017 侯爵子息の疑念
人にはいろいろな面があります。
4人を見送ったリシュエンヌは楽しそうに口を開く。
「あらまぁ。子供たちは楽しそうね。ふふっ。大人だけになりましたわね。
ねぇ。私、リートの近況聞きたいわ!新しい恋のお噂を聞いたのよ。皆の口が堅いのは存じておりますが、リートが素直に話してくれないのは嫌だわ!下がってくれる?護衛騎士は2人づつかしら?エルは残りたい?リートと仲がいいでしょう?」
リシュエンヌが従兄の私的なお話が聞きたいからと、新しいお茶を入れて替えた途端に人払いをしたいと言い、学園時代からの友人と乳兄弟だからと人選をして、あの件を伏せてある側近たちを下がらせる。
王子たちは新しい恋の噂があるのか?と驚いている間に水色の髪をかき上げたエーレンフリートが溜息をつき呆れたようにリシュエンヌに向き直り先ほどまでとはまったく違う砕けた口調で問いかける。、側近の排除のための方便だと気が付いた王子は戦々恐々と二人を見る。
「リシュ。クレメンスを呼んだのはああなるって分かっていたからかい?」
「ふふっテオはおねだりするかしら?と思っていたけど、あの子たち、普段我儘言わないのよ。私からクレメンスにお願いするつもりだったわ。シアまで興味あるのは予想外よ」
「リシュ。怖いな」
「まぁお兄様!自分に関係のある人間の趣味趣向を把握するのは淑女の基本ですわ」
ふふふっと輝く金の髪を揺らし碧の瞳を細めたリシュエンヌを見て、イーヴォイェレミアスは心強いと思うと同時に敵に回してはいけないと自分の妹に脅威を感じるとは思わなかった。
「リシュ。いつも気配りをありがとう」
イーヴォイェレミアスに素直に礼を言われると思っていなかったリシュエンヌは目を見開き驚いた後、にこりと微笑んでコクリと頷く。
「姉上、耳が赤いですよ」
ニヤニヤと囃し立てるハーシェルヒルムをキッと睨み。そういうことは胸にしまうものです!と説教が始まってしまった。
「さて、時間も無い。リート何か報告があったのか?」
イーヴォイェレミアスに話を促されたエーレンフリートは、ハンスと共に得た商会の内情の事、その商会がブラウン家の連絡手段の事、今度の仮面舞踏会へのブラウン伯爵夫人の参加は確実な旨を報告する。すると商会の名を聞いたリシュエンヌが反応した。
「・・・・その商会。城へも出入りしているわ」
「なに?父上が使っているのか?」
「いいえ。高位の使用人よ侍女や侍従、屋敷に戻らない官吏なども日用品を購入しているはずよ。うちの侍女長も使っているわ」
「姉上。姉上の侍女長はあの若さで有能なのですか?」
「あぁ。父上につけられたのでは無かったか?大丈夫か?」
ハーシェルヒルムとイーヴォイェレミアスが同じ青紫の瞳を揺らし心配そうにリシュエンヌに尋ねると、彼女は楽しそうに翡翠色の瞳を細め、紅い唇は弧を描き微笑む。
「ふふっ。そうね。分かりやすくて私にとって有能ですので御心配には及びませんわ。ねぇマノン」
「左様でございますね。私を小間使いの様に用事を言いつけますので行動が全て筒抜けで御座います。大変、楽をさせて頂いております」
「「「・・・・・・」」」
「父上の趣味なのよ。ああいうお方が」
リシュエンヌは呆れたように言い捨てた。三人は何とも言えない顔になったがリシュエンヌに害が無いのであれば良いかと言うと。イーヴォイェレミアスは護衛騎士のグレーテ達にしっかり守るように告げた。
「お兄様って心配性なのね?私、ずっと女は使えないと思っていると思っていたわ」
「何故だ?」
「いつもハーシュと何やらお話されて!今回もしょうがなく私に話を持ってきたでしょう?それに、お兄様が・・・その・・・女性は使えないと話していると・・・伺ったことが・・・ありますわ」
リシュエンヌが今までの不満をイーヴォイェレミアスに訴えていると自信が無くなったように語尾が小さくなり首を少し傾けふわふわと金のかみが傾けたほうへと流れる。それは、いつものリシュエンヌらしくなかった。その様子にエーレンフリートが反応する。
「リシュ。何か変ではないか?誰から聞いたか覚えているかい?
私が1番多く仕事で顔を合わせているが、イヴが女性を軽んじる発言をしたことなどないよ?王妃殿下を尊敬しているし、能力重視すぎて家格を軽んじる事は多々あるが、女性だから仕事が出来ないなどそんな態度を何処でも取った事がないはずだよ」
「あぁ。『女性は守るべき対象であり、尊重すべき対象である』というのは、剣術を教えて下さった。スチュワート卿の教えだぞ。軽視するなどとんでもない!そんなことしたら師匠に殺されてしまう・・・」
イーヴォイェレミアスは何かを思い出した様に金の目は空を眺め遠い目になった。何かあったのだろう。そんなイーヴォイェレミアスと、同意するように深くうなずいているハーシェルヒルムへエーレンフリートは質問をする。
「イヴ、ハーシュ。真面目に考えてくれ。誰からでもいい。其々、兄弟が自身を悪く言っているという事を耳にしたことはあるのかい?」
イーヴォイェレミアスとハーシェルヒルムが考える中。先にリシュエンヌがその質問に答えた。
「私は・・・あるわ。ハーシュは私の事。女のくせに姉だからと大きな態度をしているとか、テオは私が叱っていて口うるさくて煩わしいみたいな・・・でも、直接的な訴えじゃなくて・・・誰が言ったのか思い出せないくらい・・・自然に・・・耳に入って・・・でも、少し悲しくなるような事・・・」
すると、リシュエンヌ侍女のマノンとハーシェルヒルム侍従のナサニエル、それにイーヴォイェレミアスの護衛騎士ジェラルドがよろしいでしょうか?と同時に手を上げる。それに、その場にいた全員が驚きを隠せない。
イーヴォイェレミアスが報告を促すと、ジェラルド、ナサニエルが順々に報告を始める。最後にマノンが補足した。
「イーヴォイェレミアス殿下の事は、第一王女殿下は、『先に男子として産まれた方は有利ですね』と、第二王子殿下は『腹黒で何を考えているのか分からない』、第三王子殿下『自分に興味がないだろう』第二王女殿下は『笑顔が怖い』という感じの事を言葉を変え時折耳にすることがあります。殿下がお気にされた様子がなかったのでとりあえずは放置しています。顔は覚えていますが」
「ハーシュ様については、『勝手自由に動いて何もしない』『年下のくせに王女である姉を軽視している』『兄上は強くもなく賢くもない』『軽薄でいやだ』と遠回しに、宰相補佐や執行部の何人か、会議に来る貴族の中にもわざわざ殿下の耳に入れたいように話していますね。何かの思惑を感じましたので敢えて報告しておりませんでした。所属は知っております」
「これらのお話をされるのは、モール侯爵、サンチェスト侯爵、ライト伯爵、ガルシア伯爵、マディソン子爵、エルナン男爵の血筋の者が多いかと存じます。他は又聞きで話す者もいらっしゃるかと存じます」
三人の報告に王子も王女も顔を青くして押し黙る。エーレンフリートは深く頷き。
「殿下方の特徴を掴んだ上で、夫々がうっかり言いそうで相手が嫌がる言葉を選んでいますね。そして、マノン嬢の報告の方々は北との繋がりが強い貴族ではないですか?マノン嬢、そこまで調べているでしょう?」
「テイラー小侯爵様の仰る通りで御座います」
「作為的ですね。ハーシュ、舞踏会は本当に気をつけるんだよ。あの方や夫人の思惑とは別の計画が動いているのは明らかでしょう。あの二人は利用されているのでしょうね」
「あぁ。利用されていたとしても、自ら選んで動いている。許されることではないだろう」
それにと、エーレンフリートは仮面舞踏会の会場となる屋敷の見取り図ですと、ある邸の図面を出した。全員の息を飲む声だけが響き、イーヴォイェレミアスは何処からと問うがエーレンフリートはにこりと微笑むだけで返し徐に説明を始める。
「このお屋敷は特殊でして、人が住むことは想定されず、集まりを行うために特化した作りになっています。仮面舞踏会の会場はこの大広間になると思われます。上階へ上がる階段は下働きの人間が使うもの以外は会場内にしかありません。広間は数個ありますが、その間に厨房や使用人たちが給仕するための部屋やリネン庫などがあり、夫々が独立していて表立っては入口が別になっています。しかし、隠し通路も多数あります。
密会等で利用出来るであろう休憩室は2階この辺りと、この辺り。2階まで上がると広間を通らずに外へ出る通路が数個存在します。離脱経路はここと、ここと、ここが外へ出ることが出来ます。地図を持って歩くことが出来ません。覚えて下さい。そして、この地図は今夜にでも燃やしてください」
エーレンフリートの説明に、ハーシェルヒルムとナサニエルは感嘆の声を上げる。
「リートは・・・凄いな」
「情報を得るための調査にも、下準備が大事なのですよ。行き当たりばったりは学生業だけにして下さい。今回の件は命に係わるかもしれません。慎重かつ丁寧にですよ。ハーシュ」
エーレンフリートの協力で、潜入計画は進み。証拠、証言の収集、噂の件は側近同士の情報交換を行うと話は纏まり、エーレンフリートは独自の伝手を使い、先ほどマノンの調べのついている貴族たちの動向も調べるとお茶会と称した作戦会議は解散した。
拝読ありがとうございます。
~登場人物~
【愛称:リート】エーレンフリート・テイラー侯爵子息(18)
テイラー侯爵長子長男*髪:水色、肩までの長髪、ストレート*瞳:金
【愛称:イヴ】イーヴォイェレミアス第一王子殿下(19)
王国第一子、第一王子*髪:金、肩下、ウェーブ、一つの三つ編み*瞳:赤紫
【愛称:リシュ】リシュエンヌ第一王女殿下(18)
王国第二子、第一王女*髪:金、腰下、ウェーブ*瞳:碧
【愛称:ハーシュ】ハーシェルヒルム第二王子殿下(16)
王国第三子第二王子*髪:銀髪、腰まのロング、ストレート(ポニーテール)*瞳:青紫




