をたくさんくれたよ」
すると、イーヴォイェレミアスは青紫の目を細め、薄紅色の唇の端に上げにっこりと美しく微笑んだ。その笑顔に、部屋にいる側近たちまでも背筋がゾクリ凍らせた。一番最初に立て直したリシュエンヌが冷えた身体に熱を入れるようにお茶に口をつけ、一息つくと口を開く。
「情報とはなんですか?お兄様」
「あぁ。ハーシュ。座りなさい」
イーヴォイェレミアスに促され、硬直したままだったハーシェルヒルムはフラフラと元居た席へと大人しく着席した。先ほどの怒りは完全になりを潜めてしまった。その向かいにニコニコとご機嫌な笑顔をイーヴォイェレミアスが優雅に座るとお茶に口を付けラファエルに美味しいねと感想までつけた。正直怖い。微笑みのまま真剣に口を開く。
「まず1つ、宰相はあちら側の人間と確定した」
「お兄様。それはあまりいい情報ではないのでは?」
宰相が敵は全くいい情報ではない。リシュエンヌは翡翠のような緑色の目を困惑させコテリと首をかしげる。今日は編み込んできちっとした髪なのでおくれ毛だけが金糸の様にふわりと動く。
「いやぁ~、リートのリストの最上位だったが確定では無かった。自ら表してくれて非常に助かったし、あちら側の陣営を絞りやすくなった」
「まぁそうですわね・・・」
頬に手を添えてリュシエンヌも思案した。宰相があちら側となると寄家、宰相家系の親族連中は警戒対象となる。監視がしやすくなったと暗に行ったイーヴォイェレミアスは、一口お茶に口を付けカップをソーサーに戻すと右手をピースの形にし話始める。
「二つ目は、我々が集まりやすくなった。時期が短いから助っ人を呼びやすい」
これから、隣国のおもてなしの統括をイーヴォイェレミアスが行う。今まで、警戒される可能性を示唆して、必要以上に会えなかったハーシェルヒルムとリシュエンヌと会合を行うのは当たり前だし、更に期間が短いため、エーレンフリートやアーデルベルト、婚約者のディオティマ。側近でない人々を城へ呼びやすくなったとイーヴォイェレミアスは喜んだ。
「三つ目は時期だ。帝国皇太子を陛下の生誕祭の1ヶ月前に受け入れる。つまりそれまでに事態を収拾するつもりだろう。そして、北のキャウトィランヴ国の第三王子は陛下の誕生祭の2週間前に着く。リシュ最近、夜会用のドレスの購入は?」
「陛下の誕生祭用のものを1つしているわ」
「我々は何を頼まれた?」
「・・・・他国の貴賓の対応・・・歓迎の夜会の衣装を準備しなくてはいけないわ!」
「そう。宰相はリシュにキャウトィランヴ国の王太子の対応をさせると言ったが、君の衣装に言及をしていない。君の衣装になると3ヶ月はかかるだろう?
まずは衣装に手を付けなくてはいけないのにも関わらず。宰相はそれには触れず部屋の準備や催しの話しをした。まずは、お出迎え夜会があるはずなのにそれにも触れなかった」
「そうね。最低でもそれくらいかかるわ。一からなら高級な生地を手に入れるところから始まるかもしれないし、宝石もつけるのであれば手配に三か月はかかりますわ」
「でも、宰相は衣装の話をしなかった。あれは予算を割いていないのでは無く。【来賓を迎える王女の衣装】と【婚約者を迎える女性の衣装】が異なるからだ」
「そうね。来賓であれば我が国の魅力を現すドレス。他国の婚約者であれば相手方の意匠や風習を取り入れたドレスになるわ」
「そう、だから宰相は今はあえて言わなかった。リシュから問い合わせがあっても、のらりくらり交わすだろう。彼の得意分野だ。
北のキャウトィランヴ国の王子と君との婚約をするのであれば、それより前に伝え衣装の準備を後1ヶ月と半月以内に始めなくてはならない。
しかし、我々を体よく使うのは断罪前だ。私たちの地位を下げたいのであれば、一時は我々も謹慎が言い渡されるだろう。その間、我々を彼らは使うことが出来ない。
現在、あの件も抱えている宰相たちでは全ての準備を行うことが難しい。離宮の準備や催しの準備は長くても一ヶ月はかかる。全力を尽くさせる為に、御用聞きが進捗を尋ねに頻繁にくるだろうと思うよ。
そして、我々の目を晦ます為でもあるし他に時間をさけない様忙しくさせようという算段だろうな。現時点で陛下たちの動きがバレていないと想定してもこの1か月で急速に準備が整う算段なのだろう。
よって一月後から一月半の間に叔父上たちの断罪を行われる」
今まで口を閉じて少し俯きじっと謹聴していたハーシェルヒルムが突然。銀色の髪をばさりと揺らし思いついたように顔を上げた。
「その期間に俺の誕生会があります!陛下の誕生祭が控えているので、小規模に粉われる予定です。高位貴族の名家しか呼んでいませんし、俺の誕生日なのでオーランド叔父上わもちろんの事、フィンセント叔父上もいらっしゃいます」
「あぁあ。内々で治めるには1番イイ舞台だな。高位貴族が集まっているところに、不義だけを周知して徹底的に悪者とし断罪を行い。後は、身内の事だからと議会と王家で内々に済ませるという流れだろうな。少数の高位貴族ならほとんどが身内か後は発言力の無い貴族だ。了承するだろう。息子の誕生日をなんだと思ってるんだ」
「そのあたりは、あの方に期待してもしょうがありませんわ。お兄様。基本的にあの方は使える駒かそうでない駒、邪魔な駒かでしか他人を見ていないのですから」
「そうだな。ハーシュの誕生日・・・は、後ほどやろうな」
悲しそうに目じりを下げるイーヴォイェレミアスにハーシェルヒルムは思わず声をたてて笑う。
「ははっ兄上は変なところに拘りますね」
「とりあえず、帝国の王太子への知らせだな。アーデルベルトと話したい。彼には他にも頼みもある」
「1回皆を呼びましょう。離宮の手配は早い方がいいでしょう?」
「あぁそうだな」
拝読ありがとうございます。
~登場人物~
【愛称:イヴ】イーヴォイェレミアス第一王子殿下(19)
王国第一子、第一王子*髪:金、肩下、ウェーブ、一つの三つ編み*瞳:赤紫
【愛称:リシュ】リシュエンヌ第一王女殿下(18)
王国第二子、第一王女*髪:金、腰下、ウェーブ*瞳:碧
【愛称:ハーシュ】ハーシェルヒルム第二王子殿下(16)
王国第三子第二王子*髪:銀髪、腰まのロング、ストレート(ポニーテール)*瞳:青紫
ヘルムフリート国王陛下(42)
髪:銀髪、腰まのロング、ウェーブ*瞳:青紫
ノアベルト・バルヒェット侯爵(40)宰相
王家の遠縁 髪:金 瞳:青




