015 侯爵子息の多忙
ハーシェルヒルムは実行担当であれば、
エーレンフリートは暗躍・・・根回し担当です!
「はぁ~休みが欲しい・・・」
「・・・・私もです」
エーレンフリートは、父親のいないテイラー侯爵家の執務室で襟首を緩め椅子に深く座った。上半身を前のめりに出し自身の水色の髪を肘を机に立てた手でかきあげ頭を抱えながら愚痴をこぼす。
執務机向かいに立つ侍従は同意するはするが、一糸乱れのないキチッとした姿勢で苦言を述べる。
「だらしないですよ。姿勢を正して下さい」
「ぐっ・・・少しは労われ!」
「あなたが忙しいと同様に私も忙しいのですが?」
「そうだね。ハンス。この案件が落ち着いたら休暇を取るといい」
片手を頭から話しパタパタとその手を振りながら労う。それには、ありがとうございますと答えるが、報告していいですか?と仕事を続けるようだ。この乳兄弟でもある侍従はいつも容赦がない。
「クレメンス様からお教え頂きました学園に文房具の販売に出入りしている商人ですが、ニコラス様のお兄様がお土産を購入される菓子店に隣接された商会からの出向でございました」
「あぁそれは予想通りだな」
クレメンス達と話していた時点でそう疑っていたので同意するとハンスは更に調べた事項の説明に入った。
「えぇ。さらに調べさせて頂いたところ、店主は我が国の昔からの商人なのですが店員に異国の者がいるそうです」
「移住でこちらの国で働く事は珍しくもないだろう?」
「はい。しかし、店主より偉そうだとか」
「ほぉう」
それは、かなり怪しい。店主は我が国の人間にさせて実態牛耳っているのは異国の人間ということか。
「仕事時間に姿が見えなくなることも多々あるそうです。それが、5人ほどいるそうです」
「ははっ多いな。何処からの情報だ?」
ハンスはにっこりと微笑む。こげ茶の髪に新緑の瞳の侍従は地味目の色合いだが、顔の均整のとれた親しみやすい顔である。人好きする笑顔を振りまき巧みに人々に近づいて情報を得てくる。正直怖い。尊敬はしているし、信頼もしているが怖い。深くは聞かない。
「信用できる情報と言うことだな。異国とは何処か探る必要があるか・・・」
「いえっ。分かっております。北のキャウトィランヴ国でございます」
「何故、小出しにする!その商人は仮面舞踏会へ参加・・・」
「しておりますね。むしろ、主催者を支援する側みたいですよ」
「おいっ!なんで、重要な事を後から出すんだ!」
ハンスは更ににっこりと笑みを深め、楽しいからですと宣った。完敗だ。きっとこの多忙に彼も鬱憤がたまっているのだろう。しかし、その鬱憤を主で発散するのは如何なものかと思うので辞めてもらいたい。イヴから情報報酬は高めに貰って報酬を上げようと誓った。
◇◇◇◇◇
エーレンフリートは城内を歩きながら考える。仮面舞踏会まで後残すところ3日になっていた。情報を交換しなくてはいけないが、王子殿下方と正式な面会をして頻繁に会っていると探られるとよくない。最終手段として、舞踏会前日にハーシェルヒルムがテイラー邸に気まぐれに遊びに来る予定ではあるが出来る事なら早めに打合を済ませたいと頭を悩ませていた。
すると、前方から集団が歩いてくるのが見えた。この回廊は城内の各部の執務が行われている棟から王族の住まう王宮を繋ぐ回廊であり、王族及び王族の間近で仕事を行う人間のみ利用する回廊であった。
判官の補佐の仕事で法務部から王宮管理部へ向かった帰りのエーレンフリートは端に寄り頭を垂れる。
「あら?エーレンフリートお久しぶりですね」
突然、集団はエーレンフリートの目の前で止まり、美しく穏やかな声がエーレンフリートにかけられた。
頭を少し上げるとそこには蜂蜜色に輝く黄金の髪は真っすぐに腰のあたりまで長く伸ばし、王族特有では無く母親譲りの翡翠の目を穏やかに細めた我が国の第一王女リシュエンヌが微笑んで凛とした姿で立っていた。その後方に立つ護衛騎士たちと侍女の1人は素性を知っているのだろう。にこやかに微笑んでいるが、先頭に立っていた侍女1人だけはこちらを不快そうに睨んでいる。
そんな、彼らの態度に違和感を抱きながらエーレンフリートは金の瞳を納めた形の良い目を細め爽やかな貴族の微笑みを返し、お久しぶりですと短く挨拶を返す。そんな、エーレンフリートに年嵩の先頭に立っていた侍女が眉間に皺を寄せながら静かに冷たい声を発する。
「なぜ、貴方の様な人がこの回廊にいるのですか?!王族の為の回廊でございます。あなたが使うようなことはないかと!」
何を言っているのだろうか?それでは、なぜ貴方は歩いているのかと聞きたいがここで侍女長とは揉めたくない。どうしたら、良いのかと思い悩むエーレンフリートを見て侍女長は何を思ったのかにやりと笑い平伏するように言う。流石に平伏を強要されるような立場でも何か事を起こしたわけではない。従ってしまうのはあまりに外聞と今後の仕事に支障を来すと口を開きかけたところ思わぬ声がそれを遮った。
「あら?リートは判官でしょう?お仕事で王宮にいらしてたのよね?」
リシュエンヌ自ら、リートがここにいる理由を愛称を交えて述べた。侍女長はリシュエンヌを振り返り目を見開く。何故、エーレンフリートの役職を知っているのだと思っているのだろう。この侍女長は最近、配属されたと聞いた。陛下の命だろう。
「判官は今はテイラー侯爵様でしょう?このような子供ではないはずですが?」
「あら?うっかりしていたわ。今はまだ、判官補佐でしたね」
リシュエンヌは、エーレンフリートににっこりと微笑みかける。糾弾していた相手を姫が庇うのが面白くない侍女長は突然とんでもないことを言い始めた。
「補佐が、王族宮に何の用ですの?何をしに来たかおっしゃいなさい!王族宮のことで私が知らないことなどあっていいわけがありません!」
この侍女は、大丈夫だろうか?確かに侍女長とは言うがあくまでリシュエンヌの宮の侍女長である。何故、王宮のことを全て知れるのだろうか?
「大変申し訳ございません。法務部の件にて陛下にご連絡があり日参した次第でございます。王女宮の侍女様にお伝えできることではございません」
エーレンフリートが最もなことを言っているのだが、判官補佐を判官の小間使いだと勘違いした侍女長はまだ丈高にエーレンフリートに詰め寄る。実質、背の高い彼に近づくと威圧感を感じるので距離は詰め寄らないが前のめりで捲し立てた。
「なんてことを仰るの?姫様を侮っていますの!?あなた!!名を名乗りなさい!王女に無礼を働いたと法務部に直訴致しますわ!」
彼女は何を言っているんだろうか?エーレンフリートだけではなくその場にいる侍女長以外の人々がこんなに困惑しているのがわからないのか?なぜ、彼女は侍女長という役職で働いているのか?そんなことを考えているとさらに叫び声が響く。あまり、目立つのはよろしくない。きちんと答えなくてはとエーレンフリートは挨拶の礼をとる。それは、優美で高位貴族の所作であり王族に次ぐ家紋の人間であることを表していた。
「テイラー侯爵が長子。エーレンフリート・テイラーと申します。テイラー小侯爵で通っております。よろしくお願い致します。侍女長様のお名前もお伺いしてもよろしいでしょうか?」
エーレンフリートの紹介に顔を真っ青にした侍女長は口をハクハクとしている。彼女は伯爵家の出であり、エーレンフリートを小間使いと勘違いしているので下位の貴族だと侮っていた。そして、かなり混乱した彼女はさらに暴言を重ねる。
「なっ!なっんで!侯爵子息が伝令なんて仕事をしているのよ!」
「ふふっ。だってリートは次期判官ですもの!法務部の長。だから、法廷の日程を陛下の侍従と打合せに来たのではなくて?ねぇ。リート?」
「・・・・はい。左様でございます」
「姫様は何故、そんなにお詳しいのですか・・・・?」
「え?さっきから何の関係もない人間を愛称で呼ぶと思っているの?リートは従兄よ!」
侍女長の更に青みを強くした顔になり口を半開きにしたまま固まった。そして、仕事のことは侍女長にわざわざ教える必要は無いが、判官もしくは判官補佐が王宮に来る理由は一つだ。裁判は基本的に判官が行うが、高位貴族の裁判は陛下に同席してもらわなくてはならない。裁判の日を陛下の予定に合わせて組みに来る以外に用件は無い。王宮や法務部の人間であれば誰でもしっている事である。侍女長は、青くしていた顔を今度は真っ赤に染め上げキィッとリシュエンヌを睨み返し声を上げる。
「姫様は存じていらっしゃったのでしたら何故、私を止めないのですか!?」
無茶を言う。支離滅裂である。リシュエンヌが困った子を見る目で見ていると、今度は護衛騎士たちに向き直り。さっきから愛称で呼んで気安く話しかけてるからわかるわよねぇ?と聞くと護衛騎士たちはコクコクと頷く。
「私を騙して楽しんでいらっしゃたのね!」
「先ほどから貴方はなにを言っているの?貴方の態度こそ不敬ではなくて?」
先ほどまでのコロコロと楽し気に話をしていた態度をコロっと変えリシュエンヌは侍女長を見つめる。侍女長が青い顔になり口をハクハクと開け閉めして何とか反論する。
「そのような態度を私に取るなんて、陛下へ報告致しますよ!」
その言葉にリシュエンヌは一切の感情を無くした顔になり、冷たい目で侍女長に答える。
「どうぞお好きに、それがあなたのお仕事なのでしょう?
でも、『私が高位貴族に難癖をつけたのを、姫様たちは知っていたのに止めなかったのです!』と報告でもなさるの?」
「えぇ!そう申し上げて参ります!私は失礼します!」
バタバタと淑女とは?という所作で怒りを露にし侍女長は去って行った。姫以外のその場に残された者はポカーンとなるしかなかった。
「リシュエンヌ王女殿下・・・彼女は本当にあのような事報告するつもでしょうか?」
「さぁ。分からないわ!冷静になって留まるか・・・もしくは・・・・」
リシュエンヌは言葉を止めると、もう一人いた侍女に目くばせをして侍女が頷くと、未だ軽く放心状態のエーレンフリートに声をかける。
「ねぇ!リート!」
「はい。なんでございましょうか?」
「明日の午後は丁度、先週あまり時間が取れなかったお兄様の采配で兄弟の親睦お茶会をするの。シアがお昼寝の時間にするなんて酷いわと言ってね。時間をあけて出席なさいな。ベティは婚約したのでしょう?ベティと婚約者も連れてきなさいな。それで許してくれない?」
「よろしいのでしょうか?」
リシュエンヌが侍女をも一度見る。
「問題ございません。テイラー家とアンダーソン家の方々ならいつでもと殿下方も仰っておりました」
侍女というものは本来こういうものだよな。とエーレンフリートが思っていると。
「そういうわけだからリート!明日のお茶会にいらしてね!命令よ?」
「御意!」
リシュエンヌはエーレンフリートの返事に満足し、コロコロと笑いながら自身の部屋の方へ帰って行った。
拝読ありがとうございます。
誤字・脱字ご報告いつもありがとうございます!
めげずに読んで頂けると助かります!
~ 登場人物 ~
【愛称:リート】エーレンフリート・テイラー侯爵子息(18)
テイラー侯爵長子長男*髪:水色、肩までの長髪、ストレート*瞳:金
ハンス(19)【エーレンフリート従者】
テイラー家家令の息子。 髪:こげ茶 目:深緑
【愛称:リシュ】リシュエンヌ第一王女殿下(18)
王国第二子、第一王女*髪:金、腰下、ウェーブ*瞳:碧




